第9話 ここで声をかけないと
店内に入って来たのは、白銀の胸当てを身にまとい、腰に剣を携えた赤髪ロングの若い女性。
(もしかして、ティアさん……?)
どうしてここに? なんて疑問が浮かび上がるが、ここはアイテムショップだ。冒険者が立ち寄るのはごく普通のことで、そしてこういうことが起こるのも絶対に無いとは言い切れない。
どうやらその女性は一人で来ているらしい。初めて会ったあの日はティアさんの他に、同じパーティーだという二人の女性と一緒だった。
(まさか解散したとか?)
そんなことが頭の中を駆け巡るけど、一人で考えていても答えが出るわけない。
それに他のお客さんもいるわけだし、まさかレジを離れて話しかけに行くわけにもいかない。
するとティアさんと思われるその女性がこっちに向かって来ているのが分かった。
近付いてくるほどに、やはりティアさんで間違いないという確信に変わっていく。
「すみませーん、これください」
レジに置かれたのは回復ポーションなどの回復アイテムがいくつか。
まあそれはいいとして、俺の気のせいじゃなければ目が合ったと思うんだけどな。
「はい。袋はどうしますか?」
「うーん、もらおっかな」
「かしこまりました」
そして俺はアイテムを袋に入れていく。その間はティアさんの表情を見ることはできない。いったいどんな顔をしているのだろう。
「お待たせいたしました」
袋詰めが終わりそれをティアさんの前に置いた。あとは代金をもらうだけだ。……接客が終わってしまう。
(ここで声をかけないと、もう二度と会えないかもしれない……!)
ティアさんに助けてもらったのは、ほんの一ヶ月ほど前。俺にとってティアさんは命の恩人なので忘れるわけがない。
だけどティアさんにとってあの出来事はどうだっただろうか。覚えてくれているだろうか?
日本にいた時の俺だったならきっと、「やっぱり別人かも」なんて考えて結局は何もしていなかったに違いない。
だけど転生して若返ったことで、今度こそは後悔のない生き方をしようと決めたんだ。
「ありがとう。お金、ここに置けばいいのかな? ピッタリあるはずだから確認してね」
確認もなにも銀貨一枚なんだから一目で分かるというのに。まるで少しでもその場にいようとしているみたいだなんてのは、都合のいい考えだろうか?
「はい、確かにピッタリですね」
「うん。それならよかったよ」
そして流れる沈黙。今ならまだティアさんは目の前にいる。そう考えると迷っている時間などなかった。
俺が「もしかしてあなたは……」と口に出したとほぼ同時に、「もしかして君って……」という言葉が投げかけられた。
「すみません、俺は後で大丈夫ですから」
「ううん、私こそ後でいいよ。でも多分、私も君も言おうとしてることは同じだと思うよ」
「俺もそんな気がします。ではお言葉に甘えさせてもらいます。……ティアさん、お久しぶりです」
「うん、こちらこそ。キョウマ君が元気そうでよかったよ。こんなことあるんだねー」
「ほんとですね。実は俺、声をかけようか迷ってました」
「えー、どうして?」
「俺にとってティアさんは命の恩人です。でもティアさんは俺のことを覚えてくれているのかなって」
「それはもちろん覚えてるよ。私だって時々キョウマ君は元気かなって思うことがあったんだよ」
「そうなんですか?」
「うん。それに私のほうこそ覚えてくれているのかなってちょっと不安だったんだよ。もしも人違いだったら悪いから、なかなか聞けなくて」
「俺がティアさんのことを忘れるわけないですよ」
「嬉しいこと言ってくれるね!」
「あとのお二人はどこにいるんですか? まさかパーティーを解散したとか……?」
「今日はお休みにしたから、きっと好きなことをしてるんじゃないかな。それにしてもキョウマ君、アイテムショップで働いているんだね」
「はい。ティアさんにはお話ししましたけど、俺は冒険者として今以上は成長できないなと思ってますから」
「うん、それも覚えてるよ。でもだからといって冒険者としての道が途絶えたわけじゃないと思うよ。例えば国選パーティーに入るとか、ね?」
「国選パーティーですか」
職安の受付の女の子にも同じことを言われたっけ。
「そうですね、一応考えてみます」
「うん。でもキョウマ君の人生はキョウマ君が決めるよね。余計なこと言ってごめんね」
「いえ、全然余計なんかじゃないですよ」
「ありがとう。……あっ、後ろに人が来たから帰るね。またキョウマ君に会えて嬉しかったよ」
「俺もです。よかったらまた来てください」
それから夕方になり、終業時刻になった。
「お疲れ様でした」
「ああ、お疲れ様。ところでキョウマ、今日若い女の子と話していただろう?」
「すみませんでした、仕事中なのに。思わぬ偶然だったのでつい話し込んでしまいました」
「いや、それはいいんだが、もしかして彼女か?」
「いえ、そういうのじゃないです。あの人は俺にとって恩人なんです」
「恩人? 何かを助けてもらったってことか」
「はい」
「そうか。詳しくは聞かないが、また会えてよかったな!」
「はい!」
そうだ、俺にとってティアさんは恩人だ。でも、もしもまた会えることがあったなら、今度はもう少し長く話せたらいいな。
そんなことを思いながら、今日も普通の一日が終わろうとしている。




