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慰労会の開催が決まりカイルたちが解散した後、フレディはジョシュアを呼び止めた。
2人はコソコソと部屋の隅に寄り、肩を寄せ合って小声で話し始める。
「生活や仕事は上手くいってんのか?仲間たちから不満とか出てねえのか?同じ家で住んでりゃ、喧嘩の1つも起きるだろ」
フレディは酷く真面目そうな表情で問いかける。
厳つい顔とは裏腹に、その言葉はまるで親戚の叔父のようだった。
「元々同じ場所で生活してた面子だ。今更話がこじれるような喧嘩なんて起きない。喧嘩しても軽く叱って、言い聞かせればそれで終わりさ」
ジョシュアはフレディに真っ向から向き合って目を合わせ、躊躇いなく首を横に振って否定した。
フレディはジョシュアの仲間たちのために清潔な服や住む家などを手配した。
幼い子供たちとはいえ、かなりの出費である。
もちろん住居の場所はスラム街で、衣服も中古品、食事もそれ相応。
生活水準で言えば、カイルの庇護を受けているリナの方が明らかに上。
それでもジョシュアの顔に不満の色は全く無かった。
「今の仕事に文句を言う奴もいない。仕事中に理由も無く殴られて、終わった後に小銭を投げつけられるのに比べれば随分マシだからな」
ジョシュアは「アンタも分かるだろ?」とフレディに視線を投げかける。
フレディもストリートチルドレンの扱いがどんなものかは重々承知している。
黙って頷き、肯定した。
「改めて礼を言いたい。衣食住に仕事までくれてありがとう。仲間たちも皆アンタに感謝してる」
ジョシュアがフレディに向き直り、深々と頭を下げた。
それを見て、フレディは「止めろ」と吐き捨て顔を逸らす。
「俺はこき使える人手が欲しかっただけだ。問題が起きてねえなら、話は終わりだ。気張って働きやがれ」
フレディはそう言い残し、ズカズカと足音を鳴らして2階へと去っていった。
しかし、その耳の先が少し赤く染まっていたのをジョシュアは見逃さなかった。
フレディは階段を登りながら、自分もストリートチルドレンだった頃を思い出す。
浮浪者と喧嘩しながらゴミ箱を漁って食事を賄い、兵士に追い立てられながら逃げ回る日々。
「お前が食え」となけなしの欠けたパンをくれた兄貴分が、翌朝には冷たくなっていたこともある。
(あそこまで賢くはなかったがな。あれだけ周囲が見えてると、状況の辛さも余計に身にしみただろうに)
ストリートチルドレンの未来は3つしかない。
ケチな犯罪に手を染めて捕まって未来を閉ざすか、反社会的な生き方を始めるか、路地裏でのたれ死ぬか。
(俺は2つ目だった。今のあいつは俺よりもマシか?……マシだといいな)
フレディはジョシュアたちのことを考えつつ、自分の過去を回想する。
ギャングをやりたかったわけではない。
いつの間にかギャングを率いる立場になっていただけだ。
そこから先は、部下たちを食わせていくことに必死だったことしか覚えていない。
(ギャングくらいしか選択肢がない人間。そんなのが就けるような仕事なんてそうそうねえ)
麻薬や人身売買に手を出せば、兵士たちに摘発されて潰されてしまう。
縄張りといったところでシノギに限界はあるし、部下や抱える債務者を雇ってくれるところなど見つからない。
ストリートチルドレンを抜けた先もどん詰まりだった。
(仕方なくケチな悪党の真似事をしていたが、カイルとの出会いでようやくマシな未来が見え始めた。腹を括ってやるしかねえ)
フレディはカイルにイモを引くなよと言ったが、あれは自らに言い聞かせた言葉でもあった。
フレディたちに逃げ場などない。
どれだけ面倒事が降って湧いたとしても、必死にしがみついて何とかするしかないのだ。
(こうなってくると他のギャングたちが厄介だ...。俺たちが儲けてる話も広まりつつある。よく思ってない奴らの噂をよく聞くようになったから、何か仕掛けて来るかもしれねえ)
フレディはタバコを咥えながら2階の窓から外を見下ろし、周囲に怪しい人影がいないか目配りする。
もし襲撃されるとしたら、売上金を置いているこの建物だと想定していた。
部下には警戒を怠らないように指示している。
だが、やはり受け身という立場は弱い。
「......歯を食いしばってやっていくしかねえな。これまでも、これからも」
フレディはそう自分に言い聞かせ、タバコに火をつけた。
大きく一息吸い、天井向けて吐き出す。
紫煙はフラフラと揺れながら消えていく。
フレディはそれをぼんやりと眺めていた。




