3.穴からグローブ
「リノアさーん」
生産科の建物の前で待っていると、リノアさんがやってくる、いつもの受付時の服装とは違い、ラフな格好をしている、田舎のでの僕とは違いさすが都会の女性といったところか、お洒落である。
「ノーラ君待った?」
「いえ武器を早く見て回りたくて早く来てしまいました」
「ごめんね待たせちゃって」
「いえ僕が早く来ちゃっただけで…謝らないでください」
「……」
「? どうしました?」
「どうかな?」
業務時には結んでいる髪を下ろしているそんな長い髪を指でいじりながら問いかけてくる。
「髪下ろしてるんですね、綺麗だと思います」
「そうじゃなくて…服…」
「服もお洒落でとても似合ってると思います!」
「ありがと…じゃ行こっか!」
「はい」
生産科の建物の中に初めて入る、中は市場のようで各々の建物には看板が掲げられておりポーションを販売していたり鞄や服に靴帽子、ペンダント等のアクセサリー等がところ狭しに並べられている。
買い物客も凄い賑わいで活気の溢れた場所になっていた。一つ気になる事があるとすれば女性しかいない事だろうか、男の僕一人では入ることを戸惑ってしまう空間になっていた。
「ノーラ君武器防具をみて回りたいんだよね?」
雑踏の中リノアさんから離れまいと必死の僕を他所に、パンフレットを手に颯爽と歩いていくリノアさんと僕はある鍛冶店の前で足を止める。
<鍛冶ヒルダ>
「リノアさん?」
「ノーラ君知らない生産科2年生のヒルダさん」
「知らないです」
「生産科と冒険科に所属していて戦う鍛冶師と言われていているの」
「戦う鍛冶師?」
「鍛冶師スキルの中でも希有なユニークスミスの発現者で自分で手に入れた素材じゃないと効果がないみたい」
「対価ですか」
スキルの中でも強力なユニークスキルには対価が必要であるそうだ、僕のスキルは対価がないあたり平凡なスキルなのだろう。
「ここで見てみましょ!」
つかつかとお店の中に入って行くリノアさんを追いかける。
店内は何故かお客さんの姿がなく閑古鳥が鳴いていた。
「すみません」
「誰もいないんですかね?」
商品が並べられておらずテーブルには掃除されていないのか埃が目に映る。
「うちは客は取らないよ」
店の奥から作業服姿の大柄の女性が鎚を手に出てきた。
「あのヒルダさんですよね」
突然声をかけられ驚きながらもリノアさんが尋ねてくれた。
「ああそうだよ」
「初めまして私は学園ギルドのリノアです、この子はノーラ君」
後ろにいる僕に手を向けてくれたので会釈をし挨拶をする。
「初めましてノーラです!よろしくお願いします!」
「ヒルダ鍛冶師兼冒険者でなんの用?客は取ってないけど」
ゴーグルを外して自己紹介をしてくれた、ぶっきらぼうに見えて律儀ないい人なのかも
。
「ノーラ君が武器と防具を探してて丁度ヒルダさんのお店を見つけたので入ってみたんです」
「ノーラ? 初の男冒険者の?ふーんあんたが」
「是非ノーラ君に装備を作ってあげて下さい」
「お願いします」
リノアさんが頭を下げてくれたので僕も一緒に頭を下げる。
「他を当たりな俺はもう自分以外の武器防具は作らない」
「待って下さい」
踵を返し店の奥に行こうとするヒルダさんの手を咄嗟に掴むと。
「離せ…! その手どうしたんだ?」
振り払おうとした僕の手を掴むとまじまじと観察しだす。
「穴掘りをいつもしてるんですけど何回洗っても汚れが落ちなくて汚い手で触ってしまってすみませんでした」
「いや汚くなんてないよ、これは努力の証しさ」
ヒルダさんが手のひらを擦りながら、どこか穏やかな表情でそう零す。
「気が変わった俺に任せろ何を打ってほしい? 武器防具何でも言ってみろ」
褐色の彼女は右腕で僕を肩を組むように抱き寄せ初めて笑顔を見せてくれた。
胸が当たるが気付かないフリをする。
「ありがとうございます」
「…」
リノアさんは何か思うことがあるのかムッとした表情を浮かべる。
「で何が欲しいんだ?」
「武器と防具を10000P以内で揃えたいんですけど」
学生証のカードを出しヒルダさんに尋ねる。
「1万!?」
学生証カードを見つめ驚くヒルダさん。
「無理ですかね?」
「粗悪品やボロボロの中古なら買えるだろうけど、ウチでは扱ってないし命を預けるもんだよもっと考えな!」
バシッ
背中を叩かれるがとても痛くて噎せ返してしまう。
「すみません! でもソロだと厳しくて」
「武器か防具どっちかに絞りな」
「どっちかですか?」
押し問答を、見ていたリノアさんが口を開く。
「ノーラ君ヒルダさんの商品をみせてもらったら?」
「おうそうしな、俺の打った装備はどれも一級品さ」
ヒルダさんに工房の奥に案内され斧等の武器が壁に立て掛けられていて棚には兜や鎧等の防具が並べられている。
素人目にもどれも精巧に作られた一級品だと分かりなんと言っても炉の熱で部屋の中が蒸し蒸しと熱く玉の汗が垂れてしまう。
「斧が俺の主な武器なんだ、殆ど斧しか打たねぇからな」
斧を手に取るとまず重量に驚いた一振りさせてもらうと身体が振り回されてしまう。
「駄目だな武器に振り回されてる、腰が入ってねぇ」
「すごいですねヒルダさんこんなに重たい斧で戦ってるんですか?」
「見てな」
ブオン!!
突風が吹いたかのような一振りに僕の髪がボサボサになってしまった。
リノアさんは「きゃ!」と驚いていた。
「凄い」
「だろ!」
ヒルダさんは軽々と斧を肩に担ぎウインクしてくれる。
「僕に合う武器は何かありますか?」
「お前ヒョロいからな、しっかり食べてるか?」
「今日もおかわり3回しましたでもSTR8なんですけど低いですか?」
「平均中の平均だな魔術士でもそのぐらいあるやつはいるぜ」
「魔術士ですか…」
魔術士…後衛の攻撃支援が主の戦闘員でINTが高くSTRやVITが低い傾向のスキル発現者だ、その魔術士と同じ位と聞いて膝を抱えて少し落ち込んでいると。
「ノーラ君これなんか良いんじゃない?」
グローブを手にリノアさんが屈んで見せてくれる。
「グローブですか?」
「うん ノーラ君今まで素手で掘ってたよね? これなら手を痛めずに穴を掘れるしもしかしたら戦えるんじゃないかな?」
「戦う…」
クローブを手に嵌めてみると女性用にしてはぴったりで握りしめしてみても素手と遜色なく動かせる。
「そいつは学園ダンジョンの5階層のワーウルフの毛皮を使ったグローブだ」
<ワーウルフの毛皮グローブ>
風魔法纏うことが可能
「これが良いです、いくらですか?」
「お代はいらねぇ、だけど一つ約束してくれ」
ヒルダさんはとても真剣な表情でそう問いかける。
「死なないでくれ」
「えっ」
「私の造る装備は呪われてるんだ、二人の友人が私の装備を着てダンジョンから帰ってこなかった」
ヒルダさんは椅子に腰かけ腕を組み語りかける。
「…」
「今では誰も私に近づかない、客は取らないって言ったけど本当は誰も近寄らないのさ」
「僕は死にません」
「えっ」
「僕は絶対死にませんから!」
悲しげな表情で寂しそうに笑うヒルダさんに力強く宣言する、ダンジョンは危険がつきものだ、グローブを着けてみて分かる心強い温かい感覚二人の友人も感じていただろう、それなのに帰らぬ人となってしまった、一番苦しいのはヒルダさんのはずなのに呪われているなんて言って近寄らなくなってしまった人達に苛立ちが収まらず心の底から言葉が出てしまう。
「このグローブで証明してみせます」
「フフ…ははは そうかい分かったよ」
破顔して笑顔を見せてくれる。
「やっぱりお金は払います、払わせて下さい」
「いやいいよ!」
「そうはいきません、証明になりません!いくらですか」
「じゃ一万Pかな」
「え」
8000Pくらいかなと思っていたのが一万Pと言われ、残り数百Pの残高になり夜ご飯分のPがなくなってしまうので少し戸惑ってしまう。
「いや風魔法のスキル付きだしちょっと割り引いてもそのぐらいだよ」
「そうですよね割り引いて頂いてありがとうございます」
「もうちょっと割り引いてもいいけど」
「いえ 一万Pでお願いします男に二言はありません」
「ありそうだったけど」
リノアさんが笑いながら突っ込みを入れてくる。
「はい 一万P丁度頂くよ」
お互いの学生証カードを重ね支払いを済ませる、本当にPが無くなり脱力感に襲われるがもう遅い、やっぱり少し割り引いて貰うべきだったかと後悔するが男に二言はありませんといった自分を少し恨む。
「また何かあればうちにおいで」
バシッとまた背中を叩かれたがさっきよりも少し手加減してくれたのか、優しさのような喝のような励ましを感じる。
「はい よろしくお願いします ありがとうございました!」
「ヒルダさんありがとうございます」
二人でヒルダさんにお礼を伝え工房をあとにする
。
「ノーラ君ヒルダさんに抱かれて嬉しそうにしてたよね」
「え」
手を握られ肩を組んだ時のことを思い出す。
「いやあれは肩を組んだだけで」
「ふーん鼻の下伸ばしてたのに?」
「違うんです!」
バレてる!
「なんか喉が渇いたなーお茶したい気分だなー」
「食道のカフェに行きましょう、もちろん僕の奢りです」
「やった行こ行こ」
機嫌を直してくれたのか手を引いてくれるリノアさん、でもこれで僕のP残高はゼロになってしまい、その後一人さみしくダンジョンに行くことになってしまった。
でも新しい出会いに素敵なグローブも手に入れられたし今日は良い休日だったと思う。




