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第四章 裁定者


ロウグ平原に、

夜が降りてきていた。


星は見えない。

雲が低く、

空を塞いでいる。


レインは、

例の場所に立っていた。


あの薬草は、

まだそこにある。


変わらない姿で、

土に根を張っている。


だが、

周囲の空気だけが違った。


重い。

押し潰されるように。


最初に異変が起きたのは、

風だった。


吹いていたはずの風が、

ぴたりと止まる。


次に、

音が消えた。


遠くの虫の声も、

草を踏む音も、

何も聞こえない。


世界が、

沈黙した。


空が、

裂ける。


雷ではない。

光もない。


ただ、

空間そのものが

引き裂かれた。


そこから、

影が降りてくる。


巨大な影だ。


鱗に覆われた胴体。

山のような翼。

夜を映す金色の瞳。


竜王、

ヴァル=グラシア。


その名を、

誰かに教わったわけではない。


だが、

理解してしまった。


――これは、

世界の上位にいる存在だ。


膝が、

勝手に折れた。


「人の子」


声は、

空気を震わせない。


直接、

頭の奥に届く。


「問おう」


逃げ場はない。


「なぜ、

 それを奪わなかった」


視線が、

薬草に向けられる。


世界樹の幼体。


レインは、

喉を鳴らした。


理由を探す。


使命。

正義。

未来。


どれも、

自分には大きすぎる。


「……分かりません」


正直な言葉だけが、

零れた。


「ただ……」


言葉が詰まる。


「抜いたら、

 駄目だと思ったんです」


沈黙が落ちる。


竜王の瞳が、

じっとレインを見つめる。


裁かれる。


そう、

覚悟した。


やがて、

竜王は言った。


「それで、良い」


その一言で、

世界が動き出した。


止まっていた風が、

再び吹く。


草が揺れ、

虫が鳴き始める。


「人は、

 理由を飾る」


「だが、

 世界は選択だけを見る」


竜王は、

翼を広げた。


「この芽は、

 生かされた」


「それだけで、

 価値はある」


光が、

竜王の身体を包む。


次の瞬間、

空は元に戻っていた。


そこに、

竜はいない。


残されたのは、

静かな平原と、

一本の薬草。


そして、

膝をついたままの

レインだけだった。


「……失敗、だな」


依頼は果たしていない。


報酬もない。


それでも、

不思議と後悔はなかった。


レインは立ち上がり、

薬草に背を向けた。


その背中を、

誰かが見ているとも知らずに。


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