第二王子
地の国の王太子、カラム王子は、父王の御前を辞し、次の役目である閲兵のため随員を連れて回廊を通り大広間を通っていく。
そんな彼らのところにどこからか華麗なトレモロで演奏される美しい竪琴の音が響いてくる。
王太子は少しイライラしていた。
次の役目もあるというのに父王がまた若い娘を連れ込んでいる現場を見てしまったからだ。
父王は母の他にも何人か側室がいてそれは王には許されていることなのだがそれが違反というわけではないのだが事がかなり残念だった。
先程母王妃の桟敷から連れ出した父王のお気に入りの娘を閲兵場にまで引き連れていくわけにもいかないのでお供の一人にその令嬢をすぐに自宅に返すようにきつく言いつけるのだった。
そんな中王太子一行が進む王宮の回廊に人だかりが見えて美しい竪琴の調べが鳴り響くのがきこえた。
王宮に参内した貴族や貴婦人、女官達、回廊を守る兵士たちまでがその音楽に聴き惚れている様子だ。
カラムの少々苛立った心もあまりに美しい調べに少しだけおさまってきた。
がしかし、王宮のこんなところでこんな普通の日にミニ演奏会を開いて良い規則などない。
女官や兵士には役目があるし、参内した貴族や貴婦人も回廊にとどまっていないでそれぞれ目的の場所にいないといけないのだ。
要するに誰も彼も規則違反。
そして、こんな非常識なことをして許されるような人間を、カラムは一人しか知らない。
「王太子殿下のお通りでございます」
高貴な人が回廊を歩く際に広間の入り口に佇む兵士から大きな先ぶれの声がかかる。
その声が広間にいた集団を牽制すると、国王夫妻の次に序列の高い人物のお通りにみなが慌ててひれ伏した。
そして人々の輪の中にいたのは、妖艶な美しい笑みを称えた黒髪の美青年。
青年が最後にゆっくりとこうべをたれた。
「ご機嫌麗しゅう。兄上」
カラムは少し呆れながら
「やはり、ハルトか。相変わらず見事な琴の腕前だな。本当にお前には何一つかなわぬ。しかし、儀典上、この回廊で演奏はいかがなものか。演奏会ならば許される場所と時間帯にしなさい。そして次回はぜひ私も招待してくれ」
兄は異母弟の立場を考え頭ごなしに叱りつけることはしなかったが、規則違反ということだけは伝えなければならなかった。
そしてその音楽に聴き惚れた者の一人として弟の琴の演奏が好きでもあった。
地の国の国王には息子が二人いる。
第一王子にして王太子カラム。
大変真面目で規律正しい人物だ。
そしてもう一人第二王子ハルト。
性質はやや浮ついている部分もあるが、大変なる美青年で国で最も美しいと言われる若い女性達に大人気の王子様だ。
美しいだけではなく、頭も良く芸術家としての才能もあり演奏家としても剣を取らせても馬に乗らせても右に出る者がいない、と思われるほど多才な人物でもある。
「おや、あの娘、もう見つかりましたか」
「またお前が一枚噛んでいるのか?」
ハルトは、カラムの後方にいる打ち沈んだ顔付きの娘に目を止め、わざとらしい残念そうな顔つきを見せたハルト。
ハルトは、真っ赤になった女の子の顔を覗き込みながら微笑んだ。
「残念だったね。おまえ。せっかく国王陛下に引き合わせてやったのに。次は私のサロンにでもくるかい?」
ハルトは父に若い娘を紹介する事で有名だった。
カラムは大きく咳払いをして召使いの1人にこの娘を早く自宅に帰すようにいいつけ、娘はそのまま帰宅させられたのだった。
「ハルト。父上が特別お前を可愛がっておられるのは知っているが王宮内の秩序を乱すような事は慎まなければならないよ。嫌われ役としていっておく。誰もが好き放題をし始めたら、宮廷も王宮も立ち行かなくなってしまう。父上に何か無茶なお願いをされたとしてもそれを諌めるのも息子の役目だとは思わないか」
そしてさらりと長い説教を残して閲兵場に向かうカラムなのだった。




