第17話 本当にそうだろうか?
「それはアイテムじゃありません! すぐに手離してください!」
「えっ……? わ、分かった!」
俺の急な叫びにカイルさんは戸惑いながらも、持っている赤い玉を落とすようにして手離し距離をとった。
そして音を立てて地面に落ちたままのそれを、国選パーティーと冒険者達を合わせた十数人全員で見守る。
「アイテム鑑定のスキルで何か分かったのかい?」
「いえ……分かりませんでした」
俺とカイルさんはお互いを見ずに、赤い玉を警戒しながら話を続ける。
「どういうことだろうか?」
「正確には、アイテムじゃないということが分かりました」
「つまりあれはアイテムじゃないから、アイテム鑑定のスキルでは鑑定できなかったということかな」
「そうです。こんなことは初めてです。でもそれだけならまだよかったんですけど、スキルがあれは危険だって教えてくれたんです」
「スキルが教えてくれた……? 僕を含めて鑑定スキルを使えるメンバーはいないから、ぜひとも詳しい話を聞いてみたいところだね」
「はい、もちろん大丈夫です」
「でも今はそれどころじゃないな」
こうしている間にも何か動きがあるんじゃないかと見守っていたが、赤い玉は地面に落ちたままだ。
もしこのまま何も起こらないようなら、俺がただおかしなことを言っただけだと思われるかもしれない。鑑定スキルが使えるという嘘をついたなと責められることも考えられる。
でもそうなってもいい。このまま何も起こらないということが一番いいのだから。
「カイル、どうする? 特に変わった様子はなさそうだぜ」
「そうだな、もう少し近付いてみるよ。みんなはその場で待ってて」
「カイル待って! あの玉からものすごい魔力を感じます!」
その声を皮切りとして場の空気が張り詰め、全員が静かに見守る。そして直後に赤い玉が光り始めたかと思うと強烈な光が放たれたので咄嗟に目を閉じ、さらに腕で目を覆うようにして守った。
やがて光が弱まったので目を開けると、そこには10メートルはあろうかという魔物の姿があった。
「あれは、ソウルイーター……?」
カイルさんがそう呟く。
ソウルイーター。それはアンデッド系Sランクの魔物。巨大なスケルトンが漆黒のローブを身にまとい、巨大な鎌を持つ。その風貌はまるで死神のよう。
そしてその名の通り、生き物の魂を喰らうといわれている。
俺は冒険者ギルドに置いてある魔物図鑑で見たことがあるくらいで、目の当たりにするのは初めてだ。
冒険者として相手の力量を推し量るのも実力のうちだが、俺にだって分かる。あれはとんでもなくヤバい奴だと。でも今はまだ動きがないようだ。
「だけどソウルイーターが擬態するなんて聞いたことがないな」
「ああそうだな、俺もだ。……待てよ? カイルがもしあれを持ったままだったら今頃ヤバかったんじゃねえか?」
「そうですね……。この場にいる誰もがあの赤い玉はアイテムだと思い込んでいたようですから。この杖に付いているものと似ていましたし」
「だとするとどうなるの?」
「変異種……ということになるかな」
魔物の種類や特徴は図鑑として記録されているが、ごく稀に変異種と呼ばれるものが現れる。
それは見た目や基本的な特徴なら元の魔物と同じであることが多いが、攻撃方法が違っていたり特技が違っていたりして、従来のものとは全く違う予想外の動きをすることがある。
いかに百戦錬磨の達人であろうとも、それは初見の魔物と戦うに等しい。
だから今回のようにいかに国選パーティーであっても、不意を突かれてしまうのも無理のないことだ。
するとソウルイーターが何やら左右に揺れて不気味な動きを見せ始めた。
「話してる暇はもう無いようだぞ!」
「前衛は僕達が務めるから魔法が得意な人は援護して! あとのみんなは戦闘態勢をとりつつ警戒してほしい!」
カイルさんの言葉を聞いた冒険者達はそれぞれ「はい!」と返事をして、戦闘態勢に入った。
そしてまずはカイルさん達が仕掛ける。
「ソウルイーターはアンデッドだから聖属性が有効なはず!」
「はいっ! ホーリーバースト!」
あれはティアさんが俺を助けてくれた時の上級魔法だ。
凄まじい光の柱がソウルイーターめがけて飛んでいき命中すると、部屋全体が薄く光を帯びる。
やがてそれは収まったが、そこにはソウルイーターの姿があった。
「効いていない……か?」
「はい、おそらくは……。ただ命中したことは間違いないです」
「だとすると聖属性は弱点じゃねえってことか」
「ええ、そのようね。変異種っていうけど何が変わっているのかということは戦ってみないと分からないってのが厄介ね」
「それなら全属性をぶつけてみるしかないか。みんな、力を貸してほしい!」
カイルさんの呼びかけに、魔法が得意な他の冒険者達も応えようとしている。
(俺にできることはないのか……? 何か俺にしかできないことは……)
俺だってこのまま何もせず黙って見てるだけではいたくない。
「アイテム鑑定……!」
俺にはレアスキルがある。しかしそれは戦闘向きじゃない。果たして本当にそうだろうか?
俺はもう冒険者としての成長はできないと思っているが、それは自分で限界を決めてしまっていることになるのではないだろうか。
自分の能力を誰かのために活かしたい。そんな願いから俺はソウルイーターを対象として捉え、【アイテム鑑定】を発動させた。
すると……魔物の情報が見えた。
(スキルが進化したかもしれない……!)




