第16話 取り返しのつかないことが起こってからじゃ遅いんだ
複数の冒険者パーティーが集まる中で突如として光り始めた何もないスペース。やがて光が収まるとそこにいたのは国選パーティーだった。
さっきのは間違いなく転移魔法だ。上級魔法よりもさらに上に位置付けされており、使うことができる人は本当に少ないという。
素朴な疑問として、「もしも転移先にすでにピンポイントで人がいたらどうなるんだろう?」と思うけど、超級魔法がそんなことになるわけないか。
国選パーティーは四人で、男女二人ずつという編成。見た目から全員が二十代以下と思われる。
左の腰に剣を携え、青い鎧を身にまとった金髪の男性。
大木を一撃でなぎ倒すことができそうな大きな斧を持つ、赤い短髪の男性。
黒いローブを身にまとい、頭には先のとがった帽子をかぶり、赤い宝石が先端に付けられている杖を右手に持った女性。
まるで金髪のエルフかと見間違えるほどの美しさで、肩を露出したドレスのような薄い緑色の服を着て弓を持った女性。
例えるのならば、ナイト・ウォリアー・マジシャン・アーチャーといったところ。
普通に考えるのなら、転移魔法を使ったのは杖を持っている女性ということになるな。
それから国選パーティーがギルドマスターの横に並んだため、冒険者達と向かい合う形になった。
ここにいるギルドマスターは、銀色の長髪で細身の男性。俺が生きていることをミリー達に知らせるかどうか聞いてきた人と同一人物で、物腰の柔らかい人だ。
「すでにみなさんご存知の通り、新たなダンジョンが発見されました。ギルドから先遣隊を派遣して調査をしたところ、暫定ではありますがCランクと認定されました。これが通常の探索ならもう少しメンバーを募るために待つところです。しかし今回は少しばかり状況が違います」
ギルドマスターがそう言った後、国選パーティーの中からナイト風の男性が一歩前に出た。どうやらリーダーらしい。
「このパーティーのリーダーを務めているカイルといいます。本日はみなさんのお力をお借りしながら、一人も怪我することなく探索を終えることができるよう全力を尽くします。よろしくお願いします」
それからあとの三人も簡単なあいさつをした後、カイルさんをはじめとしたメンバー全員が一礼した。なんというか、カイルさんはリーダーになるべくしてなった人だと思う。
そしていよいよ探索開始となり移動を開始すると、他の冒険者の間を縫うようにしてティアさん達のパーティーが近くに来た。
「キョウマ君、一緒に頑張ろうね!」
「よろしくお願いします」
「どこかで見たことあるなと思ってたけど、前に偶然ティアが助けた子ね。元気そうでよかった」
「ホントだねー。ティアってば嬉しそうー」
「もう! 今から探索なんだから真面目にね!」
そんな和やかムードなティアさん達だったが、ダンジョンに足を一歩踏み入れると一変して真剣な面持ちになった。その表情には少しの緩みもない。
先頭は国選パーティーが務め、最後尾には高ランク冒険者がつく。つまりこの中で唯一のAランクであるティアさん達だ。
このダンジョンはどういうわけか、床は綺麗な石畳のようで壁はレンガを綺麗に積み重ねたかのように整っており、それがかえって不気味さに拍車をかけている。
途中で魔物と出遭っても国選パーティーが蹴散らしていく。剣で一刀両断し、斧を振り下ろして粉砕し、中級魔法で滅却し、高速の矢で一撃で仕留める。
それは互いの動きを邪魔することなく、魔物だけを確実に減らしていく。四人の中にFランク冒険者がいるとはとても思えない。
もしかするとただ単に昇級するのが嫌だったとか、そういう理由なんだろうか。詳しく聞いてみたいが、今はそんな場合じゃないな。
だがいかに国選パーティーといえど圧倒的な数には対応しきれず、魔物の群れが冒険者達を襲うこともあった。
でもそこはここにいる冒険者だってCランク以上の実力をもっている人ばかりだ、しっかりと着実に対応できる。もちろん俺だって。
それからも魔物を倒しながら進み、探索から一時間くらい経った頃、行き止まりにたどり着いた。道幅は十数人が横一列に並べるくらいの広さはあり、目の前には両開きの大きな扉が見える。
カイルさんが扉の前から全員離れるよう告げた後一人で開き、問題ないことを確認してから全員が中へと入った。
広さは学校の体育館ほどだろうか。石造りの床や壁が特徴的なくらいで、それ以外は本当に何もない。
「あれは……宝箱?」
部屋の中心には不自然なほどポツンと宝箱が一つだけ置かれている。
「みんな下がってて。何が起こるか分からないから」
カイルさんが再び全員離れるようにと促す。探索の目的は新しくできたこのダンジョンの調査。だから開けなければならない。たとえそれがどんなに怪しくとも危険であろうとも。
全員が見守る中、カイルさんがゆっくりと宝箱を開けていき、そしてフタが開ききる。
「とりあえずトラップはなさそうだ。入ってるのはこれだけか……」
カイルさんがみんなに見せてきたのは手のひらに収まるくらいの赤い玉。綺麗なボール状をしており、宝石と言われても納得できる。
「これは……何だろうか」
カイルさん以外の国選パーティー三人も近くに行き、その玉が何であるか考えている。
「少なくとも俺は見たことねえな」
「私もです。この杖に付けられているものとは違うようですね」
「私も知らないわね」
どうやら国選パーティーでさえも知らないアイテムらしい。これはもしかすると歴史的な発見なのかもしれない。
「これは一度王都に持ち帰って、国家鑑定士のスキルできちんと鑑定してもらう必要があるだろうね」
「ああそうだな」
聞くところによると王都にある城には、鑑定など様々な特技やスキルをもつ人がおり、国選パーティーと同じく厳しい試験を突破しなければならないらしい。
「とりあえずこれは僕が持っておくよ。まだ安全だと決まったわけじゃないからね。さあ、帰ろう」
ここで俺は考えた。俺には【鑑定】のスキルがあるじゃないか。
カイルさんの言う通り、まだ安全な物だと決まったわけじゃない。俺が黙っていたせいで何か取り返しのつかないことが起こってからじゃ遅いんだ。
俺は他の冒険者達の中から一歩前へ出た。
「俺、アイテム鑑定のスキルが使えます」
「えっ、それは本当かい? 鑑定系はレアスキルだよ」
「はい。ギルドの職員さんには話したことがありますが、使えるという証拠は提示できません。ですが俺に鑑定させてもらえませんか?」
俺はカイルさんの目を真っ直ぐに見ながらそう頼んだ。カイルさんと目が合い数秒ほど経つ。
「分かった、お願いするよ」
「ありがとうございます」
俺はカイルさんの手のひらに乗っている赤い玉を対象として捉え、スキルを発動させた。
名称:『???』
特徴:『???』
備考:『鑑定不可。これはアイテムではありません。危険。一刻も早く手離すことを推奨します』
(なんだって!?)
予想外の結果に戸惑う。いや、今はそんな場合じゃない!
「それはアイテムじゃありません! すぐに手離してください!」
大きな部屋に俺の声が響き渡った。




