第18話 俺は尊敬します
魔物を対象にして【アイテム鑑定】のスキルを使う。そんな使い方は考えたことがなかった。スキルの名前がアイテム鑑定なんだから、アイテムに対してしか使おうとは思わない。
しかし今、実際にソウルイーターの情報が見えている。
名称:『ソウルイーター(変異種)』
種別:『アンデッド』
ランク:『S』
特徴:『生き物の魂を喰らう。その被害を受けた者は自我を失い肉体だけの存在となる』・『物理攻撃は効果が薄くなるため魔法での攻撃を推奨』
無効属性:『火・水・風・雷・光・聖』
弱点属性:『闇』
備考:『従来のものと同じく弱点属性はあるが自在に変更可能』
(想像以上に危険じゃないか……!)
名称から特徴までなら冒険者の誰もが知っていると言っていい。そして本来なら聖属性が弱点であることも。
光属性と聖属性は似て非なるもので、光属性が明かりなどの単純な光であることに対して、聖属性は戦闘用の魔法が多く、アンデッドに絶大な効果を発揮する。
しかし聖属性と闇属性はそのどれもが上級魔法であり、魔力量や素質にも左右されるため使える人はあまり多くない。
「カイル! 次はどの属性をぶつける?」
「複数同時と言いたいけどそれでは絞り込めない。時間はかかるけど一つずつ試すしかない……! 火属性でいこう! 基本属性だから使える人も多いだろう。簡単なものでいい、火属性が使える人は準備して! そして一斉に放つんだ!」
それを聞いた冒険者達は詠唱を始めた。ティアさん達パーティーは三人全員ともだ。
俺の鑑定スキルによると火属性は無効となっている。アイテムには限りがあるから、無駄に魔法を使ってみんな魔力切れになることだけは避けないと……!
(果たして信じてもらえるだろうか……?)
「おい! 奴の持ってる大鎌から黒いモヤが出始めたぞ! 何か仕掛けようとしてるんじゃねえか!?」
迷っている暇などなかった。これは俺にしかできないこと。みんなが信じてくれることを信じるしかない……!
「カイルさんあいつは闇属性が弱点です!」
「えっ、アンデッドに闇属性を? まさかそれも鑑定スキルで?」
「実はスキルが進化したみたいで。だからあいつの弱点が分かるんです。でも自在に変えられるみたいです」
「分かった、今は闇属性だね! 頼んだよ!」
「任せてください! ブラックホール!」
上級魔法である闇属性を使える人はこの中では国選パーティーしかいない。
魔物の真下に黒く大きな穴のようなものが現れたかと思うと、そこから半透明の黒いものが柱状に伸びた。
そしてそれが魔物の全身を包み込んだ次の瞬間にはソウルイーターの体全体が高速で揺れ始め、攻撃しようとしていた手がピタリと止まった。
それはまるで感電しているかのよう。よほど大きな衝撃を受け続けているに違いない。やはり国選パーティーは凄まじい。
「どうやら正解みたいだね、ありがとう」
「いえ、信じてくれてありがとうございます」
「よし、このまま攻めの手を緩めないでいこう! でも闇属性を使えるのは君しかいないんだよね、ごめん」
「私なら大丈夫です! 私にしかできないことがあるのなら全力でやります!」
このまま順調にいくのかと思われたが、ある時を堺にソウルイーターの揺れがピタリと止まった。闇魔法はずっと発動しているというのに。
「なんだか奴の反応変わってないか?」
「そうだね、僕もそう思う」
(これはまさか……?)
改めて鑑定スキルを使うと、やはり弱点属性が変化している。
「あいつの弱点が雷に変わりました!」
「分かった! 使える人は準備——」
カイルさんがそう言い終わる前に、10メートルはあろうかという大きさのソウルイーターが猛スピードで迫り来る。もうそれだけで恐怖を覚えそうなほど。
「くっ……! さあこっちだ! 僕を狙え!」
カイルさんが真っ先に飛び出しソウルイーターの足を止めさせた。
だが大鎌がカイルさんを狙って振り回される。
「僕だってなんの根拠もなくこうしてるわけじゃないんだ!」
カイルさんは一撃でも命中すると終わってしまう大鎌を全てかわす。だが魔物は執拗に狙い続ける。
どうやらいくつかのスキルを発動させているみたいで、もしかするとその中には【挑発】なんてものもあるかもしれない。大声を出すことですら作戦なのかも。
「待て! 俺もいるぞ!」
前衛の二人でソウルイーターを翻弄する。
すると魔物の頭上からいくつもの雷が落ち、またもや大きく揺れ始めた。今度は本当に感電しているようだ。
それは冒険者達が一斉に雷魔法を放ったことによるものだった。ここにいるのは全員がCランク以上で経験豊富なので、俺の言葉を聞いて各自で準備していたみたいだ。
ところがまたもや魔物が動き始めた。弱点を変えたんだ。そしてカイルさんを狙う。
(俺が何度でも見抜いてやる!)
「弱点が火属性になりました!」
みんなが「了解!」と言って火属性魔法を放つ。それはティアさん達も同じ。
「風属性になりました!」
「水属性です!」
「風!」
「闇!」
弱点を変化させる間隔が短くなっていったが、俺はすぐにそれを見抜いていく。
そしてみんなが俺の声にすぐさま合わせてくれたおかげで、魔物が弱っていく様子がハッキリと分かった。
もはやどのくらいの時間が経ったのかは分からない。そしてついにソウルイーターはかき消えた。
「うん、私の魔力探知に反応がない。みんなもそう言ってる。もう安心です」
消耗が激しかったのだろう、その一言でほとんどの冒険者はその場にへたり込んだ。俺もその中の一人。これだけの時間スキルを使い続けたのは初めてだった。まるで全力疾走をした後のような疲労感で、とてもじゃないが今は立ち上がれない。
だけど参加して本当によかった。みんなの力になることができたし、俺自身もまだ成長の余地があることが分かったから。
「ありがとう、君のおかげでみんな無事だよ」
「いえ、俺は直接戦闘したわけじゃないですから。一番危険な目に遭ったのはカイルさん達ですよ」
「いや、君がいなかったらきっとこんなにうまくいってないさ。それにあんな魔物を前にしても一歩も引かなかったじゃないか。それは十分な強みだよ。戦闘技術だけが冒険者の全てではないよ。それに僕はみんなを守りたいんだ、この手にその力がある限りね。……なんて、カッコよくはないセリフかな」
「そんなことないです。俺は尊敬します」
くさいセリフというのだろうか、漫画とかに出てくるようなセリフ。人によっては嫌悪感を抱くかもしれない。でも俺はそれを本気で言える人を尊敬する。
「ありがとう。……ところで、ここを出たらいろいろ話を聞かせてほしいんだけど」
なんとなくそんな予感はしていた。




