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「好き勝手やりやがって!あのクソ野郎どもが!」
パクリの山虎亭が開店してから数週間後。
山猫亭の管理本部の奥、いつもの会議用のテーブルで俺たちが集まって話をしていると、フレディが怒りに任せてテーブルに拳を叩きつけた。
だが普段と違って、誰もフレディを咎めたりしない。
気持ちが痛いほど分かるからだ。
「おい、フレディ。あの山虎亭って店の裏にはギャングがいる。これは間違いねぇんだな?」
俺は怒りを堪えながら尋ねる。
フレディは何度か深呼吸をして気持ちを落ち着けた後、口を開いた。
「そうだ。出店と同時に俺のシマにちょっかいを出してきたから間違いねぇ。そのせいでギャング同士の抗争拡大ってことで、こっちまで兵士たちから厳しい目で見られてんだよ」
フレディが苦々しく口にした言葉を聞いて、俺のこめかみに血管が浮き上がる。
「つまり、こっちの店に嫌がらせしてるのもそいつらってことだな?飼育小屋を荒らしたり、店の前にゴミを巻き散らかしたり、客に因縁をつけて追い払ったりする奴らがだ」
俺たちの店は嫌がらせを受け、売上が落ち始めていた。
あっちは店を増やしてるので、このままじゃ差が埋まるどころか追い越されかねない危機にある。
俺の言葉にフレディは頷き、それを見たジョシュアが珍しく怒りの表情で「あいつら許さねえ」と呟いた。
「配達途中の子供たちが変な奴らに絡まれたりしてる。飼育場の警戒は厳しくしたけど、怪しい人間を見かけたって話は今も出てきてる。このままじゃ客を取られ続けるし、営業にも支障をきたす」
「街中で子供に手を出せば兵士が黙ってねえだろ。イカれてんのか?」
俺は「そこまでやるのか?」と不思議そうにフレディに尋ねたが、フレディは「やってられるか」と首を横に振った。
「どうせ捨て石だろ。兵士に訴えはしたが、現行犯で捕まえても次々と新手が湧いてきやがる。元々真っ昼間からカチコミ入れてくるようなイカれた奴らだ。多少逮捕されたくらいじゃビビらねえよ」
「牢屋へぶちこむのにも限界があるか......」
問題の解決が難しいと悟り、俺はチッと舌打ちした。
「解せねえことがある。敵のギャングたちは飲食店のド素人だが、それにしちゃ手際が良すぎる。あの馬鹿どもにチェーン店を活かした物真似なんて思いつくわけがねぇ」
忌々しげなフレディの言葉に全員が眉をひそめた。
フレディの言う通り、相手はこちらに動きを察知されることなく事を進め、その後も息をつかせず次々と手を打ってこちらを苦しめてきている。
「知恵が回る関係者がいるってこと?でも、このあたりじゃチェーン店なんて珍しいでしょ。そんな人間がいるの?」
リナの言葉に俺は「むぅ」と唸った。
フレディの調査によると、店で働いているのは全員雇われで、ギャングのメンバーじゃないらしい。
チェーン店を熟知していて、こっちの商売の仕組みを解き明かし、対抗策まで考えつけるような関係者。
「そんな都合のいい人材が転がってるわけねえ―――」
言いかけたところで俺の動きが止まった。
1人だけ心当たりがあったからだ。
「......もしかしてレイジなの?」
メアリーが愕然と呟いた。
「......辻褄は合うな。コリンが言ってた、『レイジらしき人物を見かけた』って話にも繋がる」
俺も顔を歪めて肯定する。
フレディのシマとは違うスラム街にいるなら、他のギャングたちに匿われてるってことで間違いねえだろ。
「今更山猫亭が惜しくなったのか...。理由は分からねえが、喧嘩を売ってきたってことなら遠慮はいらねえ。やり返してやるぜ!」
俺は肩を回して気合を入れ、「いますぐにでもレイジをぶん殴ってやる」と鼻息を荒くする。
「待て!こっちから襲撃するのは無しだぞ」
だが、俺の様子にフレディが慌てて釘を刺してきた。
「なんでだよ?悪者相手なら手荒なことしても文句を言う奴はいねえだろ?」
水を差された俺は不満げに言うが、フレディは身振り手振りを合わせて「駄目だ、駄目だ」と静止しやがる。
「兵士に目をつけられてるって言っただろ!小競り合いくらいなら注意で済むが、本気で衝突したら関係者全員で牢屋行きだ!店の評判に傷がついたらお終いだぞ。それをやるのは相手の悪事が露見してからじゃないと無理だ!」
「面倒だな......」
「モンスターぶち殺すのとはわけが違うんだよ!ここは法治国家だぞ!」
忌々しげに顔を歪める俺に対し、フレディが「常識ってものを知らねえのか!」と叱りつけてきやがる。
それを話半分に聞き流していると、黙って思案していたリナが口を開いた。
「商人ギルドに訴えてみたらどう?どう見てもこっちの店の真似で、しかも嫌がらせまでしてる。筋は通ってるはずよ」
「それだ、まずはそれでいこう!」
リナの提案を聞いて、天から降ってきた助けとばかりにフレディが飛びついた。
「仕方ねえな、じゃあひとっ走りあのエルフに申し立ててくるとするか」
俺は「やれやれ」とぼやきながら、リナを連れて商品ギルドに向かった。
**********
「無理ね」
「なんでだよ!」
あっさりと訴えを却下した受付嬢のイレーナに対し、俺は抗議の声を上げた。
ちくしょう、毎回否定されてばかりじゃねえか!
「この街では飲食店は特許や商標登録に守られていないからよ。庶民向けだと似たような店なんて山ほどあるでしょ?全部摘発するつもり?」
「そりゃあ、その...、あれだ......。俺たちはチェーン店ってことで、外見とかも売りの1つで......」
俺はまともに反論できずしどろもどろになる。
だがイレーナの言う通り、店名が「料理名の後に番号を付けただけ」って手抜きのところは多いし、外見や内装なんて似たり寄ったりだ。
「法整備が追いついてないってことですか?」
リナは諦めず食らいつくが、イレーナは申し訳なさそうに頷いた。
「ええ、チェーン店という仕組みや飲食店の保護がまだ一般的じゃないの。だから、行政側が問題点を把握できず、法の改正が行われてない。相手をどうにかするなら、営業妨害や泥棒として訴えることになるわ」
「それはもうやってんだよな......」
店を襲われた後に兵士は呼んだが、犯人はまだ捕まってねぇ。
もし捕まったとしても尻尾切りの可能性が高いだろうな。
「このままじゃヤベえぞ」
「不味いね...」
俺とリナは顔を見合わせ、揃って頭を抱えた。
**********
それから3週間が経過した。
敵は5店舗に増え、あろうことか2割引きキャンペーンまで始めやがった。
唐揚げの味が一緒だから、当然客は安い方へと流れていく。
「なんでこんな値段で出せるんだよ!利益度外視か!?」
俺が管理本部で悔しげに地団駄を踏んでいると、フレディがげんなりとした顔で現れた。
「敵のネタが割れた。スラム街の住人やホームレスを安くこき使ってるらしい」
「人件費を削って値段下げたってことか?」
俺の問いにフレディは黙って頷く。
訳アリの人間を雇ってるのは俺たちも一緒だが、安く買い叩くとは容赦がねえにも程があるぜ。
「敵が仕掛けてるのは札束の殴り合いだ。...こっちも値下げするか?」
「駄目だ!従業員にまともな給料が払えなくなる!相手はその気になりゃ殴ってでも働かせるかもしれねえ。そうなれば俺たちに勝ち目はねえぞ」
悩ましげに問いかけてきたフレディを励ますため、俺はフレディの肩を掴んで大声で否定した。
一度値下げに踏み切れば、客はその値段でしか買わなくなるから後戻りができねえ。
それに、相手の財布事情が見えねえから分が悪すぎる。
「料理の味で勝つしかねえ。少し高い金を払ってもいい思えるようなやつをだ」
俺はフレディの目を覗き込み、なんとか説得しようと試みる。
だが、フレディは不安を拭いきれないままだった。
「でもよ、時間がねえぞ?これ以上売上が落ちたら流石に持たねえよ」
俺は思わず顔を歪めた。
フレディの言う通り、現金が入って来なくなりゃ早晩詰みだ。
値下げでもなんでもやって食いつなぐしかないって、フレディが考えるのも理解できる。
「敵のギャングが摘発されるって話はないのか?これだけ好き勝手やってりゃ、兵士も動き出すだろ」
俺は一縷の望みに賭けたが、フレディは首を横に振った。
「逆だ。ギャング同士の小競り合いが激しくなって、兵士たちは治安悪化の対処に本格的に乗り出してる。ギャングと関わりのある店ってことで、まとめて摘発される恐れがある」
「クソったれ。下手したら俺たちまで巻き込まれるかもしれねえってことか」
俺はフレディを手放し、思案する。
新作料理を考えなきゃならねえが時間はねえ。
理想は新作料理を出して売上を取り返し、敵の悪事を暴いて兵士たちに潰させること。
(そんな都合良く話が進むか?)
俺は歯ぎしりするが、悩んでいても状況は改善しねえと腹を括る。
「料理に兵士か...。俺は一度兵士に直談判してくる。お前はメアリーたちを集めて新作料理を考える準備を進めろ!」
俺はフレディに言い残し、兵士の詰め所へと走り出した。
(新作料理ったって、そんな客を呼べるようなものはすぐ思い浮かばねえぞ...)
何か手がかりはないかと、走りながら街中に視線を巡らせる。
だが、屋台や市場、通行人を見ても手がかりは見つからない。
(クソが、何も思いつかねえ!)
めぼしいものが見つからないまま、兵士の詰め所に着いちまった。
ここは俺が牢屋でグッスリ寝た詰め所だ。
「すまねえ、伝えたいことがあるんだが......」
勝手知ったるなんとやらで声をかけるが、控えていた兵士が「何の用件だ?」と顔を出した瞬間、俺の頭の中でとあるアイデアが湧いた。
「おい、アンタ!聞きたいことがあるんだ!」
俺は兵士に勢いよく突撃し、両肩を掴んで揺さぶる。
兵士の首がガクガクと揺れ、「うおお」と声が漏れる。
それを見た途端、周囲の兵士たちが何事かと俺を押さえつけた。
「止めろ!」
「待て待て、悪気はねえんだ」
兵士を襲ってると勘違いされたことに気がつき、俺は慌てて手を離して言い訳を始めた。
「俺は話を聞きたいだけだ!そいつは以前、うちの店で買った唐揚げをパンに挟んで食ってたんだ。そうだろ?」
「何言ってるんだ?」
兵士の1人が俺を指差して「ハァ?」と呆れ声を漏らし、他の奴らも首を捻る。
掴みかかった兵士はしばらく俺を眺めていたが、俺のことを思い出したらしく手をポンと叩いた。
「……ああ、こいつは唐揚げ屋の従業員だ」
「そう、唐揚げ屋の山猫亭だ!」
俺が誰だか明らかになるや否や、他の兵士たちは「人騒がせな…」とボヤキながら散った。
残った兵士も呆れ顔で俺を見てくる。
「なんだよ。何しに来たんだ?また唐揚げの感想でも聞きに来たのか?」
「違う。あの時、唐揚げをパンに挟んで食ってただろ?アレについて色々と聞かせてくれ!」
「お、おう…。それくらいなら……」
俺が必死の形相で頼み込むのを見て、兵士は一歩引きながら承諾した。
その後、俺は兵士から話を根掘り葉掘り聞いてアイデアを練った。
そして兵士に感謝を伝え、山猫亭へと駆け戻る。
もちろん最近暴れてるギャングと俺たちは違うこと、営業妨害されて迷惑してることもキッチリと言い含めておいた。
これで少しは警戒の目は逸らせるだろう。
「後はあのクソ野郎共に吠え面かかせてやるだけだ!」




