7.聖眼の目覚め
「……な、なんで」
思わず、素の言葉遣いになってしまうのは許してほしい。隣に座るメアリに目で訴えるけど、彼女もブルブルと何も知らないと首を振る。
そんな私たちを気にすることなく、笑みを浮かべているのは、辺境伯の長子テオドール様だ。
今日は長い髪を高い位置に結んでおり、騎士服を纏う姿は間違いなく美丈夫で、微笑みかけられたメアリは真っ赤になっている。
思わず見惚れてしまいそうになるのをこらえて、私は短く咳払いをして口を開いた。
「テオドール様がなぜここにいらっしゃるのでしょう?」
「もちろんオルフェ領に行くからだよ」
「ですから、なぜテオドール様が自ら行かれるのでしょう?」
辺境伯の跡取りであるテオドール様がなぜオルフェ領(魔の森)に?まったくもって意味が分からない。はぁ~っとため息をつく私にお構いなしに彼は楽しそうだ。
「リシェル様が書かれたメモを見ました。それで興味がわいてしまって。急遽、同行することを父にお願いしたんですよ。オルフェの神殿も修繕されるというので見てみたいし。」
なんだか、気軽な感じで話すテオドール様だが、こんな感じだっただろうか。
「テオドール様。魔の森、オルフェ領は辺境伯の比にならないほど魔物が多く瘴気も濃いと聞きます。そんな場所に辺境伯の跡取りであるあなたが行かれるなんて……」
あまりにも無謀ではないか。声にはださない言葉を汲み取ったのか、テオドール様は手を伸ばし、私の頭を撫でる。
「大丈夫。こう見えて、僕はとても強いんですよ」
また、撫でられた。なれない感触に顔が熱くなってしまう。
「うー。わかりました。でも無茶はしないでくださいね」
まっすぐに顔が見れなくて思わず窓の外を見ながら言ってしまう。
「そんな場所に行く自分のことは受け入れてしまうのにね」
テオドール様が何かつぶやいたけれど、目の前に広がる魔の森の中央部となる広場に続く道の目印を見つけ聞き逃してしまう。
いよいよだわ。前の記憶を思い返し、手に力が入る。ここで私たちは魔物に襲撃される。
森の中央部には都市の広場だった名残の場所がある。そこでいったん休憩を取る予定だ。前回はこの場所で魔物の襲撃を受けた。その時は護衛の数も少なく、魔物に慣れていなかった護衛二人が命を落としてしまった。
昨日の顔合わせではその護衛は見当たらなくてホッとした。公爵家からの護衛は皆騎士団に所属しているので、魔物討伐の経験者だ。とはいえ、気は抜けない。
広場に停まったのを確認して、馬車を降りようとするとメアリに止められた。
「王女殿下。いくら護衛がいるといってもここはもう魔の森です。馬車からは降りられないほうが」
「メアリ、ありがとう。でも大丈夫よ。公爵家の精鋭がいるんだもの。それに、ちょっと身体を伸ばしたいの。城に着くまであと半日近くあるでしょう」
心配そうなメアリに申し訳ないと思いながらも馬車を降りる。
そして、記憶にある広場の西側に目を向ける。確かあの方向だったわ。鬱蒼と生い茂る木々で薄暗い一帯を見つめる。
あっと思ったときにはもう頭上にいくつかの影があった。大型の猿に似た魔物がキーっと声をあげながら周囲の木の上に次々と群がる。
「魔物だ!全員、戦闘態勢に入れ」
集団の先頭にいた見張りの騎士が大きな声で告げる。
いざ魔物を前にすればやっぱり怖い。けれど、私はもう後悔したくない。深く息を吸い、胸の前で手を組む。祈るように静かに目を閉じて小さく呟く。
『セイクリッドグロー 我が瞳に宿れ』
聖眼を発現させる言葉はなぜか自然に頭に浮かんだ。呟くと同時に組んだ手と胸の奥から暖かい何かがどんどん湧き出てくる。懐かしい、これは聖なる光の力だ。金色の靄のように私を包んでいた光を意識して魔物が包囲する木の上全体に向ける。
『ホーリーライト』
唱えながら手を広げて放った金色の光はあっというまに広がり魔物を次々と包み込む。光に触れたところから魔物は黒い煙となり、跡形もなく消えた。
金色の光の勢いは衰えることなく、見える範囲をうめつくすとはじけるように粒子がちらばりあたりに雪のように降りそそぐ。
その場にいた騎士は呆気にとられたようにその様子を見ている。
よかった。うまく聖眼の力を使えたようだ。
そのまま周囲の気配を探る。聖眼が発現している間は、ある程度の範囲、魔物の気配を察知することができるようだ。瘴気の濃いところもはっきりとみることができる。
魔物の気配も瘴気の濃いところもないようだ。
ほっとしたら、膝に力がはいらなくなり、よろけてしまう。
「リシェル様」
いつの間にか隣にはテオドール様が立っていて肩と腰を支えてくれていた。
「瞳が両目とも金色に……」
心配そうに覗きこんだテオドール様がハッとする。そう、聖眼の力を使うとき、金と銀の瞳は両目とも金色になるのだ。
「じきに元に戻ります」
「あなたは、なんでそんなに冷静なんだ」
まいったなと言わんばかりにため息をつくと、私をヒョイと横抱きにする。
固まる私をよそに、彼は突然の宣言をした。
「リシェル王女殿下が、聖女の力で魔物を退けた!」
その一声ではじけるように、立ち尽くしていた騎士たちはうわーと歓声を上げた。
結構な大所帯の一団だったため、歓声により周囲の木々が震えるように響く。
私はそれを横目で見ながら、なぜ聖女の力と知っているのだろうと、横抱きにされたままの状況を横に置き考えることにした。
とりあえず、最初の襲撃は防げたのだし、犠牲になる人もいなかった。
そして塵となった魔物を思い出す。うん、なんかすごかった。前の私、なんでこの力をマルグリッド王妃のために使っていたんだろう。
ここまでの力を彼女は知っていたんだろうか。
色々と疑問は残るけれど、とりあえず抱えられたままなのが恥ずかしい。今は十歳だけれども記憶ではもう子供ではないから……
そんな私の気持ちをよそに、テオドール様はにっこりと微笑みかける。
「とりあえず馬車までお連れしますね」
「わ、わたし歩けますから」
おりようとジタバタすると、さらに腕に力をいれられてしまう。
「おとなしく運ばれてくださいね。姫様」
仕方がない。あきらめた私はおとなしく馬車へ運ばれることにした。
仕事が忙しく24日から毎週土曜日の更新となります。進みが悪くごめんなさい。。。。。。
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