39.よどみに浮ぶ泡沫は、かつ消え、かつ結びて 〇★
最悪な気分って、案外まともな不幸じゃ来ない。
休みの日、部屋にひとりでいるのに、親の小言や仕事の顔が勝手に浮かんで、自分の時間を食い荒らしてくる――ああいうのだ。
真昼の泉は、透明すぎる。
夜のあいだはまだいい。双子の月の明りは水面に映るだけで、水底の暗い水を照らし尽くせない。
外の視線も、外の気配も、重たい水の中に溶けて紛れて、底にいる私までは届かない。
でも昼は違う。
陽の光が真上から降り注いで、泉の底まで容赦なく差し込んでくる。
私が水底で膝を抱えて背を丸め隠れようとしていてもお構いなしだ。
水が澄んでいればいるほど、逃げ場がない。
(……やめて。見えんな。見るなって言ってんだろ)
見られるのが嫌だ。俺の居場所は此処しかないのに。
それさえも自由にならないのか。
視線を遮るだけなら、水の中に土煙を立てればいい。
落ち葉を巻き上げて水面を覆えばいい。水流でかき回せばそのくらいできる、
やり方は分かる。簡単だ。水は俺だ。水面を平らにするより簡単なことだ。
でも、その簡単をいざやろうって思った瞬間、湧き口にものが詰まるような嫌な感覚がある。
汚れるのは、嫌だ。
景色が見えなくなるからじゃない。エビや小魚が困るからじゃない。
ゴミがゆっくり沈殿していってまた巻き上がるのを見るのが不快だ。
汚れた水だって思われるのが嫌だ。
――私は綺麗だ。
不味そうな水だって思われるのが嫌だ。
――私は美味しい。
(……は?)
なんだそれ。俺はなんでそんなことを気にする?
俺は泉で、水だけど――いや、そうじゃない。評価の話だ。
なんで人にどう見られるとか気にしてるんだ?
それに、味? 誰かに飲まれてどう思われるとか、気にしてどうする。
自分を舐められたり飲まれるとか、気持ち悪いだけだろ、
(これ、いつからだよ……俺……いつから、こうだった……?)
怖い。分からない。自分が変わっていくのが怖い。
今まで意識したこともなかった。
知らない間に訳の分からない価値基準が、俺の中で上位を占めるようになってた。
見られるのも、飲まれるのも、祈られるのも嫌なら、汚い泥沼にでもなればいいのに。
それはどうしても許容できないって思考――いや、本能みたいなものが根付いてる。
初めてそれを強く思ったのは――
――飲んだだけで苦い顔。顔をしかめる。吐きそうな顔。
あいつが私を初めて口にした時のことを思い出す。
不味そうな顔をされて、黒いゲロを吐かれて、カッとなって身体を創って水流をぶちかました。
もう、あの時にはそういう本能が働いていた。
思い出すだけでムカついて、砂利が巻き上がって――あいつの顔を思い出すと、途端に水が冷たく重く沈んだ。
今思うと、あれは俺の浄化が、あいつの中にあったあの黒いのに効いたってことなんだろう。
量産型で浄化した奴の中にも、吐いた奴らがいた気がする。
(浄化……)
それを思い出して、また気持ちが沈む。
割れた木彫り。
芯が黄金色に輝いていた。
あれは陽の光の反射とかじゃない、金属の光沢だった。
直れ、と思って必死に浄化した。
あの瞬間の手応えが、まだ掌の内側に残っている。
何かが嵌った。切り替わった。
私の中に、知らない水路があって、そこにいきなり栓が落ちた。
流れが変わって、別の方に向かった。
浄化のつもりが、浄化じゃなくなってた。
(なんなんだよ、あれ……何が起こったんだ……)
今度、浄化を使ったら、また“あれ”が起きるかもしれない。
予想もつかない変化が勝手に起こるかもしれない。こっちの都合も感情も無視して。
(冗談じゃねえ。勝手に変な現象起こすな)
浄化を使うのが怖い。
濁らせたら、戻したくなる。戻したくなったら浄化を使う。
そして浄化は、もう――直す力じゃないかもしれない。
……だから濁らせられない。
結局、昼間は「泉」として過ごすしかなかった。
身体を失くせば、泉全体が“目”で“耳”になる。
水面を覗き込まれることも、意味の分からない呼びかけの声も止められない。
(ああ、やっぱり泉は牢屋だ……)
空が白んで光が差し込んでくる。
水の中が明るくなっていって、夜の暗さと冷たさを追い出していく。
隠れられる暗がりを失くして、俺はまた身体のない泉に戻る。
※※※※※
朝、早くから社には人が集まってくる。
大工どもや、道を作った連中は、たぶん、近所に住みついている。
毎日毎日、飽きもせず、ぞろぞろと社に参拝しにくる。
いつの間にか、手の合わせ方とかお辞儀の回数とか、泉の方はじっと見ないとか、まるで作法があるみたいに同じようなやり方で祈ってくる。
祈られると俺は少し増える。一滴だかコップ一杯だかわからない。でも、確実に増えてるのがわかる。
(やめろ。俺に祈るのを朝のルーティーンにするな。柏手を打つな、供物を捧げるな)
増えるのは、気持ちいい。
気持ちいいから気持ち悪い。
嬉しい。吐きそうだ。
全部が一緒に来る。
水である俺の器に、人間の心が無理やり詰め込まれて、内側から裂けそうになる。
それとも逆なのか? 水の心を人間の形に押し込んでるのが俺なのか?
知るかよ。水の心ってなんだ。水に心なんかねえよ。
風に舞って落ち葉が水面に落ちる。
木の葉の影が水底に映り込んで、波紋が広がる。
それが落ち着かなくて、速攻で葉っぱを底に沈めて、水面を平らにする。
ほんの少しだけ落ち着いてしまう自分が嫌だ。
――その日も、来た。
足音はもう覚えている。
森が踏まれるリズム。枝が鳴る間合い。湿った土の圧。あいつの重み。
木こり野郎。
……いや、今はもう、そう呼ぶのも腹が立つ。
(……)
俺は水面を凪がせたまま、動かない。揺れたら、返事になる。反応したら、期待される。
増えた期待は、また私を満たして、俺を増やして、“俺”を削る。
岸に、影が落ちる。
いつものように跪く。いつものように頭を垂れる。いつものように――祈りの姿勢を取る。
でも、今日は。
名前を呼んでこない。
言葉でも、祈りでも、あの名前で呼びかけて来ない。
この世界の人間どもが口にする意味の分からない音の中で、唯一、言葉として分かるあの音。
イズミール。
それが、ない。
(……なんだよ)
勝手に名前だと誤解されて、何度も何度もしつこく呼ばれて迷惑だった、
それがなくなっただけだ。
嬉しいはずなのに、水の底に氷の塊が沈んでいるみたいだ。
なんで、俺がこんな気分にならなきゃいけない。
なんで、責められてるみたいに思うんだ。
呼ばないのは、怒ってるからか。
呼ばないのは、俺が“おかしくした”からか。
割れた木彫りの花。
割れたままの形。
黄金になった芯。
(……俺が壊した)
自分のせいだ、って感覚は、普段は外へ向く。あいつが悪い。盗っ人が悪い。
勝手に祈って、勝手に俺を売り渡して、商売にして、勝手に俺を祭り上げやがって。
でも、割れた音だけは内側に落ちたままだ。
乾いた、あの音。
俺の中のどこにも心臓はないのに、あの音がずっと残っていて。一定の間隔で、ずっと胸の奥に響いてくる。
(……お前、なんでまだ来るんだよ……突っ返した意味くらい、分かるだろ)
贈られたものを投げつけるみたいに返して、壊した。
その上、訳の分からない力で、訳の分からない変化を起こした。
これを好意的に解釈するなんて無理がある。
――初めから好意なんかなかったら?
――あれが本物の金なら、むしろ嬉しいんじゃないのか?
――治療に使うよりも、もっと金になるじゃないか?
“最悪”がまた、浮かんでくる。
言葉が通じないって、こういう時に残酷だ。
怒鳴れない。言い訳できない。確かめられない。
だから勝手に想像して勝手に傷つく。最悪だ。
あいつの後に続くみたいに、ぞろぞろと人が集まってくる。
黒髪の奴、化け物っぽくなりかけてる奴、高そうな服を着た奴、色々いる。
皆、あの水色のタスキを身に着けている。
皆、泉の畔に跪いて、手を合わせて祈ってくる。
俺の信者、俺を買いに来た客だ。
ああ、俺が欲しいんだろ。それ目当てで毎日ご苦労なこった。
なぁ、おい。俺はそんなに高く売れるのか?
イケメンで、背が高くて、腕っぷしも強そうで、モテて。
それで、金まで欲しいのかよ。
――俺を売った金で食う飯は旨いか? なぁ、どうなんだよ。
(……量産型、出さないといつまでもいるんじゃないか)
頭の隅でそう思う。
姿を見せる代わりの水フィギュア。
最近ではすっかり、俺の“主力商品”になってた。
そう、文字通り商品だったんだ、あれも俺だから。
でも今は。
出す気がしない。
出したら、また“俺の知らない何か”が起きたらって思うと怖い。
浄化の延長で、勝手な変質が走る気がする。
俺は、今まで「黒いのを溶かして治してる」と思ってた。
人を、人の形に。獣を、獣の形に。
俺の力は“正しい形へ戻す”力なんだと――どこかで信じていた。
でも、違ったかもしれない。
正しい形なんて、俺が決めたわけじゃない。
だって、俺はこの世界のことを何も知らない。
俺が勝手に化け物だって思ってるだけで、この世界じゃ普通の生き物だったり種族だったりするんじゃないのか?
”いちゃいけないものだ”なんて気持ちが勝手に湧いてくるけど、これだって”俺は綺麗でおいしい水だ”なんていう、あの気味の悪い本能みたいなものじゃないか。
俺が“治してる”と思ってたのも、”変えてた”だけかもしれない。
(そもそも、何なんだよあれは)
黄金化。
金の斧、銀の斧――って、そういう話があった。
子どもの頃に読んだ。いや、読まされた。道徳とか、正直とか、そういうやつ。
泉の女神が出てきて、落とした斧を返して――
(待て。あれ、斧は三つあるだろ。鉄と銀と金)
落した斧が銀や金になったわけじゃなくて、確か正直に答えると三つとも渡される。
鉄の斧を金に変えるとか錬金術じゃないか。
は? 泉の女神と錬金術、関係ねえだろ。
俺は何だ。何になった。どうしてそんな機能がついてる? なんだよその仕様。
原子とか分子とかどうなってんだよ……。
意味が分からない。
分からないけど、一つ、思い出した。
黄金の種。
あれ、あいつがどこかで買ってきたもんだと思ってた。
キチガイじみた造り込みで、真似できないって思ってたけど――
(……あれも、俺がやったんじゃないか?)
喉がないのに喉が鳴るような感覚がした。
木の皿に盛られた梅みたいな果実。
赤い皮。丸い形。掌で転がる軽さ。匂いも味も分からないけど、見るからに甘酸っぱそうなあの実。
俺はものを食えない。だから、あんなのを置かれても迷惑なだけだ。
でも、腐らせたくなかった。
無駄にしたくなかった。
もったいない、って思った。
(……俺、あの時、何をした)
食べたふりをするみたいに。おままごとみたいに。口も開かないのに食べる仕草だけして。
意味もなく、身体の中にねじ込んで、浄化を、繰り返した。
俺は、果実を「腐らないように」したかったんだっけ。
それとも、「消したかった」んだっけ。
それとも――「捧げたって行為」を腐らせたくなかったんだっけ。
(違う)
違う違う違う。
あんなクソ裏切り野郎の捧げ物を無駄にしたくないなんて、思ってない。
……思ってない、はずだ。
でも、身体の中を沈んでいく果実に浄化を何度も。しつこく叩きこんだ。
(そうだ……俺、あの時、初めて思った)
俺はスライムみたいな化け物なんだ、って。
人間の形を作っても、中身は水で、噛めなくて、飲み込めなくて、味も分からなくて。
“人間のフリ”が、フリにしかならないってあきらめて、腹を括って。
浄化は俺にとって食事みたいなものだなんて思いながら、あの実を”食べた”。
(あの時、浄化じゃない何かの力を使ってたのか……?)
それで、実の中の種が黄金になる?
やっぱり意味が分からない。
俺の中で怒りと恐怖と困惑が渦になる。
けど、水面を乱せば外がざわつく。ざわつくと祈りが増える。祈りが増えると俺が増える。増えるのは怖い。
悪循環だ。俺の存在そのものが悪循環で出来てる。
※※※※※
岸で、あいつとその他大勢がまだ頭を下げてる。
もう、結構な時間がたった。
でも、俺は応える気になれない。
ただ、沈黙だけがある。
それが余計に刺さる。
俺は、水面をわずかに揺らした。返事じゃない。息だ。溜め息みたいな揺れ。
すると、あいつの肩が僅かに動く。何かを言いかけた――ように見える。でも言わない。言えないのか。言わないのか。分からない。
後ろの連中が騒ぐ。誰かが地面に額を擦りつける。誰かが手を掲げる。誰かが泣く。音が混ざって、意味のない熱になる。
(……やめろって)
俺は水底の一番深い場所を思い出す。あそこなら遠い。音も薄い。映り込みも薄い。
――でも昼は透ける。透けるから隠れられない。隠れられないから泉でいるしかない。泉でいると、全部が入ってくる。
逃げ場がない。
(汚していいから、濁らせろよ)
頭の隅が言う。
でも、その「汚していい」が、吐きそうなくらい嫌だ。誰に見られてるわけでもないのに、嫌だ。
自分が自分を許せない。水が濁ることが、罪みたいに感じる。罪――誰の? 何の? どうして?
(……俺は、男で、元人間で)
そんなのが、今さら何の役に立つ。
男だった記憶はある。
会社の記憶はある。
人間関係に疲れていた記憶はある。
ちゃんとしていないと叱られる記憶もある。
評価されないと腹が立つ記憶もある。
正論で殴られて、理想で比べられて、できない側に置かれ続けた記憶もある。
ロクでもない人生の、しょうもない記憶だ。
こんなものに縛られないで、女神さまだって崇められてチヤホヤされてればいいだろ。
(冗談じゃない、商品扱いされて都合良く消費されるだけだ)
日が傾いて、岸の影が、少しだけ揺れた。
あいつが立ち上がる気配。帰るのか。もう。やっと。
その瞬間、俺の中で小さな安堵と不安が生まれて、同時にそれが腹立たしい。
帰ってほしい。
来てほしい。
矛盾が、俺を二つに裂く。
あいつが背を向ける。
後ろの連中ががやがやと騒ぐ、水面を指差し、何かを訴えかける。
畔に額を擦りつけて懇願してくる。
半分融けたみたいな顔を向けて、懇願してくる。
(やめろ、やめろ、やめて。俺に頼るな、縋りつくな、知らない、俺は何も知らない)
そいつらの言葉が俺には一つも分からない。
でも、必死の表情や態度が見えてしまうと、罪悪感と“なんとかしてあげたい”って気持ちが浮かんでくる。
この“なんとかしてあげたい”も、信仰で増えた俺が押し付けてくる気持ちなんじゃないか。
あいつが、騒ぐ連中を説き伏せるみたいに語り掛けているのが見える。
水面に映るその横顔は、硬くてしんどそうに見えた。
(顧客に商品が提供出来なくてクレーム対応に追われてますってか? ざまぁ)
心の中で揶揄の言葉を口にする。
嫌な気分が湧き起こるだけだった。
俺は、余計なことを考えないように、何も考えずにじっと過ごす。
陽が落ちて、暗くなるまでずっと水面を平らに保つ。
やがて、足音が遠ざかって、森の音が戻ってくる。
※※※※※
二つの月が別々の方から昇って来て、近づくにつれて夜が更けていく。
水に差し込む光が無くなると、やっと、隠れられる場所が出来る。
でも夜が更けると、あいつは一人で泉の畔にやってくる。
何も言わず、祈りも呼びかけもしてこない。
(来るなよ。何か言えよ。いや、やっぱ喋るな。どっか行けよ)
あいつは、いつだったか吹いたあの笛を取り出す。
(やめろ、なんなんだよお前、もう構うなよ)
夜の冷たく澄んだ空気に笛の音が響き渡る。
水面を揺らすことなく、ただ、水の中にまで届くその音色。
水が湧き出し、波紋を重ねて刻んだ記憶を呼び覚ます。
(やだ、やだやだ、やめろ、そんなの聞かせるな)
私はそれを聞きたくなくて、水の底で膝を抱えて丸くなって過ごす――
外から響く音が、森の音だけになるまで水面を鎮め続けた。
※※※※※
祈りには応えない、姿は見せない、浄化を使わない。
でも、水を汲まれるのまでは止めない。
止める為に何かすれば、また、勘繰られて、持ち上げられ、利用される。
そんなのはうんざりだ。
そんな風に何日も何日も過ごした。
それでも人の列は増える一方で。
あいつは一日中、泉の畔でやってくる人間の応対に追われていた。
祈りの作法っぽいものを語り、大人しく座らせ、でも、祈りの声は寄こさない。
中には怒鳴る奴とか、制止を振り切って泉に飛び込もうとする奴までいた。
あのクソ野郎はイケメンのくせに、陽キャというよりは堅物で不器用そうなフリをしてる。
そんなのは勿論、フリだ、フリ。
俺を裏切って、売り飛ばしたんだから、フリに決まってる。そうに違いない。
あいつは盗っ人野郎の手下でタスキもしょぼい下っ端だ、
そのくせ、愛想笑いや揉み手の一つもできない……商売に向いてない。
今日も、ゴテゴテ着飾ってタスキも豪華なババアに詰め寄られて、ガミガミ言われてる。
……ざまぁ、マジざまぁ。
俺のマネージャー気取りでそこにいるなら、それもお前の給料分の仕事だぞ。
(……)
……そんな風に思おうとしたって、どうしても気分が悪い。
そもそも、話の通じないクレーマーなんか見てるだけでも嫌だ。
あの厚化粧、ヒスってる顔、指でつまめそうな青筋。
何を言っているのか分からないが、水面が揺れそうなくらいの声量。
いたよ、ああいうババア。
ルールや正論を持ち出すと感情論にすり替えてヒートアップする奴。
お前のお気持ちなんか知らねえよ。
ふつふつと水底の砂利が跳ね始める。
俺は訳の分からない状況に置かれて、勝手に祈られて感謝されて、裏切られて。
ぐっちゃぐちゃに悩んで、ちゃんとしていられないってのに。
なんで真昼間からこんなものを見せつけられてるんだ?
(……お前もよぉ、なんか言い返せや。飾りか、そのイケメン面は)
パンチかますなり、篭絡するなり余裕だろうがよ、てめぇは。
いつまで言いっ放しにさせてんだよ。追い返せよ、そんな奴。
商品価値が下がるから、アイドルには手を触れないでくださいとか言えばいいだろ。
お前にとって大事な金づるで、商品なんだろ、俺は。
だったら、自分の仕事くらいしろよ。
ふざけんな。
いい加減にしろ。
困ったことになった、みたいなツラしてんじゃねえ。
お前のせいで、困ったことになってんのはこっちの方なんだよ。
俺の気も知らないで、朝から晩までシケた面を見せてきやがって――
(俺はやっぱりこいつが嫌いだ、大嫌いだ、気に入らない、ムカつく)
水面が泡立つ。
水の中が渦巻く。エビ、小魚は水流で端っこに流しておく。
噴き出しそうな水柱をなんとか押し留めて、水面にポコポコと水の塊を押し出す。
身体を創る要領で、俺に似て俺じゃない小さな人型――量産型俺を生み出す。
一つ、二つ、三つ、もっと、たくさん。
木こり野郎が、ババアが、他の連中が水面を見て唖然とする。
周りから驚愕、歓声、怒号みたいな声が響く。
ムカつく、ムカつく。人を見世物にしやがって。
面倒くさいことを人に押し付けて、知らんぷりしやがって――
(うるせぇ、黙れ! ここからいなくなれーっ!!)
俺は届く範囲に居る全員に向けて、量産型を突っ込ませて蹴りを食らわした。
これは浄化のためじゃない、ただ気に入らない奴への制裁、八つ当たりだ。
浄化でどうなるかとか、もう知ったことか。
そんなのは自己責任だ、浴びたくて来たんだろ。
なら、勝手に浴びていきやがれ。
女神さまの制裁だ、ありがたく食らいやがれ。




