第38話 遅れて来たざまぁ
ライネスがいる牢の前では数人が集まり、何やら話をしている。牢の中を見てみると、何人かの男性がライネスに何枚かの紙を見せながら話をしているようだ。
ライネスの様子は昨日とは打って変わって大人しい。いったい何がそうさせているのか。
牢の外側では数人がその様子を見守っているが、その中に見覚えのある人を見つけた。
「カイルさん、お久しぶりです」
「キョウマ君じゃないか。久しぶりだね」
国選パーティーのリーダーであるカイルさんだ。俺はこの人からいろんな話を聞かせてもらったことがあり、人生の目標を決めるきっかけの一つになった。
「今はここに勤めてるって聞いたよ。合格おめでとう」
「ありがとうございます。ところでこれは何が起きているんですか? 出勤するといきなりここに行くよう言われたんですけど」
「どうやらそこにいるライネスという者がここから護送されるみたいだね」
護送といえば、警察の護送車で被疑者を別の施設へ移送するアレのことか。ということはライネスへの処遇に何か進展があったのかもしれない。
「なんだかライネスが怯えてるように見えますね。それにしても昨日の見回りでは俺に向けて暴言を吐いてたのに、あんなにも大人しくなるものなんでしょうか?」
「ああ、それはね——」
カイルさんの説明によると、どうやらライネスはこの国で一番過酷だと言われている刑務所への収監が決まったそうだ。
一度そこへ入るともう二度と出られないと言われており、衣食住など人としての最低限の尊厳は守られるがそのあまりの厳しさから、「一生出られないのならもうここで終わらせてくれ……!」と自ら懇願する者もいるのだとか。
この国でも通常は裁判が行われるものだが、悪質性が特に高いと国から判断された場合は、問答無用で即そこへの収監ということになるらしい。やはり日本とは制度そのものが違う。
しかもそれですら仮で最低限の処置ということで、正式な量刑はこれから決められるとのこと。少なくとも一生外に出られることはないだろうということだ。
そうなると二択になるのか? やはり冒険者法はかなり厳しくて強力なもののようだ。
「ライネスにはいろいろと余罪があるみたいですからね」
「僕もそう聞いたよ。決め手は他にも過去の罪が明らかになったことらしいね」
俺にはそれを聞いても驚きというものが全く無かった。ライネスなら当然そういうこともあるだろうと思ったから。
過去の罪というのは俺を置き去りにしたことだろうか? それとも見舞金の不正受給のことだろうか? でもそのことが明らかになったから今こうして牢の中にいるはずだ。
「過去の罪って何ですか?」
「ライネスは一年くらい前に冒険者活動を三ヶ月の間停止されたことがあるそうなんだけど、その停止期間中に他の冒険者から金品を巻き上げたりしていたらしい。お金が無いなら店から高級な商品を盗んで持って来るようにとも言っていたそうだよ」
「それは酷い……。でもライネスはAランクだからお金はありそうですよね。三ヶ月無収入でも余裕で耐えられると思います」
「確かにそれなりに依頼を受けていた場合はそうだろうけど、受ける依頼にもよるだろうし、最低限だけだとそこまでじゃないと思うよ。それに人によっては一度上げた生活水準はなかなか下げられないっていうから」
「何がきっかけで分かったのでしょうね」
「最近のことなんだけどとある魔法使いの若い男性が、過去にアイテムショップで何回か窃盗をしたことがあるって自白したそうなんだ」
「国家騎士団の詰所に訪れたってことですね」
「いや、それが変わった経緯でね。僕が聞いた話だとその人は重度の魔力欠乏症で半年以上前から通院していて、病院で治療している最中に当時の記憶が戻ってきたそうなんだ。そしてそこで自白したらしい」
そういえば昔に聞いたことがあるな。重度の魔力欠乏症になると、その直近の記憶に混乱や欠如が起こる場合があるって。でもどこで聞いたんだっけ?
「その話とライネスにどんな関係が?」
「どうやらその人は誰かから脅されて窃盗をしていたようだね。さらに期間は短いながらも軟禁されていたらしい」
「その誰かというのがライネスというわけですね……!」
「そう判断されたんだと思うよ」
「でもいくら脅されたからって犯罪までするものでしょうか?」
「うーん、もしかするとみんなの生活の中でも『この人には逆らえない、何も言えない。従わないと何をされるか分からない』なんてことがあると思うんだ。それは言わば恐怖からきているもの。そしてその度合いが強くなると、ある種の洗脳みたいな状態になるのかもしれないね。だから常に相手の機嫌ばかりをうかがうようになり、普通なら考えつくようなことですら頭に浮かばない」
(想像するのもツラい。きっと余程のことがあったんだな……)
話を聞いていくうちに、俺の中である記憶が蘇りつつあった。
「カイルさん、その人が窃盗をしたという店名って分かりますか?」
「うん、分かるよ。確か——」
カイルさんが言ったのはラインゴットさんの店の名前だった。
(間違いない、自白した男性ってのはあの時の万引き犯だ……!)
一年ほど前のとある日に俺が万引き犯を追いかけて行った先で、召喚魔法を使われた。
召喚獣は俺とラインゴットさんで倒したけど召喚者の男は気を失い、その場でヒーラーの女性から重度の魔力欠乏症だと診断された。
(そうだ、その時に魔力欠乏症のことを聞いたんだ。入院と通院が必要だとも言ってたな)
俺はあの時マジックレコーダーで万引きの瞬間を録画していたので騎士団にそれを提出した。その後で俺も確認してみると犯人がフード付きローブを着ていたので、顔までは映っていなかったんだった。
「その自白をした人ってどうなりました?」
「然るべき対応をすることになった。窃盗は間違いなく犯罪だから。本人もそれに納得しているみたいだよ。でも情状酌量の余地はあると思う。それとライネスは僕も許せない」
どうやらあの万引き犯はライネスから脅されていただけで、根元が悪人というわけじゃなさそうだ。でもだからといって完全に無罪というわけにもいかないのだろう。
「それにしても脅迫者がライネスだってよく分かりましたね」
「そこについては証拠があるんだよ」
どうやらその人も俺と同じで【映像記録】のスキル持ちのようで、ライネスから指示をされている時にこっそりとマジックレコーダーで録画してたらしい。
きっとまだその時はそういったことが考えられる状態だったのだろう。
ライネスは装備品で顔を隠していたらしいが、さすがに一日中というわけではなかったようだ。
でもその後にマジックレコーダーを回収できなかったのか、あるいは映像を全て確認する時間や気力がなかったのか理由は分からないが、今まで明らかになっていなかったんだ。
きっと記憶が戻ったことで、ようやく全てが明らかになったんだな。
そして証言通りに騎士団が調査をすると、いくつかのマジックレコーダーが魔力切れの状態で見つかったそうだ。おそらく時間差になるように仕掛けていたんだろう。
「牢の中で今ライネスと話してる人達は誰ですか?」
「いろんな機関の関係者だね。しかもトップから二番目に位置するような人達だよ。見せているのは証明書とか手続き完了の書類とかかな」
「あの様子を見るとさすがのライネスも観念したようですね」
「さすがにこの状況だと……ね。まぁ自分がした事の重大さがようやく分かっただろうさ」
カイルさんと話しているうちに、ライネスが関係者達に付き添われ牢から出ようとしている。そして入り口から少し出たところで、ライネスが俺がいることに気が付き立ち止まった。
「なぁキョウマ、助けてくれよ。偉くなったんだろ……? 全部謝るから。俺が悪かったから。それにキョウマ、生きてるじゃねえか。だったらそれでいいじゃねえか。過去は過去として未来を見ようぜ。……な?」
そう言われたが俺は言葉を返さなかった。呆れ果てたのもあるが、俺はもう選抜試験の日に全てを伝えた。あれ以上ライネスにかける言葉など無い。
その代わりしっかりと見届けてやろう。お前の罪がようやくお前自身に返ってきた様を。
それからライネスは姿が見えなくなるまで喚き散らしていたが、どんな言葉であろうとも、もはや誰にも響くことはないだろう。




