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異世界唐揚げ屋に祝福を  作者: 牛熊


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14/20

14

「よーし、全員酒を持ったな?じゃあ、いくぞ。乾杯!」


俺は吹き抜けになった2階から階下を見下ろし、掛け声に合わせてジョッキを天高く突き上げた。


なみなみと注がれたビールがジョッキの縁から少しこぼれ落ちる。


それに呼応して他の面子も大声で叫び返してくる。


「「「乾杯!」」」



ジョッキを傾けゴクゴクと勢いよく飲む。


口内にビールの香りと苦みが広がり、喉をパチパチとした刺激が滑り落ちていく。


これだ!


この1杯のために働いているんだ!



「くぅ~、久々の酒は堪えられねえぜ......」


一口で半分ほど飲み干し、改めて周囲を見回す。


色々と関係者を呼んだ結果、参加者が50人を超えたせいで人だらけだ。



(商人ギルド近くの酒屋を貸し切りにして正解だったな)


改めて階下を見ると、従業員たちが鬱憤を晴らすように派手に飲み食いしていた。


コリンを始めとした冒険者たちも下にいて、目をキラキラとさせた子供たちに囲まれ、いつもより自慢げに胸を張ってやがる。



(あの頃のガキからしたら冒険者は憧れの的か。日頃世話になってるとなりゃなおさらだ)


喧騒のせいで声は聞き取れないが、ジョシュアがコリンと何か話し、頭を下げた。


隣の冒険者たちは子供たちを持ち上げ、双方楽しそうにキャッキャとはしゃいでる。



(礼を言った後は仕入れ拡大の相談でもすんのかな?まあ、あの調子なら放っておいても大丈夫だな。アイツなら如才なく立ち回るだろ)


俺はそう判断し、2階に目を向ける。


こちらはトーマスを始めとした仕入れ関係者や、商人ギルドに冒険者ギルドの面子が集められていた。



(メアリーはトーマスや仕入れの業者。リナとフレディは商人ギルドのイレーナや、冒険者ギルドの眼鏡をかけた嫌味な偉い野郎と歓談中。やっぱり俺は要らなくねえか?)


ビールをチビチビやりながらそんなことを考えてると、リナが顔を向けずにハンドサインを送ってきた。


早く来いという合図だ。


思わず「うへぇ…」とため息が漏れた。



(だけど、仕方ねえか。この先のことを考えりゃ、各方面の協力はいくらあっても足りねえ)


人間1人で出来ることなんて高が知れてる。


そして、何も知らねえ相手より、一緒に飯を食った奴の方がいくらか信頼できるってもんだ。


これも野望のためだと自分に言い聞かせ、景気付けに残りのビールを勢いよく飲み干す。



「よっしゃ!かかってこいや!」


空いたジョッキをテーブルに叩きつけ、新しいジョッキ片手に俺は戦場へと大きく一歩踏み出した。



**********



「もう無理……」


挨拶まわりを終えてヘトヘトになった俺は、ネズミのように身を縮めてコソコソと1階に逃げ出した。


(愛想笑いをしつつ腹を探り合うアレ、俺には向いてねえんだよ。こういうのはリナやフレディの方が適任だろ)


そう自分に言い訳しながら、階段途中でチラリと2階に視線を送る。


リナやフレディは経験豊富な相手に一歩も引かず、笑顔で経営の相談を続けている。


メアリーもトーマスたちと食材や物流の改善案を話していた。



(いやもう、酒飲みながら真面目な議論出来るって凄えわ。しかも相手の機嫌を損ねないようにだろ?無理無理、俺には勢いよく騒ぐことしか出来ねえよ)


俺は「適材適所ってもんがあるんだよ」と小声で言い残し、1階へと降りた。


そして、目についた従業員たちの輪に飛び込み、酒を注いで回る。



「酒や飯は足りてるか!?足りなきゃいくらでも頼んでいいぞ!二日酔いになってもいいように明日は休みにしたんだからな!」


従業員たちは1階に降りてきた俺の姿に驚くが、すぐに受け入れてくれた。


やっぱり、こういう勢いで盛り上げる方が得意だわ俺。


そうこうしていると、1人の若い男が俺の前に現れた。



「カイルさん、アンタに伝えたいことがあるんだ」


「お、おう...。なんだ急に改まって?」


真面目な顔をした男を前に、俺は若干腰が引けた。


従業員の名前は覚えているが、細かいプロフィールはどうだったかと必死になって頭の中を掘り返す。



(えーと、こいつは元冒険者って言ってたな。足を怪我して引退し、生活に困ってフレディから借金したんだったか。何言われんだろ?冒険者時代ほど稼げねえとか?そんなこと言われたら困っちまうぜ...)


俺が不安げにそんなことを考えていると、そいつは急に深々と頭を下げた。


「山猫亭で働かせてもらって感謝している。学も無え俺は、ここが無ければ働ける場所なんでロクになかったんだ」


「......そういうことか」



俺はホッと安心しつつ、こいつがどんな苦労をしてきたのかを察した。


何かしらの専門教育を受けてない奴は肉体労働で稼ぐしかない。


じゃあ、そいつが体を壊したらどうなるか?


足を怪我したとなりゃ荷運びとかで雇って貰えるはずもなく、負荷が軽い仕事なんて似たような奴らとの取り合いだ。


周囲の人間も似たような境遇なせいか、静まり返って男をジッと見ているし、中には薄っすらと涙を浮かべている奴もいる。


俺は男の肩をバシバシと叩き、その勢いで顔を上げさせた。



「こっちだって人手が足りなくて困ってたんだ。相身互いといえば大仰だが、持ちつ持たれつってやつだな!俺だってお前たちが働いてくれることに感謝してるんだぜ!支店はまだまだ増やしていくんだから、頑張って働いてくれりゃ店持ちにだってなれるかもしれねえぞ!?」


盛り上がった雰囲気に水を差すわけにはいかねぇと、俺はわざと大声でまくしたてる。


「ああ、俺も頑張るよ。アンタの店を支えさせてもらう」


男は鼻水をすすりながら俺の手を握ってきた。


傷跡が残るその手の温度はやけに熱く感じた。



「その意気だ!それなら英気を養わなきゃな!今日は思う存分、飲んで食ってくれ!」


俺はジョッキを男に押し付け、勢いよくビールを注ぐ。


そして周囲の人間たちに向かって叫んだ。



「お前たちもだぞ!遠慮なんていらねえ!」


周囲からワッと歓声が上がり、人が寄ってきて感謝を伝える声で溢れかえった。


俺は照れ隠しに相手のジョッキに酒を注ごうとするが、酒瓶を奪われ逆に四方八方から酒を注がれちまった。



「おっ、おい!飲み過ぎるわけには…」


俺は止めようとしたが周りの勢いは止まらねえ。


ジョッキどころか、俺の口に酒瓶を突っ込もうとする奴までいやがる。


「さっ、飲んでくれ!」


周囲は人だかりで逃げ場はない。


笑顔と善意に押し負けた俺は覚悟を決めた。



「仕方ねえ…全部飲み干してやるぜ!」


俺は椅子に右足を乗せ、大仰なポーズを取りながらビールを流し込み、ジョッキが空になると雄たけびを上げた。


周りもやんややんやと囃し立て、俺のジョッキにビールを注ぐ。


後はその繰り返しだ。


頭が酒に染まり世界がグルグルと回り出すが、もう止めようがねえ。


視界の端では、コリンが「ああはなるなよ」と子供たちに言い聞かせていた。



**********



「ういー、もう無理だ。飲めねえ。歩けねえ。丸太みたいに転がりてぇ」


「クソッ、カイルの野郎飲み過ぎだ」


俺を支えるフレディから不満げな言葉が飛び出るが、今の俺の頭には何も通じねえ。


もうベロンベロンに酔ってる。


こんなに酔ったのはいつくらいだか思い出せねえ。



(久々にいい酒を飲めた)


俺が満足気に笑みを浮かべていると、それを見たフレディが顔をしかめた。


満面の笑みを浮かべた酔っ払いなんて、怒りの対象でしかないのは分かるぜ。



「こいつを宿まで運べってのか?......面倒くせえな。嬢ちゃん、近くの支店に放り込んじゃ駄目か?」


「......仕方ないか」


フレディの提案にリナが呆れ声で答えた。


フレディは商人ギルド近くの山猫亭まで、俺をズルズルと引っ張りながら運ぶ。


そして、ドアを開けるなり、俺を床にゴロリと横たえた。



「椅子に座らせた方がいいかな?」


リナは俺を眺めながら思案するが、フレディがすぐに止めた。


「止めとけ。泥酔客が椅子から転げ落ちて、頭を打って死ぬこともある。椅子やテーブルの上に寝かせるのも駄目だ」


「そっか、じゃあ何か被せておきましょ。毛布は置いてないから......資材を包んでた布でいいか」


俺の体にフワリと何かがかけられた後、2人が遠ざかる気配と足音がした。



「鍵閉めてくからな。朝起きて扉ぶち破るんじゃねえぞ。寝相の悪さで内装を傷つけたら直して貰うからな」


「ういー。分かってるって」


フレディが扉の鍵をガチャンと閉めたのと同時に、俺の意識も闇の中に落ちていった。



**********



翌朝、二日酔いで痛む頭を押さえながら目覚めると、そこにはすっかり荒れ果てた店内があった。


飾りの壁掛けやテーブルの上にあった調味料は跡形も無く、食器やマニュアルが置いてあった棚も開け放たれて全部空。


厨房に至っては鍋すら残っていない。


この調子だと倉庫の食材や資材も根こそぎ無くなってるに違いねえ。



「......この店って改装中だっけ?」


あまりの惨状に思考が止まる。


俺が途方に暮れてると、ちょうどそこにフレディがやって来た。


「うおっ!なんだこりゃ?おい、カイル。お前がやったのか?どんな寝相の悪さだよ!」


「やるわけねーだろ」


驚き慌てるフレディを見て、俺は逆に冷静になって立ち上がった。


改めて周囲を見渡すが、どう見ても酔って暴れた跡ではない。



「泥棒か……。とりあえず兵士を呼ぼうぜ。俺がひとっ走り行ってくる。ああ、下手に現場に手を付けるなよ」


俺は凝り固まった体をバキバキと鳴らしながら、店を出ようとする。


まだ朝早いが詰め所なら兵士がいるはずだ。



「分かってるさ。じゃあ、俺はここに残って他の面子に連絡しておくぞ」


フレディも心得たもので、わめいたりせずにすぐに対応を始めた。


俺もフレディも内心でブチギレてるが顔には出さない。


まずは相手を捕まえるのが先。


怒りをぶつけるのはその後のお楽しみだ。



「野郎、ただじゃ済まさねえぞ…」


腹の中は失態の恥と店を荒らされた怒りでグツグツに煮えくり返ってる。


俺から漏れる雰囲気はよほど険悪だったらしく、通行人たちが小さく悲鳴を上げていた。



**********



俺が兵士たちを連れてくると、彼らはテキパキと現場検証を始めた。


それと並行して事情聴取を受ける。


ようやく解放された俺がフレディに話を聞こうと近寄ると、そこにはコリンもいた。



「コリンじゃねえか。なんでいるんだ?」


「報告があったからなんだが……。まさか昨日の今日で俺の方が驚かされることになるとは、思ってもなかったぞ」


呆れたように言うコリンを前に、俺は気まずそうに後頭部を掻いた。


酒場で偉そうなことを言っておいて、いきなり店が休業状態になってんだから反論も出来ねえよ。


その言葉にフレディも乗っかってきた。



「これだけ荒らされてて、よくもまあ起きなかったな。そんなんじゃモンスターに食い殺されるんじゃねえのか?」


「ごもっともで……」


俺は肩をすぼめて申し訳なさげに縮こまり、床に正座した。


だが、そこでコリンが助け舟を出してくれた。



「殺気が無かったんだろ。まあ、深酒と薬のせいもあるだろうが」


「どういうことだ?」


コリンの説明が理解できなかったようで、フレディは首を傾げて聞き返した。


コリンは馬鹿にしたりせず、淡々と説明を続ける。



「相手に害意がないから反応しなかったって話だ。冒険者にはそういう奴は珍しくない。いちいち物音に反応してたら、野外で寝られないだろ?そこに眠り薬を使われた」


コリンは床を指差し、「嗅ぎ薬らしき跡がある。これで眠らされたんだ」と結論付けた。


「ああ、そういうことか......。ってことは、わざとカイルを見逃したってことか。ここまでやるなら、いっそ殺した方が邪魔が入らねえとばかりに思ってたんだが」


コリンの説明を聞いて、フレディはようやく得心がいったと膝を叩いた。



「カイルが生きてるならそうなんだろうな。いや、殺そうとして目覚める危険を回避したのかもしれん。刃物を抜く音でも立てれば終わりだからな」


「薬で眠らされてるのに?」


「それでもだ。俺もコイツもそれくらいできる」


コリンは俺を顎で指し示す。


話を聞いたフレディは顔を歪め、「これだから常識の通じねえ奴らは…」と漏らした。


酷え言われようだな、おい。



「で、店を調べて何か分かったのか?」


俺は正座したままフレディを見上げて問う。


フレディは店の入口を指差し答えた。


「店の鍵はちゃんと閉めた。恐らくピッキングだろうが鍵穴には傷がない。不慣れな奴なら引っかき傷が残るんだが、こうも綺麗に開けられてるってことは、裏稼業の人間の仕業だ」


俺とコリンはフムフムと頷く。


心当たりは1つしかなかった。



「てことは、第一容疑者はお前と敵対するギャングか」


「十中八九そうだろう。ただ解せねえのが目的だ。店の売上金は毎日持ち帰ってる。それくらいアイツらもすぐに分かるはずだ。やるなら金を置いてるところだろ?」


「そうなると、わざわざ何を盗もうとしたのかが分からねえな。嫌がらせ目的か?」


俺たちは荒れ果てた店内を見回す。


何を盗んだというより、持っていけるもの全部を盗んだって言う方が正しい。



「食器なら売って金にできるだろうけど、肉や調味料を盗んで何をするつもりだ?」


俺が不思議そうにすると、コリンも同じ様子で相槌を打つ。


「そりゃあ...食べるとか?犯人は店に入れない恥ずかしがり屋かもな」


「配達で注文しろや!」


コリンの言葉にフレディが悲鳴混じりの声を上げた。


フレディが叫ぶのを尻目に、俺はコリンが「報告がある」と言っていたことを思い出した。



「そういや、お前の要件は?泥棒の話とは別件なんだろ?」


「ああ、そうそう。レイジを見かけたって情報が入ったんだ。スラム街のあたりらしい。フレディの縄張りとは離れてるから、念のためにな」


久々にレイジの名前を聞いて俺の顔が歪んだ。


不味い唐揚げでメアリーの店を傾かせ、俺を詐欺で騙したクソ野郎。


全ての元凶が今更になって出てくるとは思ってもいなかったが、怒りよりも驚きの方が先に来た。



「えっ、アイツまだ街から逃げてなかったのか?兵士にも追われてんのに?」


俺は口をあんぐりと開いて「マジかよ」と漏らす。


「どうなんだろうな?身柄を隠してたのか、それともまたこの街に舞い戻ってきたのか」


驚き問い正す俺を前に、コリンは肩をすくめて「そこまでは分からない」とポーズを取る。


俺はどうしたものかと悩む。



「レイジには落とし前をつけてもらう必要はあるが、今は売られた喧嘩を買う方が先だ。フレディも今じゃ仲間だし、契約云々は優先度が低いんだよな......」


フレディをチラリと見るが、こっちもこっちで何とも言えない微妙な表情を浮かべていた。


まあ、こいつはレイジから契約書を買い叩いた側だしな。


正直扱いに困るわ。



「とりあえず、引き続き調査を頼む。捕まえた奴には金一封支払うぜ。他の冒険者たちにも伝えてくれ。この件はお前に任せるし、俺たちは泥棒の対処に集中する」


「分かった」


俺の言葉にコリンは鷹揚に頷く。


これでこの件は一段落だなと思ったところで、リナが店にやってきた。



「他の支店は?被害状況はどんな感じだ?」


「無事。やられたのはここだけよ。管理本部の警戒レベルを引き上げたし、支店から売上金を運ぶ時も付き添いを増やすように体制を見直したわ」


リナの報告を聞いて俺たちは手際の良さに舌を巻くが、同時に更に困惑した。



「......他の店は無事って、意味が分からねえな」


「やるなら複数同時だよな。警戒が厳しくなりゃ、2度目は上手くいかねえぞ。売上金もだ」


俺の呟きにフレディも同意する。


つくづく相手の意図が読めねえなとため息が漏れた。



「素人の仕業に見えるが、鍵開けや周囲に騒がれずに物を持ち出した手際の良さと一致しねえ。意図が分からねえと後手を踏む。そいつは頂けねえな」


フレディの言葉にその場にいる全員が頷く。


次は大事な従業員が襲われるかもしれねえ。


とにかく相手を捕まえ情報を吐かせる必要がある。


なによりも、やられる側ってのが気に入らねえしな。



「ああ、それと、これを機に決めたことがあるから聞いてくれ」


流れで解散しそうになったが、俺は慌てて全員を呼び止めた。


「なんだよ?従業員への謝罪文を一緒に考えて欲しいのか?」


フレディが皮肉げに返してくるが、俺は真剣な表情でハッキリと告げた。



「酒は止める。だからもう飲ませようとしないでくれ。宴会でも俺だけは酒無しだ」


「「「は!?」」」


俺の言葉に全員が驚愕の声を上げ、疑いの目を俺に向ける。


だが、俺の決意は本物だ。


真っ向から全員の目を見返す。



(夢を追いかけると決めたのに、こんなくだらねえことで躓いた自分が許せねえ。もう酒は無しだ)


内心では自分をぶん殴りたい気分だが、殴ったところで状況は変わらねえんだ。


なら自分が変わるしかねえ。


俺が本気だと悟ったリナたちは、奇跡でも目の当たりにしたかのように体を震えさせる。



「兄貴がおかしくなった......」


リナは呆然としながら後退りした。


「眠り薬の影響か?ちょっと目を見せろ」


コリンは真剣な表情で俺の目を覗き込んできた。


「頼みの綱が切れちまった...。許してくれ、そこまで追い詰めるつもりはなかったんだ」


フレディは首を小さく振りながら謝罪の言葉を述べた。



「おい、何だよその反応は?ここは感動するところじゃねえのか?」


俺は不貞腐れながら言葉を漏らす。


「酒に溺れてた人間が人生を捨てるようなことを言う。驚くのは当然でしょ?」


そんな俺に対し、リナがズイッっと前に出て、キッパリと言い切った。


リナの言葉に合わせ、フレディとコリンも「うんうん」と力強く頷く。


俺は過去の自分を思い出し、反論のしようもなく押し黙る。


クソが、日頃の行いってのは大事だな!



**********



数週間後、街の市場の角に奇妙な看板の店が現れた。


看板には黄色地に黒字で「山虎亭」と書かれている。


市場に用があって出かけていた俺とリナは、その看板を見て開いた口が塞がらなかった。



どこかで見たことのある看板、どこかで見たことのある内装、どこかで嗅いだことのある匂い。


そして、「唐揚げ」の文字がデカデカと書かれた旗まで立ってやがる。


紙袋を抱えた男が店から出てくるのを見て、俺は思わずそいつを呼び止めた。



「おいっ、済まねえが中身を見せてもらえねえか?」


「へ?唐揚げをか?まあ、いいけどよ」


男は気前よく紙袋を開けてくれた。


俺とリナは食い入るように中を見る。


そこにはどこかで見たことのある唐揚げが詰まっていた。



「お、お、お、俺たちの店のパクリじゃねえか!」


俺の叫び声があたりに響き渡る。


「こいつがなかなかイケるんだ。流行ってる店が近場に増えてくれて助かるぜ」


男は満足そうに頷くが、俺は必死の形相で否定する。



「俺たちは猫!ここは虎!別もんだ!」


「へっ、そうなのか?俺はてっきり系列店だと思ってたんだが...。他の人間もそう思ってるぞ。味もそっくりだしな」


男は驚きつつ、他の客たちに視線を向ける。


男の言う通り、あちらこちらから「ここが流行りの店か」「新しい支店ね」とか聞こえてきた。



「嘘だろ...」


「兄貴、どうしよう...」


俺とリナは愕然と店を見つめた。



「いや、このままじゃいけねえ!すぐに対処しねえと!」


俺とリナは男に頼んで唐揚げを追加で買ってきてもらい、紙袋を抱えて山猫亭の管理本部へと駆け込んだ。


メアリーは店から離れられねぇが、ジョシュアとフレディを急いで呼ぶ。


そして、全員で山虎亭の唐揚げを試食する。



「こいつは全く同じ味だな...。素人に違いは分からねえぞ」


「俺たちが使ってる濡羽雉の味だ。肉の厚みからして、しっかりと餌も食わせてる。飼育期間を考えれば、かなり前から準備してることになるけど...。どこかに飼育小屋を建てたのか?」


フレディは眉をひそめ、ジョシュアは肉を見ながら分析を始める。


俺はメアリーが作った唐揚げを横に置き、食べ比べし、その味に思わず顔を歪めた。



「使ってる調味料もほぼ同じだ。これじゃ客が勘違いするのも無理はねえ」


こりゃやべえと俺は頭を抱える。


「この前の泥棒はこれが目的ってことか?」


フレディがリナに問いかけ、リナもキッパリと頷いた。



「店に置かれたマニュアルが本命。狙いを誤魔化すために盗める物を全部盗んだってことでしょう」


「やけに素人くせえと思ったが、パクリ目的なら辻褄は合うな…。食材も揃ってりゃ、再現するのは簡単だろう」


フレディは忌々しげに舌打ちした。


リナも悔しそうに唇を噛む。



「店の運営を効率化したのが仇になった。誰にでも仕事をこなせるようにした結果、真似されるのも容易になってる。お金と人手さえ集められれば何とかなるから、この先も店を増やしてくる可能性が高いわね」


その言葉を聞いて全員がギョッとした。


パクリの店と客の奪い合い。


最悪の未来だ。



「この調子でアイツら店を増やすとやべえぞ。俺たちの店を増やすどころか、出店費用の回収が怪しくなっちまう」


フレディは冷や汗を流し焦る。


大金を出してるだけあって悲壮感が凄まじい。



「こっちは資金繰りがギリギリだから、お金が入って来なくなると潰れるわよ。店を増やすどころじゃないわ。いえ、相手がわざとこちらの店の近くに出店してくる可能性だってある」


金と金の叩き合い、資本力でぶん殴り合う世界は残酷だ。


負けた側には何も残らねえ。


そうなりゃ、パクリの店が「こちらが本家でございます」と全部持っていっちまう。



「俺の野望が終わっちまう!」


俺は頭を抱え、天に向かって慟哭した。


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