第12話 偽情報をつかませる
俺の冒険者カードを見た受付嬢がカウンターの奥へ行ってから数分後、少し息を切らして戻って来た。
「た、大変お待たせいたしました。ギルドマスターがお待ちしております。一緒に来ていただけませんか?」
この既視感はなんだろう。異世界もの作品で見たことある展開だ。
でも俺は超貴重な素材を持って来たわけでもないし、Sランクの魔物の部位を持って来てもいない。
冒険者がギルドマスターに呼び出されるのは怒られる時か何かの事情を聞かれる時、もしくは褒められる時くらいだ。
大体の予想はつくので素直に従った俺は、受付嬢と一緒にカウンターの奥にある廊下を進む。通常なら冒険者は立ち入ることができない領域だ。
とある部屋の前に到着して受付嬢がドアをノックすると、中から「どうぞ」という声が聞こえてきたので一緒に入った。
まず目に入ったのは入り口の正面にある、横に広がっていて事務作業が捗りそうな机だ。
そしてその上には書類の山が築かれており、そこに埋もれているかのように一人の男性が座っている。
広い部屋には赤いじゅうたんが敷き詰められており、テーブルと柔らかそうなソファーが置かれている。
「キョウマさんがお越しになりました」
「ご苦労様。受付業務に戻ってください」
「はい。では失礼いたします」
ドアが閉まる音が聞こえた後、座っていた人物が柔らかそうなソファーの横へと移動した。
おそらく20代だろうか、銀色の長髪に端正な顔立ち。長身でスラっとした細身の体型。
これだけの情報だと女性のようだが、よく見ると男性であることが分かる。イメージとしては男性のエルフみたいな感じかな。完全に俺の主観だけど。
どうやらここのギルドマスターだそうで、自己紹介をしてくれた。それから本人確認をされ、「どうぞお掛けください」とソファーに座るよう促された。
それからしばらく待っていると目の前のテーブルに湯気が立つティーカップが二つ置かれ、ギルドマスターと対面する形になった。
「すでにお察しかもしれませんが、キョウマさんにここまでお越しいただいたのは、お話を聞かせてもらうためです」
「はい、大体は分かってます。俺はギルドでどういった扱いになっているのでしょうか?」
「行方不明者リストに載っています。ただ、リストに追加されたのはごく最近のことなんです。他の支部から王都にある本部へと報告があったようですね。そして本部からここを含めた各支部へと連絡がありました」
「そうだったんですか」
ギルドで依頼を受注すると当然成果を報告する義務があるが、残念ながら全員が無事に帰って来られるわけじゃない。
期限を過ぎても報告が無い場合は、ギルド職員で結成されたパーティーが捜索に向かう。
そして捜索した期間や結果などを踏まえて、各ギルドのギルドマスターが判定を下す。
どうやら俺は行方不明と判断されているらしい。その理由はおそらく、ミリーとライネスが見舞金の不正受給をしようとしたからだろう。
これは予想だけど、あの街のギルドマスターが二人の証言内容を疑っているため、一ヶ月を過ぎてもまだ行方不明にとどめていると考えられる。
「キョウマさんのように行方不明になっている冒険者の生存が確認されるケースは、残念ながらとても少ないです」
そう発言するギルドマスターの表情は憂いを帯びており、それが本心であることが分かる。
「ここからが本題なのですが、何があったのかお聞かせ願えますでしょうか?」
「分かりました」
そして俺はあのダンジョンでミリーとライネスから命を狙われたことを説明した。
「そんなことがあったのですか……。見舞金という制度は諸刃の剣になり得ると思っていますが、実際にこのような話を聞くとやはり辛いものです……」
ギルドマスターの表情が再び憂いを帯びた。
「それからキョウマさん、これは重要なことなのですが、キョウマさんが無事であることをその二人にお知らせしますか? それとも伏せておきますか?」
もはや生きていないだろうと諦めていたパーティーメンバーが、実は生きていると判明して喜ばないメンバーなんて普通はいないだろう。
そう、普通なら。でもこれは普通じゃない。ギルドマスターもそれを分かった上で質問しているに違いない。
「伏せておいてもらえますか」
俺は即答した。知らせることに意味を見出せないから。知ったところであの二人が喜ぶわけがないし、それどころか何をしてくるか分からない。
それにあのまま俺が魔物の犠牲になったと思わせておくほうが都合がいい。言わば偽の情報をつかませたままにしておくのだ。
「承知しました。それとキョウマさん自身の証言があるとはいえ、すぐに何か動きがあるというわけではありません。これから私のほうでも本部や他の支部と連携を行うことになりますし他の業務もございます。そこはどうかご理解をいただけますでしょうか?」
「はい、俺自身もすぐにどうにかなるようなことじゃないと考えていますから」
「それからこれは私の個人的な質問なのですが、なんというか、その……、心のケアは必要でしょうか? 先ほどの話を聞いているだけでも辛かったのに、きっとキョウマさんご自身は私の想像をこえるほどに傷付かれたと思います」
「確かに当初はとても辛かったですが、その後にとてもいい人達との出会いがありましたし、それに俺が自分の意思で立ち直ることが重要だと考えていますので大丈夫です。ありがとうございます」
「いえ、出過ぎたことを言いました。それではこれで終わりとなります。ありがとうございました」
二人とも立ち上がりお互いに一礼をした後、退室した。
これからあの二人がどうなるかは分からないが、これも一種のざまぁということになるだろうか。俺としてはこのくらいで許せるはずがないけど。




