Act 1 二人は一体共同体?
―1―
「では、シュウ。お主は本当に異世界から来たのじゃな?」
俺は今、エルフの長老(見た目もすごいお爺さんだが、年齢も一万歳を超えるらしい)の前に正座させられ、質問に答えさせられていた。
しかも、妙な真似はさせないためか、両手を後ろでガッチリと縛られている。
周りにはたくさんのエルフ(お偉いさんだろう)も正座しており、俺たちの話を聞いていた。
さっきの二人の男女とフィユもいる。
「ええ。間違いないと思いますよ」
長老も“ニホン”という単語は知らないらしいから、やはり俺は本当に異世界に来てしまったのだろう。
あー足が痺れてきた…。手も感覚を失いつつある…。もう一時間半になるぞ。
その様子をフィユが気の毒そうに見ている。
あぁ、俺に優しいのはフィユだけだな。ホント惚れそう。
「…となると、我がひ孫、フィユのパートナー決定じゃな」
「は?パートナーってなんすか!?てかひ孫!?え、フィユってそんな偉い人だったの!?」
なんてこった、新事実発覚じゃねーか!しかもパートナーってなに!?
「落ち着くのじゃ、シュウ。説明する」
「は、はぁ…」
よし、落ち着こう。深呼吸、すぅー、はぁー。よしOK。
「…お願いします」
「うむ。まず、フィユはわしのひ孫じゃ。要はいずれの長老。ここまでは良いな?」
長老は俺が混乱しないように、ゆっくりと説明してくれている。
「はい。大丈夫です」
「うむ。で、パートナーはパートナーじゃ」
ちょっと待て。そこだよ、そこ。そこが肝心なトコロですよー。
「あの、そこを詳しく伺いたいのですが」
「ふむ。だから言っておろう。パートナーはパートナー。常に共に行動し、用便、入浴以外は常に一緒にいるのじゃ」
「え、常に!?」
ちらりとフィユに視線を向けると、彼女は頬を赤らめて俯いた。
でも少し嬉しそうなのはなぜだ!?
「えっ…と…食事も?」
「うむ」
「どこに行くにも?」
「うむ」
「まさか寝るのも?」
「当たり前じゃろ」
あ、当たり前なんすか…。
…マジか。それってほとんど結婚状態…
「つまりは夫婦じゃな」
「やっぱりかあぁっ!」
頭を抱え込みたいが縛られていてできないっ!くそぉ、恥ずかしい!自分でも顔が赤いのがわかる!熱い!熱すぎる!
てか人生初の彼女(兼奥さん)がエルフって、どんな人生送ってんだ俺は!
「…ていうか、何のために?」
俺は一番の疑問を投げかけた。
「来るべき決戦に備え、絆を深めるためじゃ」
「決…戦…?」
「うむ、人間と、魔族と、我々エルフのな」
そこから俺は、この世界を支配する、三種族の話を聞くことになる。
長い、戦いの歴史を。
三種族は、この世界が神によって創られたときから戦い続けていた。
何百年も、何千年も。
彼らは戦いによって、支配領域を増減させていた。
しかし、この戦いも、いずれ起こる決戦、“ラグナレク”によって終わる。
そして、その戦いを決するのが、最も深い絆を持った一組の男女なのだ。
「…でも、なんでフィユは異世界の男と組まなければならないんですか?」
俺は長老の話が一段落したところで、新たな質問をする。
「フィユはな、わしのひ孫、つまり長老一族の直系であり、最も魔力が高いエルフ。その場合、並みのエルフ男とでは魔力が釣り合わん。だから、異世界から渡って来れるほどの魔力の持ち主が必要だった、というわけじゃ」
「でも、俺に魔力なんて…」
「いや、ある。断言できる。お主からはフィユと同等、いや、それ以上の魔力を感じる。」
俺に、魔力が?普通の高校生だったこの俺に?フィユ以上の?まさか、あり得ない。
「…他になにかないかの?」
「え?いや、ありません」
「そうか。では、家に行くといい。フィユが案内する」
「は、はい」
俺が立ち上がると、フィユが縄をナイフで切ってくれた。
「ありがと」
「ううん、いいよ」
二人で部屋を出ようとすると、
「シュウ」
「は、はいっ」
「わしのかわいいひ孫じゃ。大切にしてやってくれ」
「え、あ、はいっ!勿論です!」
少し戸惑いながらも出した俺の返答に、フィユは少し嬉しそうに照れていた。