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ワライダケとサビ猫

作者: 昼月キオリ
掲載日:2026/11/01



 

俺はある秋の夜、夢を見た。

大きなキノコをペシペシ叩くサビ猫の夢を。

 

柊夕間(ひいらぎゆうま)(20)という青年は悩んでいた。


家族と離れ、東京で一人暮らし。

デザイン会社で新卒で入ってから一年。

残業続きで毎日体はヘトヘトだった。


コンビニ弁当をかき込み、シャワーを浴びてパジャマに着替えるとすぐにベッドに横になった。


また明日も同じか。


夕間「はぁ・・・なんかもう死んじゃいたいな。」


そうポツリと呟いたまま気絶するように眠った。

目には薄らと涙の跡が残っていた。


そしてあのキノコとサビ猫の謎の夢。

目が覚めてため息を吐く。


夕間「なんだったんだ・・・。」


それからすぐのこと。

千葉の高校の頃の友人、丸谷(まるたに)から電話がかかってきた。

キノコ狩りをしに行くが一緒に来ないか?という話だった。


俺は最初断わろうとした。

疲れて休みたかったから。

しかし、すぐにあの夢を思い出した。

大きなキノコに戯れるサビ猫の姿。

あれは強烈だったな。



当日。

夕間、丸谷、一樹(いつき)の

三人は予約してあったキノコ狩りに到着。

係の人から説明を受けた後、

山を散策していた。


そんな時、サァッと風が吹き目を瞑った。

そして再び目を開ける。

ふと周りを見ると誰もいなくなっていた。

さっきまでの二人の声や他の人たちの気配がなくなっていた。


夕間「うわっマジか・・・。」


やばい、集中し過ぎていつの間にか逸れてしまったのか?てか、ここどこだ?


キョロキョロと辺りを見渡してみるが目印になるようなものはどこにもなかった。


不意に振り返ったその時だった。


カサッ!


枯れ葉の上に猫が一匹座っていた。


夕間「ぎゃっ!なんだ猫、か・・・!?」


その猫はサビ猫だった。

体中に小さなキノコが生えている。


腕、足、頭、お腹、至る所に。


あの日、見た夢の中にいたサビ猫と、サイズは違うがあの妙な模様の茶色いキノコだ。

その体にはキノコが生えていた・・・。

夢の中では体にキノコは生えていなかったけど。


夕間「ひぇっ、何で夢の中の君がここに!?」


ララ「?お前何言ってるのにゃ?」


夕間「君は一体なんなんだ!?」


ララ「僕はララって言うサビ猫にゃ。ちなみにオスだにゃ。お前はなんて言う名前にゃ?」


夕間「俺は夕間・・・って喋った!?しかも体にキノコ生えてるじゃないか!」


ララ「これはワライダケにゃ。」


夕間「ワライダケ・・・?」


ララ「これを食べればお前もたちまち笑いの渦に包まれるのにゃ。」


夕間「いや、それは毒で無理矢理笑わせてるだけなんじゃ・・・。」


ララ「そんな違い僕には分からないにゃ。あげるから食べてみるにゃ?」


夕間「や、やだよ!気持ち悪い!!そんな、体に生えてるキノコ食べるなんて!」


その言葉にサビ猫がしょんぼりする。


ララ「僕は、そんなに気持ち悪いのかにゃ?」


夕間「え?いや・・・。」


正直気持ち悪いというのは本音だが、

俺が言いたいのは見た目がどうこうという話ではなく、それを食べさせようとするその行為自体がということなんだけどな。


って言っても理解できなさそうだな・・・。


ずっとしょんぼりと項垂れているサビ猫を見ていると、なんだか自分が悪いことをした気分になってくる。


夕間「それ、本当に食べれるの?」


一応確認の為聞いてみた。


ララ「食べれるにゃ。」


サビ猫は自分の頭からキノコを捥ぐ(もぐ)とパクッと食べた。

すると・・・。


ララ「にゃ!にゃはにゃは、にゃにゃにゃ!!」


と奇妙な鳴き声で笑い始めた。

お腹をゴロンと上に向けて盛大に笑っている。

 

笑ってる・・・。本当にワライダケだ。


笑っているサビ猫、ララを見つめる。


俺食べて大丈夫なの?あれ。

あの猫は笑ってるだけだけど人間が食べたら他にヤバい症状とか。

いや、そもそもこの猫は妖怪?の類だよな?

だって体にキノコ生えてくるとか、喋れるとかさ。

あり得ないじゃん。

妖怪だとしたら毒キノコだとしてもなんかこう上手く使いこなせそうじゃん?


てか、俺、数日前には死にたがってたんだから

毒でも良くないか?

うんうん、そうだ。苦しいかもしれないけど笑って死ねるなら願ったり叶ったりだ。


夕間「分かった。俺も食べるよ。」


ララ「にゃにゃ!」


サビ猫は寝転がって笑いながら腕からキノコを捥ぐと夕間に渡した。


夕間「パクッ・・・ふ、ふふ、あはは!!」


食べた直後、夕間は笑い出した。


ララ「にゃ?お前も楽しくなってきたにゃ?」


夕間「や、だって、君が笑ってるから・・・。あはは!!」


しばらく一緒に笑った後。

効果が切れてきたのか笑いが収まってきた。


夕間「はは、はー・・・。なんか脱力〜。」


枯れ葉の上に寝転ぶ。

隣にはサビ猫が同じように寝転んでいる。


夕間「笑い疲れたら急に眠くなってきた・・・ヤバい、みんなを・・・探さない、と・・・すうすう・・・。」


目を瞑った夕間は、

急に力が抜けたらしく

日頃の疲れと笑いの疲れとが合間って一瞬で眠りについてしまった。


ララ「やれやれ、笑い疲れて眠ってしまうにゃんて子どもみたいにゃ。僕の方が子どもにゃのに。

それにしても人間とは面白い生き物にゃね。

僕の体に生えたこのキノコ、僕が爪でラクガキしただけのただのキノコにゃのにね。」


そう言ってサビ猫はペロペロと自分の手を舐めた。


夕間が目を覚ますと

友人二人が走って来るのが見えた。


丸谷「おーい!!」


一樹「ゆうまー!!」


夕間「ん?あれ?いつの間に俺寝てたんだ?」

 

丸谷「ばっか!心配しただろ!!急にいなくなってよ!」


一樹「そうだぜ!熊にでも食われたんかと思っただろうが!」


夕間「くま・・・はっ、体にキノコ生えた猫は!?」


丸谷「はー?お前まだ寝ぼけてんのかよ。」


一樹「アニメの見過ぎじゃねーの?」


丸谷「だいたい、こんなとこで寝るなんて危ないだろが。」


夕間「悪い悪い、なんか、ここんとこあんま眠れてなかったからさ・・・。」


丸谷「ったく・・・あんま無理するなよ。」


グリグリと頭を撫でられた。


一樹「けど、寝てスッキリしたんじゃねーの?さっきより顔色良くなってる。」


丸谷「あ、本当だ。今度はちゃんとベッドで寝ろよー?」


夕間「ああ、分かってるよ。」


取ってきたキノコを係の人に確認してもらった後。

帰り道。丸谷が運転する車の中。

後部座席に座っている夕間と一樹に丸谷が話しかける。


丸谷「いやー、楽しかったなぁ!」


夕間「うん。」


一樹「またさ、どっか気晴らしに行こうぜ。」


丸谷「行こー行こー!!次はリンゴ狩りか?」


一樹「おいおい、おまえどんだけ狩りたいんだよー。」


丸谷「あひゃひゃ!」


夕間が抱えたカゴの中に、さっきまでなかったあのキノコが一つだけ隠れるように入っていた。

あのサビ猫が爪で描いた奇妙な柄のキノコが。


 


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