第41話 この人のためなら
「よかった……! めちゃくちゃ嬉しいです」
「私も嬉しいよ。そんなにも喜んでくれるんだね!」
「それはだって断られたらどうしようかと思ってましたから」
「大丈夫だよ。私もキョウマ君と同じことを伝えようと思っていたからね。だからここに来てもらったんだよ。一つ聞いてもいい?」
「もちろんです」
「私のどこが気に入ってくれたのかな?」
「俺を助けてくれたあの日、俺を励まそうとして涙を流してくれましたよね。それを見た時、なんて優しい人なんだろうと思いました」
「お話ししている時のキョウマ君がとてもツラそうで、そんなキョウマ君を見てると私に何かできることはないかなって思ったの。だからせめて私の言葉で少しでも元気を取り戻してもらえればいいなって。特別なことは何も言えなかったけどね」
「そんなことないです。特別な言葉はなくてもティアさんの優しさが十分に伝わってきましたから」
そう言うとティアさんは笑顔で返してくれた。
「あれから一ヶ月後にキョウマ君と再会できた時はびっくりしたよ。まさかたまたま立ち寄ったアイテムショップで働いてるなんてね」
「俺もですよ。まさかティアさんが来るなんて」
「実はね、初めて会った日からキョウマ君のことが気になっていたんだよ。今どうしているのかな、元気でいてくれてるのかなって」
「そうだったんですね。嬉しいです」
「そこでもいろんなお話をしたね。国選パーティーのこととか合同探索のこととか」
「もしその話を聞いてなかったら今の俺はなかったと思います。そう考えるとティアさんは俺にいい影響をたくさん与えてくれてますね」
「でもあの話をして帰った後でね、少し無責任なことを言っちゃったかなと思ったの。『国選パーティーを目指さないの?』とか、『合同探索に参加してみない?』とかね」
「ティアさんが気にするようなことじゃないです。どんな選択をするとしても決断するのは俺なので。だからもし上手くいかなかったとしても全て自分の責任で、誰かのせいにすることはないです」
「そういった考え方ができるキョウマ君がやっぱり好きだなぁ。……あっ、そういえばまだきちんと伝えてなかったね」
ティアさんはそう言うと俺を真っ直ぐに見つめた。
「私もあなたが好きです」
それは一言だった。それでも人の心を動かすには十分で、「この人のためなら」という思いが湧き上がってきた。
もしも叶うのなら、俺の人生の全てをかけてでも目の前にいる人にはずっと笑顔でいてほしい。
「私、顔が真っ赤になってるかも……」
「確かになってますね」
「やっぱり……! 初めて言うセリフだったから恥ずかしい……」
「そういえばさっきの質問に答えてる途中でした。そうやって素直に感情を表してくれるところも俺は好きです。あとは人の気持ちを考えてくれるところとか、それから——」
「待って待って! それ以上は恥ずかしいからダメ……! それなら私も言わせてもらうからね! 最初はキョウマ君を心配する気持ちが強かったけど、店員さんとして頑張ってる姿とかダンジョンでの行動とかを見てるうちに、いつの間にかキョウマ君のことを考えることが多くなってることに気が付いたんだ。それが少しずつ会いたいなって気持ちに変わっていったんだよ。やっぱり好きだなって。だから時々会えることがいつも楽しみだったんだよ」
「ちょっと待ってください……! 確かにこれは恥ずかしい……」
「ほらぁー。まったく、仕方ないなぁ。でも、これからもずっとそう思っていてほしいな」
「もちろんです。ティアさん、これからよろしくお願いします」
「うん、こちらこそ!」
こうして恩人が恋人になった。前世では何も上手くいかず、転生してすぐあんな目に遭ったにも関わらず、今はこんなにも幸せだなと思える。
生きていればいつかはいいことあるっていうのは間違いじゃなかった。
最高の休日を過ごした翌日。俺は今日も城の地下にある牢での勤務だ。詰所のリーダーから言われたのは見回りで、ライネスがいたところとはまた別のエリア。
今日はあの老魔法使いは来ていないため、俺一人での見回りとなる。
俺はなるべく足音を立てないよう静かに歩いていく。するとしばらくして進行方向から足音が聞こえてくるのが分かった。
(脱獄……? いや、まさかな)
そんな堂々とした脱獄などないだろう。それにここは魔法で強化された牢と魔法結界という二重のセキュリティになっている。
(これは……、一人だけの足音じゃないな)
おそらく何人かが固まって移動しているのだろう。とはいえ歩みを止めるわけにはいかないため、すれ違いざまにその正体を見届けることにした。
次第に近付く足音。さすがに脱獄ではないと思うが、だとすると……?
そしてその答えが出た。そこには五人ほどいたが、全員が女性だ。年齢は20代から40代といったところ。
そして俺はその中の一人に見覚えがあった。綺麗な金髪で顔立ちのいい女性。
(間違いない、ミリーだ……!)
果たしてこの偶然にどんな名前がつけられるだろう。幸運か? それとも不運か?
ミリーは今のところ俯いているが、果たして俺に気が付くだろうか……?




