第36話 こんなことまでやります
俺がミリーとライネスの手によってダンジョン内に置き去りにされたのは、もう一年も前のことだ。その証拠がまさか今になって手に入るだなんて。
「私がキョウマさんから事情をお聞きしたのはもう一年も前のことです。それからギルドとしても調査をしたのですが、進展はありませんでした。いえ、我々の力不足と言ったほうが正しいでしょう。今までお力になれず申し訳ありませんでした」
「いえ、そんなことはありません! 万が一にもギルドとして間違った判断はできないということは分かります。証拠が無いのに告発するわけにはいかないでしょうから。それに俺のために時間や労力を使ってくれたわけですから、お礼を言うことはあっても文句を言うなんてことは絶対にありません」
「ありがとうございます。お気遣い、痛み入ります」
「ところでギルドとしてはこれからどういった動きになるんでしょうか?」
「我々としては国に任せることになりますね。もちろん協力は惜しみませんがギルドはそういった機関ではありませんから。まずはおそらくライネス達本人への取り調べからになるでしょうね」
「この映像はやっぱり王都から届いたのですか?」
「はい。先ほどご覧になった映像は王都から届いたものです。なので当然ですが国王様もご存知だということになります。なんでも選抜試験が終わったその日のうちに騎士団から国王様に報告があったそうですよ」
ということは俺が玉座の間を退室した後ってことになるな。確かに騎士団があれを見落とすはずがないだろう。
「それとキョウマさんならお気付きだと思いますが、先ほどの発言以外にもこの映像にはライネス達の罪の証拠がハッキリと記録されています。例えばキョウマさんに向かって攻撃をしている場面がそれにあたりますね。これはもうどんな言い逃れもできないと思います」
「実は玉座の間でその場面をあの二人に見せたんですよ。ライネスが証拠を出せと言うものですから」
「なんとそんなことが……! 本当に証拠を突きつけられてライネスは驚いたでしょうね」
「そうですね。確かに驚いていたと思いますが、それよりも呆然としてる感じでした」
「もしかすると人は本当に心の底から驚いた時には言葉を失うものなのかもしれないですね」
ギルドマスターはそう言うと、テーブルに置かれている湯気が立つティーカップを口に近付けた。
「キョウマさん、この映像から分かることはまだあるんですよ」
「そうですよね、あんなことになる発端となった出来事ですから」
その出来事とはあの二人が試験参加者からベヒーモスの角を奪おうとしていたことを指す。
「そこに関しては実行しておらず音声のみではありますが、強奪の意思ありだとして取り調べの対象になるでしょう」
ギルドマスターはそう言うと再びティーカップを口に近付けた。
「実は私はこう見えてギルドマスターになって数年が経つのですが、ここまで悪質な者を見たのは初めてですよ。冒険者の中には血の気が多い人もいるとはいえ、みんなそれなりに常識というものを弁えているものです」
「そうですよね。なんだか俺もこの一年ほどで人の醜さと温かさを改めて実感しました」
「私達はその温かさをいつまでも持ち続けられるよう生きていきたいものですね」
「はい。本当にそう思います」
こうして俺はギルドをあとにした。そして次に向かったのは、俺の居場所。
「来たなキョウマーっ! 会いたかったぜ!」
「元気そうでよかったですよ! あ、これお土産です。みんなで食べてください」
「おう! ありがとな!」
ラインゴットさんの家であいさつを交わす。なんだか本当に自分の家に帰って来たみたいだ。
「スフィアさんはどこにいます?」
「スフィアなら娘と一緒にお昼寝中だ」
「だったら起こすのは悪いですね」
「すまん。スフィアには後で伝えとくから」
ラインゴットさんは一児の父になった。最初にその知らせを聞いた時、まるで自分のことのように嬉しかったことをよく覚えている。
「店のほうは順調ですか?」
「ああ。キョウマと同じくらいよく働いてくれてる」
俺が退職したことにより新しい人を雇うことになったが、どうやら真面目な人のようで安心した。
それからラインゴットさんと二時間ほど話をして、王都にある自宅へと馬車で帰った。
それから一週間が経ち、俺はいつものように城での仕事に精を出す。
ここで働く人達は何らかの能力に長けている人が多い。
例えば俺の場合は【鑑定】と【映像記録】のレアスキル持ちなので、それらを必要とする仕事が割り振られる。国選パーティー選抜試験もその中の一つだった。
だけどそんなにいつでもピッタリの仕事があるわけじゃない。
なので今日から数日間は牢の看守を任されている。同じことかもしれないが、看守と言うよりは見張りと表現したほうがいいかもしれない。
この世界にも刑務所はあるが、いろいろと確定するまでは城にある牢で過ごすことになる。
ということは、あの二人もそこにいるということだ。




