3.魔の森への追放宣言(予定通り)
この国ーーエルディア王国は大陸のなかでも広大な土地をもっているが、瘴気や魔物の脅威に悩まされている。歴史書によれば、瘴気の浄化や魔物の討伐は一定周期で大々的に行われて国を維持してきたらしい。
日常的に魔物の脅威があるので、王都をはじめ、各領は強固な外壁に囲まれた砦のような作りになっている。王都を中心に東西南北の位置に、四公、四大公爵が治める領地があり、その四公領から北西を進んだ先にルディス辺境伯領があり、そのさらに先にオルフェ領、私が譲り受ける魔の森を含む広大な土地があるのだ。なぜそんな飛び地に王領があるのかは語られていない。その昔は王都に劣らない大きな神殿があり、第二の王都と呼ばれるほど栄えていたようだけれど。。。。。言い伝えによれば、あるときから周辺の森に瘴気があふれ、魔物が一気に増えたことで当時の王はこの地を放棄し、誰も住まわない領地となり今にいたる。
魔の森の先は大きな山脈があり、その向こうにはまた別の国があるらしいのだが、山脈は人が超えられるようなものではないため、向こうの国とは交流がないようだ。
今日は珍しく、セシリアもイザベルも私を虐めにはこなかったけれど、あの場にはいるのよね。そろそろ侍女が呼びにくる時間だ。身構えた瞬間、ドアをノックして侍女が入ってきた。
「リシェル王女殿下は謁見の間に呼ばれておりますので、昼までに身支度をするよう仰せつかっております」
「・・・・・・わかりました」
「では、お支度をさせていただきます」
うつむいたまま、侍女は私の服を脱がせ始める。
「っつ。これは・・・・・・」
彼女は私の体のあちこちにある傷や打撲による痣の多さに驚いて、思わず顔をあげて私のほうに目をやるが、目が合いそうになり、慌てて目を逸らす。
「失礼いたしました」
その瞳を見たものは不幸が訪れる。そんな噂は王宮内だけでなく、王国の民すべてが知っている。災厄なんかじゃないと知っているのは私だけだ。
悔しさと悲しさが入り混じった、何とも言えない気持ちになったが、ぐっとこらえて目を伏せる。これで侍女も怯えず、支度がはかどるはずだ。下手に遅れれば、機嫌を損ねてこちらの要望が通らなくなるかもしれない。落ち着いて、うまく立ち回らなければ・・・・・・。
「リシェル王女殿下、謁見の間までお連れいたします。」
考え事をしているうちにいつの間にか、侍女は部屋の入口まで下がり、そばには王宮騎士団の制服を着た、若い男性が立っていた。
ーーこの人は・・・・・・。苦い思いを隠してうなづく。一見柔らかそうに見える物腰と張り付けたような笑顔、前回はだまされたけれど、この人は王妃の密使だ。常の私と行動を共にし、地下牢で、王妃に利用されていると告げた騎士だ。この男が私の一挙一動を王妃に漏れなく報告したのをきっかけに、私は処刑されたのだ。今回は、この男を追い返さなければ。石造りの廊下をすたすたと歩く男の背中を見つめながら後を必死についていく。まだ十歳の私に歩調を合わせる気は全くないらしい。ようやく王家の紋章がはいった重厚な扉の前についたときにはかなり息があがっていた。
ーーいよいよね。男が無言で合図を送ると、扉の両脇に控えていた衛兵が動いた。 軋む音とともに、扉がゆっくりと開かれていく。
私は広間へ足を踏み入れた。
冷たい石の床に響く足音は、かつて夢に見た光景と重なり、奇妙な既視感を伴っていた。
前と同じ場面に、あらためてリシェルとしての人生が二度目なのだと実感した。
正面の玉座には、父である国王アルフォンスが座している。光を受けて輝く金髪と金の瞳はするどく私を射貫く。そういえば、彼だけは私の目をまっすぐに見ていたわ。さすがに陛下が娘を恐れて瞳を見ることができないなんておかしいものね。
隣には、栗色の髪を結い上げた王妃マルグリッドが底意地の悪い笑みを浮かべている。両脇に立つセシリアとイザベルは好奇心と嘲りを隠そうともしていない。マルグリットと同じ淡いグリーンの瞳をみるたび、回帰前は怯えたものだけど、いろいろと知った今ではなんとも思わない。
少し離れた位置には、第一側室のジュリスが控えていた。ブロンズヘアと淡い青の瞳は静謐で、彼女は子供たちを庇うように佇んでいる。ユリウス王子は父王を真っ直ぐに見つめ、落ち着いているようだったけれど、第三王女のマリアンヌはジュリスの背に隠れ、淡い青の瞳を不安げに揺らして私が入ってきた扉のほうをうかがっていた。
玉座の前には四大公爵が向かい合うように並び立ち、その背後には、辺境を守るエドモン・ルディス辺境伯が控えている。回帰前は公爵の間を進むことができなかった。四公と辺境伯は自分たちのその魔力と圧を隠すことなく私に向けていたからだ。すっかり怖気づいた私はその場に跪いてしまった。そしてその状態で王命を聞くことになる。
――そんな無様な姿は二度と見せないわ。
四公の間を何事もないかのように進むと、玉座の前で臣下の礼をとる。その直後、四公の誰かからつぶやくような声が聞こえたが、それには振り返らず顔をあげるとまっすぐに父を見つめる。その瞬間目があうと軽くうなずき口を開いた。
「第三王女リシェルに命ずる。王国の守護神のお告げにより、辺境の先にあるオルフェ領を治めよ」
まったく表情を変えず、父は私を見て言った。そこからはなんの感情も読み取れないが、かなり顔色は悪いようだ。王国に現れた魔物の異様な双眸情報や、討伐しても減らない魔物の数、それに加えて、国内の作物の不作など、あげればきりがない不吉な兆し―― これらは王国に災厄が訪れる前触れと判断され、国全体が不穏な空気に包まれ始めている。
そういった情勢にも関わらず王妃は相変わらず民を慮るような活動も行わず、自分の欲のままに生活をしている。それをただそうとしない、国王に対して一部の貴族から不満も現れ始めているのだ。
「はい。わかりました。カルナリエ様のお告げに従います」
短く返事をして、一礼すると大きく息を吸い込んでなるべく声を張るように言葉にする。
「オルフェ領に向かう準備でお願いがございます。」
「なっ。なにを」
私の言葉を聞いた王妃が口をはさむが、父がそれを押しとどめるように手をかざす。
「申してみよ」
「ありがとうございます。できれば、回復薬やポーションを出来る限り多く頂きたいのです。魔の森へ向かうまでの道も決して安全ではないと聞いています。無事に到着できるようご配慮いただければと存じます」
「わかった。用意させよう」
王は短く答えると、私の後ろに立つ公爵たちに目線をうつす。
「王女リシェルの出立は1週間後とする。それまでに四公爵と辺境伯の騎士団からそれぞれ護衛をだす準備を。護衛については、送り届ける役目の者の他に、オルフェ領での護衛騎士を別に選別せよ。人数については、各領で調整してくれてかまわない」
深いため息をつくのが後ろで聞こえてくるが、一拍おいて、公爵たちと辺境伯が返事をする。
父はうなづくと、また私をみつめて静かにつづけた。
「護衛はもちろん侍女や使用人についても、必要最小限の同行となる。よいな」
「はい。十分です。配慮いただきありがとうございます」
深く礼をしながら返事をし、謁見の間を後にする。私が出ていくか行かないかのタイミングで公爵たちと辺境伯が護衛についての相談をはじめたようだった。
――とりあえず、前は用意できなかった回復薬とポーションは持っていけそうだわ。自室に向かう廊下でようやく胸をなでおろす。
追放宣言は予定通りだった。それでも前回のように絶望はしていない。思わず両手をにぎりしめてぐっと力をいれる。
「とにかく、やるしかないわ!」
毎週金~日の3話更新目標で頑張ります。
☆で評価いただけますと励みになります(*´▽`*)




