第2話 どうしても思えない
助けてくれたのは赤髪ロングが特徴的な若い女性だった。ひざくらいまでの長さの青いドレスのような服の上から白銀の胸当てなどの防具を身にまとい、剣を携え、勇ましくありつつも凛とした美しさがある。
「おーい、君、大丈夫? ケガはない?」
「……は、はい。助けてくれてありがとうございました」
驚きと安堵から返事が遅れてしまった。
「君も冒険者だよね? でも一人で来るのは感心しないなぁ」
「これには事情がありまして……」
「とりあえずここから出よっか! あ、私、ティアっていいます」
「俺はキョウマです」
どうやらティアさんはパーティーでこのダンジョンを探索していたそうで、大量の魔物の気配がしたためこの部屋まで様子を見に来たところ、俺の声が聞こえたという。
部屋を出ると、そこには二人の若い女性が立っていた。服装から考えるのなら、魔法使いとアーチャーだろうか。
「ティア、中の様子どうだったー? あれー? その男の子は誰なのかなー?」
「キョウマ君といって、魔物に囲まれていて危ないところだったんだよ」
「そうだったの。そこに偶然私たちが通りかかったというわけね」
「確かにたくさんの魔物の気配がしたからねー」
「魔物は私が倒したけどギルドに報告しなきゃ。もしよかったらキョウマ君も私たちと一緒に外に出る?」
「そうさせてもらいます」
そんなやり取りをしてから、ティアさんのパーティーと一緒にダンジョンの外へ出た。
「私たちはこれからギルドに行くけどキョウマ君はどうする?」
目の前には女性が三人。あんな目に遭ったばかりの俺は今とてもじゃないが、女性と長く一緒にいられる精神状態ではない。
「俺は……遠慮させてもらいます。せっかくのお誘いなのにすみません」
「大丈夫だいじょうぶ! 君が謝ることなんて一つもないんだよ」
「そうだよー。ティアの言う通りだよー」
「そうよ。だから気にしないで」
「はい。ありがとうございます」
そして二人は背を向けた。ところがティアさんだけは何かを考えている様子だ。
「ティア、どうしたのー?」
「ごめん、二人とも先に行っててくれる?」
「それなら私たちはギルドで待ってるわね」
ティアさんに何も聞かず遠ざかる二人。きっと同じパーティーメンバーとして信頼を積み重ね、お互いのことをよく理解しているのだろう。それに引き換え俺は……なんてことが頭の中をよぎる。
そして二人を見送ったティアさんがくるりと振り返り、俺の目を見ながら口を開く。
「キョウマ君、今から私に時間をくれないかな?」
「時間ですか?」
「うん。ちょっとだけお話ししない?」
いったい何の話をするつもりだろうか? もしかするとさっきのことについて聞かれるのかもしれない。でも今は思い出したくないんだ。
「すみません。せっかくですけど俺は——」
そこまで言ったところで言葉をのむ。仲間を先に行かせてまで言ってくれたんだ、きっとティアさんは俺を気遣ってくれているのだろう。
もちろん想像でしかないが、もしそうだとしたらと考えると無下にすることはどうしてもできなかった。
それから俺の希望でとあるカフェに入り、対面して座る。ここは大型店舗で人の数も多く、テーブルごとに仕切りがあるため、万が一にもあの二人に見つかることは避けられるだろう。
それにあの二人には俺が魔物の餌食になったと思わせておくほうが、俺としても都合がいい。
「さあ、事情を聞かせてもらおうかな」
やはりティアさんには何か思うところがあるようだ。でも困ったな、どう言えばいいんだろう。話が重すぎて聞かせるのがなんだか申し訳ない。
「三人で来てたんですけど、突然二人が逃げ出してしまって——」
俺はいきさつを話した。でもハメられたことはどうしても言えなかった。あんな話を聞かせたくなくて嘘をついた。良心が痛む。もちろんあの二人に対してではない。
それに言ったところでどうする? 無関係なティアさんを巻き込んで「復讐を手伝ってほしい」とでも頼むのか? それとも「慰めてほしい」とでも言うのか?
(それはただ俺が身勝手なだけじゃないか……!)
これは決して気分のいい話じゃない。そんな話を聞かされる側のことを考えると、言うべきではないと判断した。
「そうなんだ? それにしても危ないところだったね。まさか入り口が魔法結界で塞がれていたなんて」
「魔物の仕業でしょうか。俺も逃げようとしたんですけど間に合わなかったみたいで……」
「大変な思いをしたんだね。でも、もう大丈夫だよ」
ハハハと苦笑いを浮かべる俺に、ティアさんは優しい微笑みを見せてくれた。
もしかするとティアさんはなんとなく察しているのかもしれない。あの二人が逃げたことにするのなら、ああいう状況になった説明がつかないから。
「それでキョウマ君はこれからも冒険者を続けるの?」
「どう、でしょうか……。正直言って自分でも分かりません。Cランクでも食べていけるだけの収入は十分に得られます。でも、俺の冒険者としての限界はここまでなんです」
「そうなんだね。冒険者じゃなくても生きる道はあるからね。キョウマ君はまだ若いんだから、ゆっくり考えるといいよ」
「俺がまだ若いって、ティアさんも若いじゃないですか」
「私はもう23歳だからね。もう! 何言わせるの!」
「ティアさんが勝手に言っただけなのに」
「もしよかったら私のパーティーに入る? さっき会った通りみんな女の子だから安心していいよ!」
美人お姉さんハーレム。そんな言葉だけは浮かんでくるが、今の俺にはそれを楽しむ余裕は無い。当分の間は女性に気を許すことはできないだろう。
それにティアさんはAランクとのこと。だから俺を助けることができた。
そして俺はとっくに限界を迎えているから、足手まといになることが確定している。
「さっきも言った通り、冒険者としての俺はここが限界なんです。こうして今も俺が生きていられるのは偶然ティアさんが助けてくれたからで、自力じゃない。俺は上辺だけの強さに浮かれていただけなんです……!」
「そんなことない! そんなことないよ……。みんな誰かに助けられながら生きているんだよ。もちろん私だって。だからそんな悲しい顔しないで……」
そう言ってくれたティアさんの目には光るものがあり、やがてそれは頬を伝った。
馬鹿だと言われてもいい、俺にはその光景がニセモノだとはどうしても思えなかった。
(ああ……俺がそんな顔をさせてしまっているんだな。ダメだ、しっかりしないと!)
「すみません、お誘いはとても嬉しいんですけど、先のことはこれから考えようと思ってますので、パーティーには入れません。でもありがとうございます」
「うん、わかった。君の人生なんだもんね。これからも負けないでね! 縁があればまた会おうね!」
そして俺はティアさんと別れた。
(負けないで……か)
「頑張って」じゃないことを考えるとやはりティアさんは、俺に何が起きたか大体察したのだろう。Aランクだと言ってたし、きっと同じようなことを見てきたんじゃないかな。
(さあ、これからどうするべきか)
異世界での俺は20歳。冒険者じゃなくても、今からなら新しい道に進むことだってできる。
それに冒険者を続けたっていいんだ。収入も多いし、心の傷が癒えた頃に今度こそまともな彼女を作り幸せになることもできる。
そして冒険者をしていれば、いつかあいつらと再会する時が来るかもしれない。そうなれば復讐の機会だってきっとあるはずだ……!




