4.穴からスライム
朝日が昇り朝露の落ちる音が聞こえベッドから出ると机の上にあるグローブを両手に着ける、新しい相棒の存在に高揚感を感じながらナイフと麻袋の付いたベルトを腰にはめる。
「よし朝ごはん食べに行こう」
朝早く食堂に足を運ぶと学生の姿は疎らでとても静かだ、食堂のおばちゃんからトレーにパンやスープ野菜に果物猪肉の照り焼きを載せてもらいお礼を伝えテーブルを探しているとリノアさんの姿を見つける、するとリノアさんも僕に気付いたのかこちらに手を振ってくれる。
「ノーラ君こっちで一緒に食べよ」
「ご一緒させていただきます」
リノアさんの向かいの席に腰掛け談笑しながら食事をする。
「これからダンジョンに?」
「はい今回はモンスター討伐を主にしてみようかと」
「良い?油断したら駄目だからね」
「はい」
ガヤガヤとしてきたちらほら食堂に人が増え賑わいだしてきた。
「ノーラ君だ」「本当だ」「まだ初心者ダンジョン踏破できてないんだって」「嘘!もうノーラ君だけじゃない?」
女生徒達のコソコソ話が嫌でも耳に入ってきてしまう。
「すみませんリノアさん僕もう行きますね」
居心地の悪さを感じて席を立つ。
「え、うん行ってらっしゃい…」
足早に食堂を出ていき学園ダンジョンへ急ぐ、確かにもう1年生の中で学園ダンジョン*初心者ダンジョンを踏破していないのは僕だけだ、恥ずかしい、不甲斐ない、焦り様々な感情が溢れてリノアさんから逃げるように食堂を出てきてしまった。
「大丈夫頑張るぞ!」
パシッと自分の頬を叩き気合を入れる。
ダンジョンに入ると今までのダンジョンと見え方が違うように見えた、新しい防具のグローブを着けているからか、モンスターを討伐しようと決めているからかとても新鮮に見えた。
「まずはスライムだね」
ダンジョン第一層を進んでいると目の前に宿敵であるスライムの姿を捉える。
「くらえこのグローブの一撃を」
スライムを右手で殴ろうと拳を振りかざすが、スライムの柔らかいボディに吸い込まれ全くダメージを加えられた感触がなかった、幸いナイフの様にグローブはボロボロになっていないが肩透かしを食らってしまった。
駄目だスライムのあの独特なボディにパンチは効かない、やっぱり僕はスライムにすら勝てないのか、スライムと距離を取りながら手のひらを見つめると一つ妙案を閃く、<穴掘り>スキルがあるじゃないか!
「喰らえ」
掌を湾曲させて穴を掘るときのようにスライムのボディを掘り起こすイメージで振りかざす。
ズチャ
「やったーー!!」
スライムが煙を立て消えていく、勝ったのだあの宿敵に初めて戦った時はナイフが駄目にされ敗走を余儀なくし黒星をつけられたが、やっと討伐することが出来た。
「凄い僕がスライムを倒したんだ!」
実感がないが興奮が込み上がり次のターゲットを探すため足を運ぶ。
スライム、ゴブリン、ワーラビット数え切れないモンスターを見つけたそばから掘って行くその度に強くなっていく快感に襲われる。
「ハァハァ…ハァ」
二階層の階段の前までやってきて膝に手を置き息を整える、少し頭が冷え冷静になってきた時モンスターのドロップアイテムの回収をしていないことに気が付く。
「あっそうだった!」
僕の目的はモンスター討伐とそのドロップアイテムの売却であるお金がすっからかんである事を思い出す。
「よいしょっよいしょ」
来た道を引き返しながらドロップアイテムの回収をする、スライムからは主に魔石がドロップし、ゴブリンは耳等の体の一部が、ワーラビットはお肉がドロップしてレアドロップ等は特になかった、リノアさんに教えてもらった知識ではレアドロップの場合宝箱がドロップするらしいが今のところ見当たらない。
そうこうして腰の麻袋がパンパンになってきて学園ダンジョンの入口に差し迫った所にある少女の姿が見えた。
「ノーラさん?」
アナスタシアさんが驚きの表情でこちらに目を向ける。
「御機嫌よう?」
僕は何処か誤魔化すように挨拶をする、御機嫌ようなんて生まれて初めて口にしたが手元のグローブを見ると真赤に血濡れて血が滴っていた。
「その手どうされたのです?ゲガをされたのですか?」
「いえこれは…」
隠すようにサッと両手を後ろに引っ込める。
「見せて御覧なさい!とても出血をしているようでしたわ!」
ツカツカと近づいてきて腕を引っ張られる。
「大丈夫です!アナスタシアさんこれは違うんです!」
何が恥ずかしいのか見せることを拒んでしまう。
モンスターを倒すのに夢中で手の事はすっかり忘れてしまっていた。
「大丈夫な事ありますか血で真っ赤でしたわよ」
「これは僕の血ではなくてモンスターの血なんです」
「モンスター…貴方が倒しましたの?」
やっと落ち着いたのか腕から手を離してくれる。
「新しい装備を手に入れたのでモンスター討伐をしてみたんですそしたら夢中になってしまったみたいで」
両手を見せながら説明をする。
「そうでしたの…端ない事をしてしまい申し訳ありません」
「いえ心配してくれたんですよね」
今思えばアナスタシアさんには助けてもらってばかりだ、初日にスライムに敗走した時件のスライムを倒してくれたのがアナスタシアさんだった。
もう第一ダンジョンであるオルトリンデの攻略中で学園ダンジョンに用はないはずなのに度々顔を合わせていたのは僕が気になって心配してくれていたからなのかもしれない。
「心配などしていませんわ」
プイッとそっぽを向いてしまう。
「何かお礼がしたいので後日一緒に街に出ませんか?」
「えっ街に?」
「はいその為にもいち早く学園ダンジョンを踏破してみせます!」
「フフ 楽しみにしていますわ」
そうこうして二人でギルドに戻ろうと帰路につく。




