第42話 やはり最期まで
向かいからやって来る五人の女性。そこにはミリーがいた。だがよく見るとミリーだけが両手を拘束されており、あとの四人がミリーの周りを囲んでいるようになっている。
それはつまり、その四人によってミリーがここから連れ出されているということであり、城や国の関係者であることが分かる。服装を見てもそれは明らかだ。
先頭にいる女性との距離が1メートルほどになると、俺は軽く会釈をしてから道を譲るように横に移動した。
別にこの通路はすれ違えないほど狭いわけじゃないが、自然と体が動いた感じだ。
するとその女性も会釈をしてくれ、そのまま通り過ぎようとしている。その時、ミリーが顔を上げて俺のほうを見た。
「あっ……、キョウマ……!」
ミリーが急に立ち止まったことにより、他の人達の足も止まった。
そのまま強制的にミリーを連れて行かない様子を見ると、知り合いと少し言葉を交わすくらいのことはさせてあげようという、最低限の配慮を感じた。
「ねえ……、キョウマ。あなた頑張ったんだよね……。立派になったんだ。だったら私を助けてくれてもいいんじゃない……? だってキョウマ偉くなったんでしょう?」
俺はライネスの時と同様に言葉をかけることはしないでおこうと思ったが、こうして実際に目の当たりにすると、自分の中にミリーに対するわずかな情というものがまだ残っているのを感じた。
「別に俺が偉くなったわけじゃない。俺はただ目標に向かってひたすら努力をしてきただけだ」
「だったら私だってそうよ。私だって国選パーティーに入るため頑張ったの」
「それが他の参加者からベヒーモスの角を強奪することだったとでも言うのか?」
「違う! あれはライネスがそうしようって言ったから!」
大声を出したミリーに他の四人が反応を示し、ミリーの体を軽くおさえた。
それにしてもまだライネスだけが悪いと主張するとは。仮にそれが本当だとしても同意することが俺には信じられない。
「だがライネスの提案にミリーは同意したんだろう?」
「それは……」
ミリーは言葉が続かない様子だったが、まるで何かを思い出したかのように話し始める。
「ライネスよ! 私はライネスに脅されていたの! でも逆らえないから仕方なく従っただけなの……!」
「その割には楽しんでたように見えたけどな。もし俺があの時に駆けつけずあのままだったら、被害に遭った冒険者の人生が変わってしまうところだったんだぞ?」
「それなら私達にだって言えることじゃない!」
「大声を出さないほうがいい。それにミリーがなんと言おうとも罪を犯したことを忘れてはいけない。だから今こうなっているんだということもな」
「そんなことは分かってるわよ!」
「分かってるならどうして反省しようとしない?」
「私だって反省してるに決まってるじゃない!」
その言葉を聞いて安心した。反省しているということに対してじゃない。とてもそうだとは思えない。俺が安心したというのは、言い返せるだけの気力がまだミリーにあるということだ。
短期間だけとはいえ一緒に過ごしたことは事実。できれば俺だってミリーのあんな顔はもう見たくない。
「申し訳ありませんが、そろそろ……」
ミリーが興奮したためなのか、先頭にいる女性が俺に向けてそう言った。
「はい。すみません、長くなりました」
俺がそう返すとその女性がミリーに向けて、歩くよう促した。
さすがにミリーも最後の機会だと悟ったのか、まだ何か言おうとしてるみたいだ。
「そうだ、キョウマ。私達もう一度やり直さない……? 私ね、ここにいる間キョウマのことばかり考えてたの。そしてやっと気が付いたの、やっぱり好きだなって。ねえ、だから……! そして少しでも早く私を自由にしてほしいの。その後は私に何をしてもいいから! ね? 悪い条件じゃないわよね……?」
やはりミリーもライネスと同じのようだ。俺はライネスには一言も言葉をかけなかったが、ミリーにはこれくらいなら言ってもいいだろう。
「俺には彼女がいるんだ」
言葉を失った様子のミリーを見て、全員が歩きだした。しばらくしてミリーの叫び声が聞こえたような気がしたが、俺は振り返らずそれを背中で受け止めた。
後からリーダーに聞いてみたところ、ミリーも他の施設へ護送されるとのことだった。ライネスが行った所とは別で、女性だけが収監される所らしい。
ミリーだって俺に向けて魔法を連発したから、冒険者法で最も禁忌とされる罪を犯している。それに加え男性魔法使いに万引きするようライネスと一緒に脅迫した証拠もある。
もしかするとミリーについてはライネスから脅されてた可能性が万に一つはあるかもしれないが、そこから先は国に任せるしかない。
その結果がどうであれ、ミリーがどうなったのかは知りたくない。罪を償いながらでも、やはり最期まで生きてほしいと思ったから。
これでようやく俺の気持ちに完全な整理がついた。あとはティアさんと幸せになることだけを考えて生きていこう。




