プロローグ ニホンからようこそ!
私は、小さい頃から小説家の真似事が大好きでした。
小説自体大好きで(ラノベ中心ですが)、毎日のように本を読んでいます。
そんな私が趣味で書いた小説です。
少しでもあなたの心に残ったら嬉しいなぁ。
「…マジかよ」
鬱蒼とした森の中、俺、釘宮柊は、ただただ立ち尽くしていた。
おかしいだろ。だって―
―さっきまで自分の部屋で寝てたんだから
それなのに、今、俺はどこにいるんだよ。
見たこともない木々に見たこともない鳥がとまって、聞いたこともない声で鳴いている。
夢かもしれないけど、このリアルさは現実っぽすぎる。
じんわりと汗が滲む暑さに、肌に当たる風。
近くの木に触れてみる。
ゴツゴツとした木肌。あまりにもリアル。これが夢か?んなアホな。
ふと、自分の格好に気づく。
幸い、靴は履いているものの、服は寝る前に着ていたままだ。Tシャツに、短パン。
「…とりあえず歩く、か」
どこに行くかはわからない。でも、何かしなくてはならない気がして。
…が、歩いても歩いても景色は変わらない。
どこまで続くんだよこの森は。
「はぁ…なんなんだよ、もう…」
喉も乾いたし、もう歩くのをやめようかと思い始めたその時、
「のわぁっ!?」天地が、一瞬で、逆転した。
ぶらーん…
あぁそうか、なんか罠に引っかかったのか…。だせぇ…
あー…頭に血が昇るー…
「ん?なんだ、コイツは」
真下から見上げる奴らがいる。
男が一人と女が二人…。でも、三人とも耳がやたら長ぇな。エルフみたいだ。
「あのー…下ろしてくれませんかね…?」
「!?人間のくせにエルフ語を話せるのか!?」
男はかなり驚いているようだ。
…ってエルフ語!?今俺はエルフ語をしゃべったのか!?ってかじゃあコイツらホントにエルフなのか!?
日本語のつもりだったんだけどな…
「驚いたわね…こんな下等種族でもエルフ語を話せるなんて」
背の高いエルフ女が呟く。
「でもまあ、こんな簡単な罠にかかるようだから、所詮下等は下等だな」
オイ、そこのエルフ男。いくら俺でもキレるぞコラ。
「あの…下ろしてあげたら…?」
背の低いエルフ娘が男に話しかける。
ありがとう。助かります。
「ちっ。オイ人間。抵抗したらブチ殺すからな」
うわぁ…エルフってもう少し上品なイメージがあったのにな。現実は甘くないってか。って今俺、現実って認めたな…
ブツンッ!
「どわっ!」
どすんっ!
「い…てぇ…」
このヤロウ、なんの警告もなしに縄を切りやがった。背中、思いっきり打ったじゃねぇか。
「だ、大丈夫?」
俺のそばに、エルフ娘が駆け寄ってきた。
「大丈夫だよ。ありがとう」
笑顔でお礼を言うと、彼女は少し照れたように頬を赤らめながら、笑顔を返してくれた。
か、かわいい… 背は俺よりも頭一個分くらいちっちゃくて…白銀の髪に透き通るような青い瞳。歳は十四~十五才くらい…俺よりニコ下ってところか。
「フィユ、そんな奴の心配などいい」
「そうよ。あなたはまだ子供で人間を知らなさすぎるわ」
くそ、このエルフ男女、エルフなだけあってすごい美青年と美人なのに、口が尖ってるな。
「…でも、あたし人間とおしゃべりするの、初めてだからもう少しおしゃべりしたいな」
「…ったく、そいつを村に連れ帰るまでだぞ」
「うん、やたっ!」
フィユは嬉しそうだが…ちょっと待て。俺はどっかに連れて行かれるのか!?エルフの村に!?やばくないか!?
と、フィユがじっと俺の顔を覗き込んでくる。
「な、なに?」
「…人間さん、お名前は?」
「え?あ、あぁ、柊。釘宮柊だけど」
「シュウ?よろしくね、シュウ!あたし、フィユ」
フィユが右手を差し出してくる。なるほど、握手の習慣はあるのか。
「ああ、よろしく」
フィユの手を握る。
うわぁ…すっべすべで柔らかい…
「お前ら、歩きながら話せ」
「はぁい。行こ、シュウ?」
「あ、あぁ」
三人が歩き始め、俺も後に続く。
「男の人がフォルトゥで、女の人がフルール。あたしのパパとママ」
「ふぅん。随分若そうだけど、いくつなんだ?」
「二人ともニ百歳超えてるよ?エルフの中では若い方だけどね」
「ニ、ニ百!?」
あんなに若そうなのに、二世紀生きてんのか!?じゃあ長老とかは何十世紀生きてんだ!?
「あたしも、たぶんあなたより年上だよ?」
「そ、そうなのか?」
「うん、二十二才。エルフではまだ二才くらいなんだけどね」
そうなのか…すげぇな、エルフ。
「でも、変な格好してるけど、どこから来たの?」
「え、あー…日本って言ってもわかんないよね」
「ニホン?」
「はは…たぶんわからないよ」
フィユはキョトンとしている。
「あ、いや、世界が違うってこと」
「世界って、大陸?」
「違うよ。この世界そのものってこと」
と、その一言に、フィユがとても驚いている。
「え…どうしたの?」
「いや、…ってことは、あなたは異世界人…?」
「う~ん、認めたくないけどね」
フィユは、そっかそっか、と頷いている。
「…?フィユ?」
「ううん、じゃあますますよろしくだね」
「え?」
「うん、あなたとなら…」
「え?フィユ?ちょ、話が見えないんだけど…っ」
俺がひどく狼狽していると、それを落ち着かせるように、明るい笑顔で一言。
「ニホンからようこそ!シュウ!」