最終話 例えばこんなスローライフ
仕事が終わり自宅へと帰る。俺は国家公務員で給料は高い。だからちょっといい暮らしをしている。家まで買ってしまった。
二階建てだけど、豪邸と呼べるくらいには広い。一人で住むには持て余すだろう。
「ただいま」
「おかえりー!」
だが俺は一人じゃない。帰ると可愛い女の子が出迎えてくれる。俺はティアと結婚したんだ。
俺がティアに告白をしてから二年が経った。付き合い始めてしばらくすると、俺の家で同棲をするようになった。
それからは順調に絆を深めていき、ついに結婚へとたどり着くことができたんだ。
もしかすると前世では一生叶えられなかったことかもしれない。
「すぐにご飯用意するねー」
「今日のメニューはなんだろう? いつも美味いから帰るのが楽しみだ」
「もう! またそんな嬉しいこと言ってくれるんだから!」
家に帰ることがまさかこんなにも楽しみになるなんて。そう考えると、前世で30歳になるまでよく一人で頑張ったなと自分を褒めてあげたいと思う。
「明日からも頑張ってね! おいしいご飯作って待ってるからね!」
「ありがとう!」
俺との結婚を機にティアは冒険者を引退したが、今でも元パーティーメンバーとは繋がりがあって仲がいい。
この世界では夫婦で冒険者というのも珍しくないが、ティア自ら家事に専念してくれると言ってくれた。
それは俺一人の稼ぎでも不自由なく暮らしていけるということでもある。
翌日になり、ティアが作ってくれた朝食をとってから仕事へと向かう。ティアのお見送り付きだ。
今日の仕事内容は、とある街での探索に同行することだ。そこには国選パーティーもやって来る。俺が今回選ばれた理由は、【鑑定】スキルを使うことができるから。
やっぱり誰かに必要とされるのは嬉しいものだ。
仕事は昼過ぎからだが、その前にとある場所へ行くことにしている。それはアイテムショップだ。
中に入ると売り場が少し広くなっており、たくさんのお客さんがいて活気がある。
俺はいくつかのアイテムを買い物かごに入れ、レジカウンターへと向かう。そこには恩人の姿があった。
「これください」
「はい毎度! ……って、キョウマじゃねえか!」
「急ですみません、ラインゴットさん。実は仕事でこの街に来てまして」
「大丈夫だ、気にするな! むしろ仕事なのにこうして顔を見せに来てくれたことが嬉しいぜ!」
「俺もできる限りここに来たいと思ってますから」
そんなことを話していると、女性の声が聞こえてきた。
「あーっ! お兄さんだー! やっと会えた!」
そう言いながら女性は近くまで来た。その女性は俺がまだここで働いていた時に、いろいろとアドバイスをした冒険者の女の子だった。
そしてこの子が無事にまた来店してくれた時は本当に嬉しかったことをよく覚えている。
「私が無事を報告しようと思ってたら、お兄さんいつの間にか辞めちゃってたんだから」
「俺も気にしてはいたんだけどタイミングがね」
「私がいつ来てもレジにはおじさんしかいないし、心配したんだよ?」
「そうだったんだ、ありがとう。ところでおじさんっていうのは?」
「キョウマからも何とか言ってくれよ。いつもおじさんって言われるんだ。俺はまだ34だからな」
(俺だって前世では似たような歳だったからラインゴットさんの気持ちは分かる……!)
「ラインゴットさんはおじさんじゃないと思うよ。俺から見ても若くてカッコいいし。それにしてもあれからずいぶん経っているのによく覚えててくれたね」
「そりゃあもう私にとっては忘れられない思い出なんだから。お兄さんのおかげで初探索が上手くいったんだよ。だからここの近くに来る度に無事を報告しようと思ってるんだ」
どうやら俺は誰かの心に残るほどのことができていたみたいだ。
「俺もうすぐ仕事だから行かないと。ラインゴットさん、終わったらまた来ます」
「おう!」
「えー、お兄さんどこか行っちゃうのー?」
「また会えるといいね」
「うん、そうだね!」
「あとラインゴットさんの名前を覚えてあげてほしいなー」
「はーい。ラインゴッドさんだねー」
(それよくある間違えかた……!)
そんなやり取りをしてから俺は仕事へ向かった。
仕事が終わり、俺は今ラインゴットさんの家のリビングで三人で話をしている。
「キョウマさん、お元気そうでよかったわ」
「ありがとうございます、スフィアさん」
「それにしてもキョウマが結婚とはなー。最初に聞いた時は驚いたぜ」
「いい人と出会えました」
「そうね、誰と出会うかで人生が変わることもあると思うの」
「はい。俺もそう思います。俺にとってラインゴットさんとスフィアさんに出会えたことも幸運でした」
「それを言うなら俺達もだぜ。なぁスフィア」
「もちろんよ。私達もキョウマさんが来てくれたことにとても感謝しているのよ」
「そう言ってもらえて嬉しいです。これからもよろしくお願いします!」
「おう!」
「こちらこそよろしくお願いしますね」
こうして恩人との一時も終わり、自宅へと帰って来た。それから二人で夕食をとり、二人だけの時間を過ごす。
実はティアは妊娠している。まさか俺に子供ができるなんて、なんだか実感がない。
だけどこれは間違いなく現実だ。俺はこれからもティアと子供を守りながら一緒に過ごせることに、この上ない喜びを感じている。
「ねえねえ、名前どうしよっか? キョウマはどんな名前がいいと思う?」
「そうだなぁ。いくつか考えてみたんだ。俺が考えたのは例えば——」
「いい名前だね! それじゃあ私のも聞いてくれる? 私が考えたのはね——」
「それもいいなぁ。まだ時間があるから二人でゆっくり決めていこうか」
「うん、そうだね!」
俺に合った仕事が楽しく、妻がいて、子供も産まれる。今度こそリア充といってもいいだろう。生きるということがこんなにも楽しいとようやく気が付いたんだ。
きっとこんな生活もスローライフということになるんじゃないかな。
異世界に来てずいぶんと酷い目に遭ったけど、きっとこれからは大丈夫。
あんな経験をしたからこそそれを全部優しさに変えて、これからも家族のために生きようと俺は誓った。
(了)
最後まで読んでくださりありがとうございました!




