8.オルフェ城に到着
「リシェル様は聖女だったんですね」
メアリは意を決したように言った。
突然あたりを包んだ金色の光に驚いてメアリも馬車の外にでたようだ。一部始終を見たのであろう、メアリの視線が痛い。
聖眼の力を使ったのはいいけれど、正直周囲の人への対応をどうするかは考えていなかった。王妃の密使を退けたけれど、このことが伝わってしまっては元も子もない。
「メアリ、私のこの力についてなのだけどしばらく秘密にしてほしいの」
一瞬どうしてというような表情をしたメアリに申し訳なさそうに伝える。
「このオッドアイのせいで私は災厄の存在と言われているでしょう。急に聖女の力だなんて言っても信じてもらえないと思うの。この力については私もよくわかっていないし、オルフェ領のことが落ち着くまでは、王家にも知られたくないの」
「そうですか。わかりました。リシェル様のおっしゃるとおりにします!」
私の境遇を慮ってくれたのかメアリはコクコクとうなづく。
次は……。
向かいに座るテオドール様を見つめる。
「テオドール様、さきほど護衛騎士の皆さんに聖女の力とおっしゃいましたよね。なぜそのように思われたのですか?」
「光の色だよ」
「色ですか?」
「あぁ。私たちが魔法を使うときにはその属性の魔力を込める。その魔力には属性の色がある。火の属性は赤、水の属性は青、土の属性はオレンジ、風の属性はグリーンだ。それ以外だと治癒魔法は白い光を伴うよね」
相槌がわりにうなづく私をみながらテオドール様はつづける。
「魔物に向けたリシェル様の魔法の光は金色に輝いていた。金色の光は神聖力なんだ。神聖力が使えるのはこの世で聖女だけとされている」
「聖女だけ……」
知っていたけれど、あえて考え込むように返事をする。とにかくこのことは王家に隠したい。ずっとというわけにはいかないだろうけど、王妃に利用されないようにしなければ。
「今回護衛についている騎士たちには、オルフェ城に着いたら箝口令を敷くから安心して。もちろん、メアリ、君もだ。このことはオルフェ領だけにとどめる」
私が望んでいたことそのままで驚いた。メアリにしばらく秘密にしたいと言ったから察してくれたのだろう。
「テオドール様、ありがとうございます」
「いえいえ。私が同行していながら、リシェル様をこんなことで煩わせるわけにはいかないですからね。お力のことについては、落ち着いてからまたお話しさせてください。」
広場を出発してからは数時間足らずでオルフェ城に到着した。廃れてからの年月から城とは名ばかりの廃墟を想像していたけれど、石造りの外壁に守られた堅牢な建物だった。
とりあえず使用する部屋だけを整えに行ったメアリと使用人たちと分かれ、敷地内にある神殿の跡地へ向かう。
本来の神殿は魔物を退ける結界の役割がある。これは前世で聖眼の力について調べていた時に知ったことだ。そのためには王国の守護神カルナリエ像に聖なる力を込めて祀らなければいけない。
王都の神殿はもちろんそれぞれの領地には神殿があり、聖なる力が込められた聖像がある。ただし聖なる力が込められていても、祈りがなければその力は失われてしまう。このことはなぜか、前世では知られていなかった。王妃に大発見とばかりに報告した私は口止めされたのよね……。なぜかはわからないけれど。理由が判明しないうちはオルフェ領だけの秘密にしておくのがよさそうだ。
「リシェル様、カルナリエ様の聖像はこちらです!」
聖像があれば優先して設置してほしいと事前にお願いしていたので、先にはいっていた建物職人の人たちと数人の騎士に案内され、私は崩れかけた場所を避けて神殿の中に入る。
「これがオルフェ領の聖像なのね」
私の身長より少しだけ大きい、薄いグリーンの鉱石でできた聖像は傷ひとつない。そっと触れてみるが、聖なる力を感じることはできなかった。放置されていたのだもの、当たり前よね。
「神殿の中で崩れていない部屋はあるかしら?」
その場にいた職人さんのリーダーらしき人が見取り図を広げて答えてくれる。
「城に続く渡り廊下に面した部屋は石造りだったので、無事でした」
「ではそこに像を設置しておいてもらえるかしら。今日中にできそう?」
「土台は持ってきていますので、載せるだけの処置となりますがそれでしたら、すぐに」
「よかった。じゃあお願いします」
思ったよりも早く設置できそうだわ。
「では、設置できたら、すぐに呼んでもらえるかしら」
最優先ですべきは、聖像へ力をこめること。そうすることでオルフェ領全域とまでは無理だけど、ある程度の範囲は結界に守られるはずだ。
「誰も犠牲にならないようにしたいわ」
過去は王妃に搾取されたこの力だけど、まずはオルフェ領のために惜しみなく使う。決意をあらたに自分を戒めるためにつぶやいた言葉だったけれど、その場にいた全員が聞いていたことに私は気づかなかった。
聖像の設置を待つ間、オルフェ城の中を見て回ろうとそのまま渡り廊下を進む。右手には古い噴水があるが水は枯れていて、花はおろか植物も生えていない。
ゆくゆくは花と緑でいっぱいにしたいわね。そんなことを思いながら、城への扉の前に立つと、ずっと後ろをついていた護衛騎士のひとりがさっと扉を開けてくれる。
「ありがとう」
私の言葉に、小さく礼をしてまた後ろに下がる護衛騎士さん。あとで名前を聞いておかなければ。ここまで送り届けてくれた騎士たちはいつまでここに残るのだろう。ここを去る前にお礼をしたいからあとで確認してみなくちゃ。やることは山積みだけれど、ここについてからやる気に満ちている。
「リシェル様、お部屋のご用意ができています」
私に気づいたメアリが自室に案内しようと近づいてきたので、いったん城内探索はやめて従う。案内された部屋は王城にいたときの何倍も広い立派な部屋だった。
家具はさすがに最低限しかないが、それでも王城よりすごいものだ。
「この短時間に整えてくれたのね。ありがとう」
「とんでもございません」
にっこりと微笑むメアリはもう私に怯える様子もない。お疲れでしょうと、すぐに温かい紅茶をいれてくれる。もっと仲良くなれたらいいわね。やるべきことが落ち着いたら……
紅茶を飲みながらそんなことを考えていると、ノックの音が響く。扉の前にいた護衛騎士から聖像の設置が終わったと告げられる。
再び渡り廊下から神殿の部屋へ向かう。無事に聖像の設置を確認できたので、職人たちにお礼を言うと、聖像の前に跪く。
『セイクリッドグロー 我が瞳に宿れ』
手を胸の前に組み、呟く。金色の光が靄のように広がると、聖像に注がれていく。
聖像全体からあふれ出た光は大きく瞬くようにはじけて辺り一帯に広がった。
「結界完了ね」
うっすら感じていた空気の重さがなくなり、まるで清浄な森の中にいるような空気間に変わったのを感じる。うまくいったことに安堵する。
そばに控えていた護衛騎士や職人だけでなく、どうやら周囲にいた全員がその光を目撃したようであとから大騒ぎになったとあとからメアリに聞いた。
気が急いてしまい、説明を誰にもしなかったのでテオドール様にはちょっとだけ怒られてしまった。
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