第4話 普通でいい
俺が乗ったのは王都行きの便。何をするにしても、やはり大都市のほうが選択肢が多い。もしかするとあの二人と出会ってしまうかもしれないが、それはどこにいても同じ。
それに俺は逃亡生活をしているわけじゃない。もちろん多少なりとも警戒はするけど、あの二人に遠慮する必要がどこにあるだろうか。
馬車の中にいるのは俺を含めて十数人ほど。状況的には電車のようなものなので、老若男女さまざまな人々が乗っている。
その中には装備から冒険者と思われる若い男女の姿もあった。男女二人ずつの四人で、みんな近くにいるということは同じパーティーなのだろう。
俺は自分のコミュ力が高くないことを自覚しているけど、多少なりとも冒険者の知り合いはいる。でも『知り合い』止まり。こういう時に「一緒に行かないか?」と言えるほどの関係性ではない。
それに今まではミリーがいたから、他の人と積極的にコミュニケーションを取ろうとは思わなかった。
俺が今ひとりなのは、そんなことのツケが回ってきた結果でもあるんだろうな。やっぱり俺自身も変わらないといけない。
春の暖かな日差しの中、馬車は進む。出発から三時間ほどが経ち、ようやく王都に到着した。電車と違って馬車での移動は実にゆっくりとしたものだった。……そんなの当たり前か。比べること自体がおかしいな。字面はなんとなく似てるんだけど。
馬車から降り、まずは宿を探すことにする。冒険者といえば宿暮らしというイメージがあったが、本当にその通りだった。
冒険者という職業があるからなのか、異世界には宿が多い。中には冒険者専用なんて所もある。
Cランク冒険者の俺は世間的にも十分に高収入といえる生活をしていたけど、やはり不安定な職業であることは間違いないので、この機会に異世界での安定した職に就くのもいいかもしれない。
(だとすると、あそこに行ってみるか)
宿に鎧などの装備を置き、ごく一般的な服に着替えた俺は、冒険者ギルドに匹敵するほどに大きな建物へとやって来た。
中に入るといくつもの受付カウンターがあり、その向こうには若い女性が一人ずつ座っているのが見える。
ホテルの大広間かと思うほどに広いフロアは大勢の人でにぎわい、その中でもある一帯に特に多くの人が集まっていた。
そこにあるのは巨大な掲示板。そしてそこにはたくさんの紙が貼られており、時折それを剥がして受付に持って行く人の姿が確認できる。
それは冒険者ギルドでよく見られる光景だが、ここに貼られている紙に書いてあるのは人員募集。そう、ここは職安だ。
俺が日本にいた時に、実は何度か職安に行ったことがある。誰だって一度は「こんな職場辞めてやる!」と考えたことがあるんじゃないだろうか。……違うかな?
掲示板の前に行き、貼られている紙を一枚ずつざっと目を通す。日本にもあるようなごく普通の会社員の求人もあるけど、どうするべきか。
(せっかくだから知識やスキルを活かせる仕事にしよう)
そんな中パッと目についたのは冒険者養成所の講師。
(ダメだ、条件のところにBランク以上経験者って書いてある)
俺はCランクだから応募資格がなかった。AランクやSランクばかりが注目されがちだが、Bランクだって相当な実力がないとなれるものじゃない。
(他には何があるだろう? お、これは……)
俺は一枚の紙を剥がして受付まで持って行った。
「すみません、この求人に応募したいのですが」
「はい、承ります。こちらアイテム屋からの求人ですね」
選んだのはアイテム屋での仕事。俺には【アイテム鑑定】のスキルがある。これは意外だったけど鑑定系はレアスキルに含まれるらしい。
でも俺だってCランク冒険者。スキルに頼らなくてもアイテムの知識はあると自負している。だから今の俺にピッタリだと思ったんだ。普通の生活だって十分幸せになれるはず。
そしてこれも意外なことに、冒険者は兼業が認められている。
ただし活動を一定期間しなかった場合は、冒険者登録を取り消されてしまうそうだ。
(せっかくCランクになったんだから、取り消しはもったいないか)
そんなことを思いながら、新たな道への期待が高まっていた。




