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第二章 引き抜けない理由


レインは、その場に膝をついたまま、

しばらく動けずにいた。


ただの薬草だ。

そう理解している。


なのに、

指先が離れなかった。


土は湿っているはずなのに、

冷たさを感じない。


むしろ、

微かに温い。


「……変だな」


独り言は、

風にすら乗らなかった。


周囲を見渡す。


平原は静かだった。

鳥も、虫も、

気配を潜めている。


まるで、

この一本を中心に、

世界が息を止めているようだった。


レインは、

ゆっくりと根元を見る。


土の表面に、

細い線が走っていた。


偶然にしては、

整いすぎている。


指でなぞると、

線は淡く光った。


「……文字?」


見覚えはない。

だが、不思議と怖くはなかった。


その瞬間、

胸の奥が脈打つ。


鼓動とは違う。

もっと深い場所。


思い出でも、

感情でもない。


――これは、生きている。


そう感じた。


「抜いたら……」


言葉にした途端、

頭に映像が流れ込む。


乾いた大地。

割れる川。

倒れる街。


誰かの悲鳴が、

遠くで響いた気がした。


レインは、

反射的に手を離す。


幻は消えた。


残ったのは、

異様な静けさだけだった。


「……俺には、無理だ」


薬草を採らずに帰る。

それは失敗だ。


分かっている。


だが、

足が動かなかった。


レインはその場に、

小さな目印を残した。


誰にも踏まれないように。


それが、

彼の選択だった。


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