俺の靴
朝。外はまだ暗い。
こんな時間から会社に向かわなければならない社畜、もとい、勤勉な日本のサラリーマン。
スーツに身を包み、家に帰ってから開けてもないカバンを手に持ち、玄関横にかけてある鏡で身だしなみチェック。
よし、いけなくもない。
変な寝癖もない。
ヒゲの剃り残しもない。
座って靴を履く。
靴?
いつも、帰ったら靴を揃えてから室内にあがる。
そう躾けられてきたから習慣だ。
今日履く靴は、昨日履いたものだ。靴は二足を交互に履くといいですよ、なんて言われるが、一足を履き潰す主義だ。
昨日履いた靴は、当然ある。問題はその隣。
さらに右足の靴が一足ある。
おれ、足三本だっけ?
いや、それなら真ん中の足用の靴があるはずだ。断じて右足ではないはずだ。
これは証明問題か、金の斧銀の斧か、単なるクイズかのどれかだな。
ちょっとだけ迷ったが、両足に、右足用の靴を履く。
左足の靴が、当然のことながら取り残される。
これでいい。帰ってきて何が起こっているか楽しみだ。
こうして、俺は出社した。
左足に靴擦れができた。
人は思ったより、俺の足に興味はないらしい。誰も指摘するものはいなかった。
退社時間。 お待ちかねだ。
いそいそと家にもどり、焦って鍵を開けるのにもたついてしまう。
ドアを開ける。
靴はなかった。俺の左足の靴。
足下を見た。 両方とも右足用の靴だ。
その晩、新しい革靴を買いに出かけた。




