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初めてできた彼女をNTRされた。その後普通に生きてただけなのにざまぁが成立した。  作者: 猫野 ジム


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第40話 諦めなくてよかった

 最後にティアさんと会ったのは俺が試験に合格する前。

 それまでは俺からティアさんに会いに行ったり、ティアさんが会いに来てくれたりして話をすることはあったけど、それはどちらかと言えば近況報告といった側面があった。


 だからティアさんに対しては恩人だという感覚が強かったけど、次に会う時は想いを伝えるつもりだ。


 もしティアさんに彼氏がいたり、もしくは既に結婚しているとしても、それはそれで喜ぶべきことだと思っている。「どうしてもっと早く想いを伝えなかったんだろう」という後悔はしないと決めた。


 なぜならきっとティアさん自身にも考えがあって、故郷を拠点に活動をするという選択をしたんだろうから。

 だからその決意を「恋人になってそばにいてほしい」なんていう俺のわがままで遮るわけにはいかなかった。


 だけど今は俺が試験に合格できたことだけでも、自信を持って直接伝えたい。



 仕事の日よりも早く目が覚めた俺は、いつも通り朝食としてパンを二個ほおばった。


 それからクローゼットを確認する。中にあるのは仕事着の他にはいつもの服が何着かと部屋着。ラインゴットさんの店で働いてた時によく着ていた服もあり、なんだかそれがずいぶん前のことのように思えてきた。


 その中から一番着ていない服を選んだ。言わばそれは人と会う時のための外出用だ。やはり最低限の身なりというものは整えておかないと。


(初めてじゃないのになんだか緊張する……)


 いざそういう気になると、途端にそう思うから不思議なものだ。


 俺が住む王都からティアさんの故郷まではいくつもの馬車を乗り継ぐ必要があり、時間にすると五時間ほど。ふと思い立って気軽に行けるような距離じゃない。


 馬車で五時間というのは思いのほかツラい。長いというのもあるが、他の人達もいるため気分的にもなかなかリラックスするというのは難しい。

 それに加えて退屈だ。スマホを触ってる間に着いてたなんてことはない。あったとしてもバッテリーが心配になるだろう。


 そしてようやく到着した頃には昼過ぎになっていた。


(さあ、歩くぞ)


 ここまではただティアさんが住む街に来ただけ。ティアさんの家まではここからさらに歩いて三十分ほどかかる。

 前世での俺ならとてもそんな体力はなかっただろう。


(そう考えると冒険者をやっててよかったってことになるな)


 この街はどちらかと言えば田舎に含まれる。王都と比べると道端にある植物の数が多いし、建物の数は少ない。人通りの多さも全然違う。


 ティアさんはいろんな街を見渡すのが好きだと言っていた。俺はそれを聞いてもっと街の風景をしっかり見ることにしようと思ったんだ。


 そして三十分ほど歩きようやく目的地が見えてきた。日本と比べるとかなり大きいが、赤い三角の屋根が特徴的なこの世界ではごく普通の家。


 ドアの前に立ちチャイムを鳴らしてしばらくすると、開かれたドアから赤髪ロングの女性が姿を見せた。


「いらっしゃいキョウマ君。久しぶりだね」


「ティアさんお久しぶりです」


 お互いあいさつを交わすと、ティアさんの向こう側にもう一人女性がいるのが見えた。


「あらー、ティアの彼氏かしら?」


「もう、お母さん! だから違うってば!」


 どうやらティアさんのお母さんのようだ。なんだか嬉しそうにこっちを見てる気がする。


「ほらっ、キョウマ君! 行こう!」


 俺はティアさんから半ば強引に外に出され、二人きりになった。


 それにしてもさっきティアさんが言った「だから違うってば」というセリフ。まるでさっきまで俺のことを話してたみたいだな。


「ごめんねー、こんな所まで来てもらって」


「いえ、俺が話したいことがあるだけなので気にしないでください」


「どうしよっか? カフェにでも行ってお話しする? それとも何か食べる?」


「それもいいですけど、先に行きたい場所があるんです」


「うん、いいよ」


 そしてやって来たのはこの街が見渡せる高台になっている場所。青空の下には多くの建物や自然があり、美しい光景だなと思わせてくれる。


「キョウマ君、ここのことよく知ってたね」


「実は前に来た時の帰りに探してみたんです。街を見渡すのが好きだってティアさんが言ってたので」


「ありがとう。覚えててくれたんだ……!」


「それはもちろんです。もう一年くらい前になりますが、ティアさんもこうして俺を街が見渡せる場所に連れて来てくれたことがあるんですよ」


「もちろん私も覚えてるよ」


「ありがとうございます。あの時ティアさんは地元に戻るからって俺が働く店まであいさつに来てくれましたね」


「うん。キョウマ君には伝えなきゃって思ったの」


「俺はそれが本当に嬉しかったんです。そして俺はあの時ティアさんに自分の目標を伝えました」


「うん。それも覚えてるよ」


「今日はどうしても直接話したいことがあるんです。俺、国家試験に合格しました」


「おめでとう! 信じてたよ!」


「本当はすぐにでも伝えるべきだと思ったんですが、どうしても直接報告したくて」


「大丈夫だよ、ありがとう。試験が終わってまだそんなに時間が経ってないから十分に早いと思うよ。ホントは私から連絡とればよかったんだけど、邪魔したら悪いなって思ったの。ごめんね」


「ティアさんが悪いことなんて一つもありません」


「キョウマ君はそうやっていつも気遣ってくれるね」


 ティアさんはそう言って優しく俺を見つめてくれている。


「それで俺、まだ伝えたいことがあって」


「うん」


「俺がティアさんに助けてもらった時、全ての自信を失っていました。自分の力だけじゃなく人を見る目など、本当に全てに対してです。正直に言うと、もうどうでもいいかとまで思い始めてました」


 ティアさんは俺を真っ直ぐに見て静かに聞いてくれている。


「そんな時にティアさんがかけてくれた言葉にどれだけ救われたか……! ティアさんは俺の命だけじゃなく心まで救ってくれたんです。本当にありがとうございます」


「ううん、私はただ思ったことを言っただけで、キョウマ君自身で立ち直ったんだよ……!」


「それでもです。それからも俺はいい出会いに恵まれて、ようやくここまで来ることができました。だから言わせてください」


 俺はそう言うとティアさんの目を真っ直ぐに見つめた。


「あなたに救ってもらった俺の人生はこんなにも胸を張って誇れるものになりました!」


「どう……いたしまして……!」


 そう言ったティアさんの目には光るものがあった。あの日もこうして涙を流してくれたことを俺は忘れない。


 今日はどうしてもそれを伝えたかったんだ。


 それからティアさんが落ち着くのを待って、街中へ向かい二人で過ごした。


 夜になり、今度はティアさんの希望で同じ高台にやって来た。建物がイルミネーションのようになっており、昼間とはまた違った顔を見せている。


「また来てごめんね」


「いえ、大丈夫です。実はもう一つお話ししたいことがありますから」


 この時にはすでに決心をしていた。


「何かな?」


「いきなり俺の話でいいんですか?」


 その言葉にティアさんはゆっくりと頷く。果たしてティアさんは今どんなことを考えているのだろう。


 何の前置きも無いし、正解も分からない。いきなりは早すぎるだろうか? むしろシンプルだからこれでいいのだろうか?


 いろんな考えが頭の中をかけ巡るけど、あれこれ考えるのはやめよう。きっとこの一言だけで十分に伝わってくれるはずだ。


「ティアさんが好きです。付き合ってください!」


「実はね、私も同じことを伝えようと思ってたの……! すごく嬉しい!」


 人生を諦めなくて本当によかったと思った瞬間だった。

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