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異世界唐揚げ屋に祝福を  作者: 牛熊


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「ハーハッハッハッ!笑いが止まらねえぜ!」


山猫亭の前に並ぶ客の行列を遠目に、俺は高笑いを上げる。


どこからどう見ても不審者だが、商売をやってる人間なら誰しも俺の気持ちが分かるはずだ。


途切れない行列や殺到する客ほど気持ちの良いものはねえ。



「兄貴、フレディが早く来いって言ってるわよ!」


「分かった、分かった。今行く」


背後からリナに呼びかけられ、正気に戻った俺は渋々と「山猫亭管理本部」と書かれた建物の中に入る。


建物の中には机と椅子が並び、そこに座る6人の従業員たちが忙しなく作業に没頭していた。


こいつらは全員フレディから紹介された債務者たち。


山猫亭の日々の損益計算や仕入れの手配、新店舗の準備と、裏方の仕事を必死にこなしてくれている。



(別の建物を借りて正解だったな...)


メアリーの店は2階部分もあるが、そこは住居スペースだから使えねえ。


そこで近くの建物を借りて、事務作業を行う拠点を作ったわけだが、この忙しさを見ると判断は正しかったようだ。


ここは売上金の保管場所も兼ねてるが、フレディの部下たちが一日中詰めているから、従業員も強盗に怯えず安全安心に働くことができる。



「カイル、こっちだ」


呼び声の方向に顔を向けると、そこには一際大きな机が置かれ、フレディが椅子に腰掛けて俺を手招きしていた。


フレディの隣にはジョシュアも座っている。


俺はジョシュアを見て、からかうようにニヤニヤとした笑みを浮かべた。



「すっかり身綺麗になったじゃねえか。格好が板についてるぜ」


そう、今のジョシュアにストリートチルドレンの面影はねえ。


髪を整え、シャワーを浴びて清潔にし、白いシャツと黒いパンツと綺麗めな格好をした普通の子供だ。



「......フレディのおかげだ。仲間たちにも住む場所や衣服を提供して貰った。感謝してもしきれない」


ジョシュアはフレディに熱のこもった視線を向けるが、フレディは「よしやがれ」と顔を歪めてそっぽを向いた。


フレディはいつの間にかストリートチルドレンを取り込んでいたのだ。


そして、手の空いてる子供に唐揚げの配達や店の掃除をやらせてる。



(抜け目のねえことだな…。ギャングやってるより、町長とかの方が向いてんじゃねえか?)


俺は近寄り、机の上に置かれた大きな紙に視線を落とす。


置かれていたのはこの街の拡大地図。


そして、地図の上には赤い印が付いたピンが6本刺さっている。



「増えたなぁ...」


俺はそのピンを見て感慨深げに呟いた。


なぜなら、赤いピンは山猫亭の店舗を示しているからだ。



「2ヶ月で支店が5店舗。まずまずのペースだな。売上も順調だから、店を増やす余地はまだあるぜ」


俺の顔を見てフレディも頷く。


一回り大きな赤いピンはメアリーの店こと山猫亭の本店。


それ以外の赤いピンは冒険者ギルドや商人ギルド、市場の側といった人手の多い場所に刺さっている。



「リナ、支店の評判はどうだ?」


俺はテーブルの側に立ったままのリナに問いかけ、それを受けてリナは淡々と答える。


「問題なし。看板と内装が一緒だから一目で分かるし、出してる料理も同じだから、最寄り店に行けばいいっていう気の楽さも好評よ。特に冒険者ギルドや商人ギルドの支店は、他の街からの来客が多いから、話のネタついでに食べに来る客も多いわ」


「うむうむ、ギルド周辺は複数店舗で押さえにいってもいいな」



俺は頷きながらニヤケ顔が止まらなかった。


あの日、フレディにチェーン店の話を持ちかけてから2ヶ月経った。


支店は順調に増え、それに合わせて売上も右肩上がり。


今では山猫亭の派手な看板は住民の目印にすらなり、知名度は抜群だ。



「フレディ、人の当てはまだあるのか?」


俺は心配げに問いかけるが、フレディはフンッと鼻を鳴らして答えた。


「なんとかするさ。スラム街じゃ仕事にありつけねえ奴なんて山程いる。金をくすねたりしない奴ならすぐに採用だから話は早い。むしろ、元銀行員や元冒険者とかの、専門知識のある奴の補充が難しいところだ」


それを聞いて俺は顔をしかめる。


フレディが抱えていた債務者をフル活用しているが、流石にそろそろ底が見えてきた。


「専門家か。俺が紹介できるとしたら冒険者くらいだな…。他は商人ギルドに掛け合ってみるか」


店が増えると管理業務が馬鹿にならない規模になってきたが、それ以外は順調そのものだ。



『従業員用のマニュアルは俺にも分かるくらい単純にしろ』


この条件に合わせるため、俺たちはこの2ヶ月間ひたすら店のオペレーションを見直した。


理由は単純だ。


多店舗展開するには飲食店経験者が足りなかったからだ。



どんな人間でも短期間で戦力になるよう、作業を分かりやすく分割し、それに合わせて厨房も再設計した。


メニューも絞り、出すのは唐揚げとパンとスープ、そして飲み物だけ。


合言葉は「客を悩ませず、注文から会計までを迅速に」だ。


マニュアルは各店舗に配って、いつでも確認できるようにしてある。



山猫亭の本店は従業員の教育場も兼ねていて、メアリーは現場責任者として出ずっぱりになってる。


これで店の運営はどうにかなったが、経理だの行政への申請だのやれる人間はそんな簡単に補充できない。


今は元銀行員の爺さんや元商売人のおばちゃんに頼ってるが、仕事の量が増え過ぎて悲鳴が上がり始めてるからなんときゃしなきゃならねえ。



「ジョシュア、肉の仕入れはどうだ?肉が無きゃ話にならねえぜ。スラム街の飼育小屋は順調か?」


今度はジョシュアに問いかける。


俺たちはスラム街の空き地を買い取り、そこに飼育小屋をまとめた。


ここで鳥を捌いて、肉を各店舗に配送するシステムを整えたわけだ。


治安が悪いから土地は激安で、モンスターを飼育してても文句を言うような常識人がいねえ最高の場所だ。


懸念は肉や資材を盗もうとする馬鹿がいることくらいだな。



「フレディさんたちの縄張りだから、盗みを働く馬鹿はいないよ。コリンさん…カイルの知り合いの冒険者さんが、モンスターの捕獲方法を広めてくれてるから、小金稼ぎに依頼を受けてくれる冒険者も多い。仕入れは安定してる」


俺の心配をジョシュアはキッパリと否定した。


ギャングの縄張りで、正面から喧嘩を売る馬鹿はいないようだ。


それにしてもコリンか…。


一度、礼をしなきゃならねえな。


俺がそんなことを考えてると、ジョシュアがズイッと顔を前に出して主張してきた。



「卵からの孵化と飼育も、やり方が確立しつつある。飼育小屋の面積をもっと増やせば、孵化させる分だけで賄えるようになるはず。支店を増やすなら、まず飼育小屋を増やすべきだ。それに鳥の飼育なら子供でもできる」


ジョシュアは普段はそこらの大人よりも冷静だが、今回ばかりはやけに鼻息が荒い。


子供ながらに重大な仕事を任されたせいか、それとも仲間たちの生活を背負ってるせいかは分からねえが、やる気に満ち溢れてるようだ。


俺は内心で「いいことだ」と呟き、熟慮してますとのアピール代わりに顎を撫でる。



「ほう、肉が安くなるってことか。原価が減るのはいいが、そんな広い空き地が転がってんのか?スラム街でも限度があるだろ」


俺は「そこんとこどうなんだよ?」とフレディにチラリと視線を送った。


「...まあ、空き地となると難しいかもな。ボロ小屋をまとめて潰した方が早いだろう」


フレディは腕を組み、思案しながら答えた。


こいつの縄張り内ならそんなところだろうなと、俺も納得する。


大工のおっさんがまた満面の笑みを浮かべ、「毎度ご贔屓にありがとうございます!」とか揉み手して言いそうな話だぜ。



「てことは、土地と小屋を買うための金、そして飼育人員の確保が必要ってことだな」


俺の言葉に全員の口からため息が漏れた。


フレディから「また出費かよ...」と悲壮な声が溢れる。



金と人手。


鳥と卵じゃねえが、売上を増やすためには金と人手が先にいる。


新店舗の売上は順調だが、店の家賃に従業員の給料、材料の仕入れと支出も多い。


今の山猫亭の資金繰りはカツカツだ。


売上が現金で入ってこなけりゃ、こんな無茶な事業拡大は出来なかった。



「デカい空き地を買う話はもうちょい先になりそうだな。いや、いっそ商人ギルドに金でも借りるか?」


俺は椅子に寄りかかり、天井を眺めながら思案する。


そうすると、フレディが「俺の財布は限界だ」と言わんばかりに、必死の表情で訴えかけてきた。



「お前の知り合いにエルフの姉ちゃんがいただろ?そっち経由で話を持っていけねえのかよ?今の俺らは真っ当な商売人だぜ。いつも通り、唐揚げとビールを奢って話を通してくれや。お前がデカい依頼で稼ぐって話でもいいぜ」


ギャングが何言ってやがると文句を言いたくなったが、その切羽詰まった表情を見て我慢して飲み込んでやった。


「それがよ、『最近、スカートが...』とかあいつ言い出してな。毎日仕事帰りに店に寄ってたらしいんだよ」



俺は両手を上げて降参のポーズを取り、それを見たフレディがガックリと肩を落とす。


あのエルフ、腹の肉が増えたくらいで泣き言ほざきやがって。


もっと売上に貢献しやがれってんだ。


俺たちはあーだこーだと色々話し合うが、結局「金と人手が足りない」という最初の問題に戻るだけだった。


いい加減話が煮詰まってきたところで、リナが机をバシッと叩いて声高に宣言した。



「いくらなんでも今すぐ店を増やすのは無茶よ。一旦状況が落ち着くのを待たないと。従業員たちも疲れ切ってるから、何か問題が起きないよう注意すべきね」


「まあ、妥当な話だな」


リナの提案を聞いて俺たちは頷く。


数ヶ月ほど金を貯めて、その間に人と土地を確保するってのが現実的な方針だ。


俺たちが提案を受け入れたのを見て、リナは頷いた後、畳み掛けるように別の話を持ち出してきた。



「慰労会でも開催しない?従業員全員を集めたやつを」


「慰労会?なんでまたそんなものを?」


俺はリナの意図が分からず、首を傾げた。


フレディやジョシュアも同じ面をしている。


こういう時の俺たちじゃリナの頭脳についていけねえ。



「まずは従業員のケア。この2ヶ月間、皆は必死で駆けずり回ってきたんだから、一度区切りをつけた方がいいわ。『やることはやったし、上手くもいった。次に向けてまた頑張ろう』って宣言するの。食事と称賛、愚痴でストレス解消もね。それと同時に関係者を集めて、今抱えてる課題を話すの」


リナの提案を聞いて、俺は「ははあ」と頷いた。



「飯食いながら会議するようなもんか」


「そういうこと。従業員たちには慰労会でも、兄貴たちは仕事目的だからね。食材問屋のトーマスさんを始めとして、お世話になってる人たちにもお礼を言って回らないと駄目。こういうところで手を抜くと後々尾を引くのよ」


「久々の酒だから仕事抜きで楽しみたいんだが...」


「お酒を飲むのは仕事が終わってからよ」



ささやかな俺の抵抗はリナにピシャリと叩き潰された。


俺はフレディとジョシュアに視線を送り、「お前らも何か言え」と圧をかける。


しかし、2人はあっさりと俺を裏切りやがった。



「妥当な話だろ。商人ギルドの関係者は絶対に呼べよ。融資と人材紹介を頼むのも忘れるな。出店できそうな建物も今の間に唾を付けとけ。山猫亭は街の目玉になりつつあるから、上手くやれば出資してくれるかもしれねえぞ」


「俺は酒飲める年じゃない。冒険者たちにお礼を言いたいから、コリンさんは絶対に呼んで欲しい。飼育小屋を増やすなら、今の内に話を通した方がいい」


裏切り者たちは「仕事優先だ」と目で訴えかけてきやがる。


この仕事中毒者共め!



「クソったれ。分かった、分かった。酒は後回しだ」


俺は理不尽な世界に絶望しつつ、天井を仰いだ。


俺が笑顔で酒を注いで回るのか?


そんなので喜ぶ奴がいるのかよ?


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