第8話 異世界ものは正解を書いている
時刻は朝八時。今日は初出勤日だ。勤務先はアイテムショップで、ラインゴットさんという人が個人で経営している。
その店は王都から少し離れた街にあるため、宿を変えることも考えなければいけないな。……というかもう、ほぼ冒険者じゃないんだから宿暮らしをしなくてもいいんじゃないか?
日本に置き換えるのなら、毎日ホテルから出勤するようなものだ。
(一応まだ資金には余裕があるけど、早いうちに決めないと)
ラインゴットさんは細かいことを気にしない性格で、勤務中の服装は自由。なのでこの世界の一般的な服装に着替えた。
するとどうだろう、とても落ち着かない。だって今まで着てたのが鎧だったんだから。ゲーム風に言うと、『鋼の鎧』から『布の服』になったような感じ。
それじゃあ防御力もガタ落ちするというものだ。だけど多分アイテムショップの店員に防御力は必要ないから問題ない。
ここ王都から職場がある街までは馬車の定期便があり、所要時間は三十分ほど。歩いて行けなくはないけど、歩き疲れた状態で仕事するというわけにもいかないだろう。
人生初の馬車通勤で到着した後、店の裏口から入った。昨日面接した場所はラインゴットさん夫婦の家で、店とは少しだけ離れている。
「おはようございます。今日からよろしくお願いします」
「おう! こちらこそよろしくな、キョウマ」
そして売り場へと案内された。レジから店内を見渡せるほどの広さで、そこにはいくつもの棚があり、回復系・攻撃系・補助系などの用途別にアイテムが並べられている。
さらにそこから属性別に分けられたりしており、正しく有効な使い方ができるよう配慮されていることがよく分かる。
その多くは俺も一度は使ったことがある物で、アイテムを持っていると持っていないのとでは、生存率が大きく変わってくるだろう。
「まずは商品の位置と品出しから覚えてもらおうか。品出しは開店前にもするが、開店中でも行う。特に一番売れているのは回復ポーションだから切らさないよう十分に注意してくれ」
「分かりました」
「どれがどのアイテムなのかっていう説明は必要か?」
「いえ、それは大丈夫です。頭の中に入ってますから」
「さすがCランクだな! 即戦力は助かるぜ。本当は24時間営業にしたいところなんだが、さすがにそれは無理だからな。だからもしかしたら将来的には俺とキョウマで昼と夜、交互に担当するなんてことがあるかもしれないな。あ、でもそれだと朝の担当がいないか」
「スフィアさんもレジを担当されたりするんですか?」
「そうだな。今まではそういう時もあったんだが、これからはスフィアの力は借りられなくなるんだよなー」
「何か理由があるんですね」
「ああ。実はな、スフィアが妊娠したんだよ」
「おお! おめでとうございます!」
「ありがとな!」
「だから従業員を雇う必要があったんですね」
「ま、そういうことだ! さすがに妊娠中に働いてもらうわけにはいかないからな」
ラインゴットさんは31歳でスフィアさんは27歳。
日本での俺は30歳だったから、今のラインゴットさんの状況に俺がなっていても不思議じゃない。
(俺、20代の頃ずっと何してたんだろうな)
家と職場の往復になっていた日々を振り返った俺はこうして今、再び20歳になってからようやくそれに気が付いたんだ。
「ところでキョウマ、鑑定スキルってどんな感じなんだ?」
「なんというか説明が難しいですけど、対象アイテムのことが視覚的に分かるようになる感じです。スキルが説明してくれると言いますか、文字が見えてくるんです」
さらに詳しく説明すると、対象物の近くに日本語で説明文が浮かび上がる。異世界もの作品で見かけるのと同じような感じなので、初めて見た時は本当に驚いた。
移動が馬車であることや鑑定スキルのことなど、異世界もの作品はどうして正解を書くことができるんだろう。作者さんが実際に見て来たとか?
「視覚的に、か。例えば今ここに並んでいる商品が俺とは違って見えるってことか?」
「いえ、俺が対象物として捉えているものに限ります」
「そうすると、もし対象のアイテムに異常があったりした場合でも分かるってことか」
「そうですね。例えば回復ポーションが入っている瓶の形は決まっていますが、もしその瓶の中身が毒薬だった場合でもスキルで分かります。もっとも、その二つは誰でも簡単に色で判別できますけどね」
「いや、それはやっぱり凄いスキルだ。色なんてのはいくらでも誤魔化すことができるし、一滴だけなら分かるわけがない。なんとなく違和感を抱くことはあるだろうが、結局は実際に飲まない限り普通は断定できないだろう。まあ毒薬なんて売るわけがないけどな。それに何よりも冒険者には重宝するスキルなんじゃないか?」
「そうですね、もし未知のアイテムを手に入れた場合はかなり役立つと思います」
「だよな。そんなキョウマがここに応募してくれて、俺ってかなり恵まれてるんじゃないか?」
「そんな、大げさですよ。それにそういうことなら俺のほうだってここに雇ってもらえて良かったと思ってます」
「おいおい、そう言ってくれるのは嬉しいがまだ初日だぞ」
そう言いながらもどこか嬉しそうなラインゴットさんに仕事を教えてもらい、初日が終わった。
そして一ヶ月が経ち仕事にも慣れ、たまにレジを任されることも増え始めた頃、一人の女性が入店して来た。
一目で冒険者だと分かる格好をしているその女性に俺は見覚えがあった。
(もしかして、ティアさん……?)
忘れるはずがない。忘れたくない。その女性は俺の命の恩人であるティアさんで間違いなかった。




