第1話 初めての彼女が異世界でできた。だけど………
人生で初めての彼女ができた。といっても俺は異世界転生しているから二度目の人生だ。
日本での俺は30歳で彼女いない歴イコール年齢の冴えない陰キャだった。もちろん自分なりに努力はしてきたつもりだ。
だけど相手にも好みや気持ちというものがあるから、報われるとは限らないことだって分かっていた。
それでも腐らずに生きてきたけど、もしかすると心のどこかでは、「いつ人生終わってもいいや」なんて思っていたのかもしれないな。
そんなある日、俺は小さな男の子を信号無視の車から庇って命を落とした。
たとえそれが気まぐれだったとしても、その子が助かったというだけで俺の人生は無駄じゃなかったんだと、薄れゆく意識の中で最期にそう思えたんだ。
そして俺に女神様が同情したのかは分からないけど、異世界転生させてもらえることになった。年齢は20歳からスタート。
それに加えてチートスキルを授けてくれた。そのスキルの名は『バトルブースト』。なんでも戦闘能力の成長速度が何倍にもなるらしい。
そして俺は冒険者になるためギルドへ足を運んだ。冒険者にならないといけない決まりなんてないけど、チートスキルがあるとなれば一度やってみようという気になるものだ。
周りを見回すと、まるでゲームの世界なのかと思うほどに、いろんな武器防具を身に付けた人達が談笑したり掲示板を見ていたり、受付で綺麗なお姉さんと話していたりといった光景が広がっている。
(困ったな、システムが全く分からない)
冒険者ギルドに来るのはもちろん初めて。とりあえず受付に行って申請すればいいのか? いや、誰かに聞いてみようか?
「君、どうしたの? もしかして冒険者ギルドに来るの初めて?」
不意にそんな声が聞こえたのでそちらに目を向けると、そこにはとても綺麗な金髪が特徴的な可愛い女の子が立っていた。
「実はそうなんです。冒険者になろうと思うんですけど、手続きとかあるのかなって」
「それなら私が教えてあげようか?」
「いいんですか? お願いします」
もちろん多少なりとも警戒はしているが、こんな大勢の人がいる場所でまさか攻撃して来たりはしないだろうと思ったんだ。
「決まりだね! 私はミリーっていうんだ。君は?」
「俺はキョウマっていいます」
その女の子の声と表情が明るくて、さっきまで感じていた不安が嘘のように消えている。
そして俺はこの子から丁寧に教えてもらったおかげで、スムーズに冒険者登録をすることができた。
「それにしてもキョウマ君、初心者なんだね。すごい装備してるから、てっきり高ランクなのかと思ったよ」
これも女神様からの贈り物で、低ランク冒険者ではとても手が出ないような高価な剣や鎧を俺は装備している。さすがに「転生特典です」とは言えないけど。
「知り合いが使わなくなった物を貰ったんです」
「そうなんだー」
「ミリーさん、ありがとうございました。これから地道に頑張ります。それでは」
「ちょっと待って! もしよかったら私とパーティーを組まない? キョウマ君、初心者だから誰かがそばにいたほうがいいと思うんだ」
「それは確かにそうですけど、いいんですか?」
「もちろん! 偉そうにしてるけど実は私Dランクで、下から三番目だからそんなに強くはないんだ。だからね、パーティーを組んだほうがいいかなって」
確かに俺としてもいきなりソロは不安ではある。ここは素直に厚意を受けることにしよう。
「分かりました。よろしくお願いします」
「うん、よろしくね!」
こうして俺達は二人で冒険者の活動をすることになった。
冒険者の経験はないので最初こそ戸惑ったものの、次第に慣れてくると俺は『バトルブースト』のおかげでどんどん強くなり、異例の早さでランクアップを重ねた。
異世界での俺の年齢は20歳。ミリーは22歳で少し年上の優しく綺麗なお姉さん。
そんな人と毎日のように一緒にいると最初はそうじゃなくても、だんだんその気になってくるもので……。
ミリーとパーティーを組んでから三ヶ月が過ぎた頃、俺は告白をした。
「俺はミリーが好きだ! 彼女になってほしい」
「嬉しい……! 喜んで!」
こうして二度目の人生にしてやっと初めての彼女ができたことに、この上ない喜びを感じたんだ。
それから半年。『バトルブースト』の効果で俺はさらに強くなり、いろんな戦闘用スキルも習得して、通常なら三年はかかるといわれるCランクになることができた。
順調に出世して優しく可愛い彼女がいる。まさか異世界でリア充になれるとは思っていなかった。
ところが、最近よく違和感を覚える。どれだけ戦闘をしても以前のような成長を感じられなくなった。初めて戦う魔物には必ず苦戦し、新たなスキルは習得できるものの、アイテム鑑定や映像記録など戦闘では直接役に立たないものばかり。
どれもそれなりにレアなスキルではあるようだが、未知のアイテムなんて少ないし、映像記録はその時の映像を魔道具に記録させるというスキルで、味方や敵の行動パターンを後から分析して次に活かすために使うようなものだ。
俺がそんな感覚にとらわれ始めてしばらく経った頃、ミリーから提案があった。
「ねえキョウマ、次に行くダンジョン二人だけじゃ厳しくない?」
「確かにまだ早いかもしれないな。それなら別の依頼を受けようか」
「うーん、さすがにもう二人だけじゃ限界があるよ。そろそろ誰か勧誘しない?」
俺はミリーに同意した。そんなことでミリーとの関係が変わるわけじゃない。きっと大丈夫だ。そして新しいメンバーを迎えることになった。
「Aランクのライネスだ。よろしく」
23歳の爽やか金髪イケメン。誰を勧誘するか二人で探していたところ、メンバー募集をしていたこの人にミリーが声をかけたんだ。
ギルドを通した正式なメンバー募集だから、身元がハッキリしていると考えた俺は同意した。
そして三人でCランクダンジョンへと潜った。今ここでは異変が起きているらしく、その調査の依頼だ。
魔物を倒しながら薄暗い深部へと進み、目の前に真っ暗な空間が広がっている場所へと到着した。狭い廊下の途中に部屋があり、人ひとりがやっと通れる入り口があるような感じだ。
「俺が先行して中の様子を確認する。ミリーとライネスさんはここで待ってて」
「うん、気を付けてね」
「了解だ。二人同時には通れないからな」
まずは俺だけが入る。空間の中は本当に真っ暗で、下手に灯りがあると標的になる恐れがあるため、暗闇で効力を発揮するサーチスキルを使い中の様子を伺う。三人の中でこのスキルを使えるのは俺だけだ。
とりあえず入り口付近に魔物はいないことが分かったので、中に入り再びサーチスキルを発動させた。
するとそこには本来Cランクダンジョンにいるはずがない、大勢の強力な魔物の姿があった。今の俺達ではとても手に負えない。確かにギルドでの情報通りの異変が起きているようだ。
とはいえ魔物との距離はまだ遠い。今回の依頼内容は調査だから、それだけ分かれば十分な成果となる。
「二人とも、ここは危険だ。とりあえずギルドに戻って報告をしよう」
そう言った俺は部屋から出ようとしたが、ちょうど入り口に二人がいるため出られない。俺が「通してくれないか」と言うと、ミリーが笑みを浮かべながら口を開く。
「そう……それは良かった!」
ミリーは何を言ってる……? 俺は言葉の意味を考えるため思考を早めた。だが結論は出ない。
「ライネス、お願い!」
「マジックプリズン!」
ライネスが何やら魔法を詠唱した。そして俺は入り口を通ろうとしたが、弾き飛ばされてしまった。
「ミリー、どういうことだ!」
「もうキョウマと一緒にいる意味ないかなって」
「答えになってない!」
「私、お金持ってて強い人が好きなの。ギルドでキョウマに声をかけたのだって、高価な装備をしてるからきっとお金持ってるんだろうなって思ったから。ただそれだけ」
「でも彼女になってくれたじゃないか!」
「そうね、あの時は強かったものね。だから彼女になってもいいかなって思ったの。でも最近のキョウマ、弱いじゃない。高ランクの魔物だと必ず苦戦するようになったし」
「だったらライネスは何だ! 関係ないじゃないか!」
「関係あるよ。だって私の彼氏だからね」
「何言ってんだ、別れ話なんてしてないじゃないか! それにさっき会ったばかりだろ!」
「まだ分からない? 私はすでにキョウマに見切りをつけて、いい男を探してたの。そしてライネスと出会った。それでキョウマを信用させるため、ライネスにギルドを通してメンバー募集をしてもらったんだよ」
「で、キョウマといったか? お前が邪魔になって俺がこの計画を立てたってわけだ。どうやらお前は冒険者に向いてなかったようだな!」
「あ、そうそう。ギルドから見舞金を受け取るため証拠がいるから、頃合いを見て様子を見に来てあげるわね。だから身分が分かる物は絶対に残しておいてね。それか命を落としても顔だけは無傷でいなさいよ」
そう言って二人は立ち去ろうとする。初めて彼女ができたことがまさかこんな結果になるなんて……!
確かに俺だって自分が完璧だとは思っていない。至らないところだってあるだろう。
(でもっ……! だからってここまでしなくても……!)
「あ、そうそう。これは私からの最後のプレゼントね」
ミリーはそう言うと俺に魔法をかけた。それは魔物を引きつける効果がある魔法だ。
「じゃあねー」
「待て! ふざけるな!」
もはや俺の言葉は届かない。ミリーはそう言い残し、ついに二人の姿が見えなくなった。
そして俺は今になって気が付いた。『バトルブースト』は戦闘能力の成長速度が何倍にもなる。ただし、戦闘能力の限界は人それぞれ違う。
俺はとっくに冒険者としての自分の限界に到達していたんだ。つまり俺はCランクが限界で冒険者には向いてなかった。
(ははっ、そんなことにも気付かなかったなんて……)
ただ女神様は間違いなく善意でしてくれていた。それに報いるためにも、諦めたらいけないんだ……!
俺はなんとか正気を取り戻し大声を出してみたが、状況は変わらない。
覚悟を決めた俺は、暗闇の中迫り来る魔物を迎え撃つ。
だが大勢の高ランクの魔物を相手に敵うはずもなく、逃げることもできない。大勢の魔物に囲まれた俺は最期を悟ってしまう。
勝てるはずないことなど分かりきっている。ただこのまま黙ってやられるほど俺はお人好しじゃない……!
その時、入り口から足音が近付いてくるのが分かった。
「ホーリーバースト!」
そう思ったのも束の間。その言葉とともに凄まじい光が放たれ、それが消えるとほとんどの魔物は消滅していた。かろうじて生きている魔物もその人物が瞬時にトドメをさす。高ランク冒険者だろうか?
「君、大丈夫? 危ないところだったね」
そんな優しい声がするほうを見ると、煌めくような赤髪ロングの若い女性が心配そうな顔をして立っていた。
読んでくださりありがとうございます!
少しの間は一日3話更新する予定です。




