第20話 立派なスローライフ
「国選パーティーを目指す……ですか?」
「キョウマ君も知っていると思うけど、国選パーティーになるためには厳しい試験に合格しなければならない」
「はい、もちろん知ってます。国選パーティーのメンバーになることは多くの冒険者にとって大きな目標になっていると思います」
「本音を言うと僕の推薦ということにしたいところなんだけど、チャンスは全員に等しくあるべきだと思ってるんだ」
「分かります。それが国の方針であるということだと思います。それに特例を認めてしまうとどうしても不満の声が上がるでしょうから」
さっきカイルさんが言ったのは「国選パーティーに入る気はあるかな?」ではなく、「国選パーティーを目指す気はあるかな?」だ。
その言い回しから考えると、誰であろうともきちんと試験に合格する必要があるということだろう。
「もちろん僕だって試験を受けたし、それは国選パーティーだけに限らず例えばこの城に勤めてる人達だって、その前にある別の試験に合格したからこそ今があるんだ。そしてその誰もが他の人にはないような知識やスキルといった、何らかの強みを持っている。そしてそれが活かせる仕事をしているんだよ」
「それはその人が努力した結果、自分でつかみ取ったものだということですね」
「うん、僕もそう思うよ」
「ところで一つ質問いいでしょうか?」
「いいよ。何だろう?」
「カイルさん達の中にお一人だけFランク冒険者だった人がいると聞いたんですけど」
「ああ、それはね——」
そしてカイルさんはあのメンバーの中でただ一人だけ転移魔法や闇属性魔法を使うことができた、国選パーティーの魔法使いの女性の名前を口に出した。
「確かにあの子はFランク冒険者だったよ。いや、今もかな。書類上というか肩書きだけならFランクということになるね」
「あんなに凄い魔法ばかり使えるのに不思議ですね。何か理由があったのでしょうか?」
「僕が本人から聞いた話によると、コミュニケーションが苦手だから他の冒険者とパーティーを組む勇気が出なかったそうだよ。だからEランク昇格に必要な依頼達成数までなかなか届かなかったんだって。あ、このことは他の人に話してもいいって言われてるから大丈夫」
なんだその理由はって思う人もいるかもしれないが、俺もまぁコミュニケーションが苦手だからその気持ちは分かる。
初対面の人に話しかけることもそうだし、すでにできあがってるコミュニティの中に入っていくのは相当な勇気と覚悟が必要だ。俺の場合は。
「そこから一気に国選パーティーになったわけですね。ということはやっぱり試験に合格したからということですよね」
「そうだね。あの子の場合はそこで転移魔法という超級魔法を使ったことが試験官の目に留まって合格したそうだよ。今でこそ普通に接してくれるけど、メンバー入りした直後はずっと緊張していたなぁ」
「転移魔法を使う試験ってどんなものだったんだろう……」
「確かあの年は、今までに確認されている魔物の中でスピードが最速のSランクの魔物を捕獲する、だったかな」
「なるほど。転移魔法が有効な理由がなんとなく分かりますね。でも俺に試験内容を言っていいんですか? 重要機密なのでは?」
「試験内容は毎年変わるから大丈夫だよ。昔は毎年同じ内容だったそうなんだけど、対策や不正が横行してしまった過去があって、それからは毎年違う内容になったんだって。そして不正は断じて許されない」
「ということはどんな試験内容であっても対応できるのが理想的ですね。確か試験は毎年春に行われてますよね」
「そうだね。つまりあと丸一年もは残されてないってことだ。それを『まだ一年ある』とするか『もう一年しかない』とするかはキョウマ君次第かな」
「そうですね、俺の考え方ひとつでずいぶんと違ってくる気がします」
それはミリーとライネスに対しても言えることかもしれない。正直に言うと今でも機会があれば復讐したいと思っている。
それと同時に、あの二人のために使う時間がもったいないとも。キッパリと忘れて生きていくことも立派な選択のはずだ。
そして二人とも立ち上がりお互いが一礼した。
「ありがとうございました。今日はいろんな話が聞けてよかったです」
「僕のほうこそ。無責任なことを言ったかもしれないけど、キョウマ君のレアスキルを最大限に活かすのなら選択肢の一つに入れてもいいんじゃないかなと思ったんだ」
そして翌日。出勤した俺はラインゴットさんに、将来について考えていることを話した。なんだかラインゴットさんとスフィアさんには話しておきたくなったんだ。
「そうか……。目標ができたんだな」
「はい。すみません、こんなこと聞かされても困りますよね。でも話しておかないとって思ったんです」
「なーに言ってんだ! 全然迷惑なんかじゃねえよ。それに話してくれたことが俺は嬉しいぜ!」
「ありがとう、ございます……! これからもよろしくお願いします!」
「おう! こっちこそ!」
こうして新たな人生の新たな目標ができた。異世界だからって冒険しなきゃいけないなんて決まりはない。
普通に働き、普通に好きなことをして、普通に生きる。それだって立派なスローライフだと俺は思うんだ。




