第73話 地獄ライブ開幕 ― 妲己、巻き込まれたのに主犯になる】
地獄大講堂が、朝から揺れている。
理由はカーマだ。
準備段階でもう三回爆発が起きている。
カーマ:「妲己ちゃ〜〜〜ん♡
ステージ、光らせていい? 全部♡」
妲己:「いいわけないでしょ♡
……いや、やろ♡
どうせ今日が最後だし♡ 地獄♡」
閻魔はステージ裏で書類を抱えていた。
地獄ライブ“無料”という狂気の企画は、
誰の許可もなく決まっている。
閻魔:「……妲己。
火気の扱いには一応、注意を……」
妊己:「はーい♡」
言いながら、すでに炎エフェクトのスイッチ入れた。
ステージ中央では、
カーマが信仰ポイント玉を無数に浮かべていた。
カーマ:「今日ぜ〜〜〜んぶ使っちゃうの♡
ほら見て♡ 余りもの全部♡
ステージ照明♡」
妲己:「残りは後ろの爆発ゾーンね♡」
ルシファー先輩は袖で書類を持ったまま、
いつもの困り顔。
ルシファー先輩:「……妲己。
頼むから……本番中だけでも……
爆発の数を……減らしてくれ……」
妲己:「ルシ♡
安心して?
爆発は全部“意味ある爆発”にするから♡」
ルシファー先輩:「……意味のある爆発とは……?」
妲己:「盛り上がる爆発♡」
ルシファー先輩:「……全然安心できない……」
客席はすでに満員だった。
現世の子供から鬼まで、理由不明の大混雑。
無料というだけでここまで膨れる地獄の経済感覚が怖い。
カーマがふわりと浮き、
ステージの中央へ軽やかに飛び出した。
カーマ:「はぁ〜〜い♡ 地獄〜〜〜♡
今日はぁ〜〜カーマちゃんの♡
愛と♡
恋と♡
とりあえず爆発ライブ♡
いくよ〜〜〜♡」
客席が揺れた。
振動ではなく、
“意味のない喜び”で揺れた。
妲己はステージ横で跳ねている。
妲己:「カーマ♡
ちょっと待って♡
あたしも出る♡
巻き込まれたんだから♡
どうせなら♡
主犯♡」
ルシファー先輩:「妲己、言葉の意味……分かって……」
妲己:「ルシ♡
今日は止め役なんていらないわ♡
観客に混ざりなよ♡
いやむしろステージ来い♡
うちらの巻き込み要員♡」
ルシファー先輩:「……巻き込まれる未来しか……」
妲己:「でしょ♡
だからこそ♡
来て♡」
カーマ:「ルシ先輩〜〜♡
“迷いの天使”枠で♡
ステージサイド♡
置いとくね♡」
ルシファー先輩:「……迷いの天使……?」
客席:「ルシ先輩ー! 出ろー!!」
妲己:「ほらルシ♡
大人気♡
逃げられないよ?♡」
ルシファー先輩は諦めたように歩き出す。
でも表情は、どこか柔らかい。
迷いの中に、楽しさが混じって見えた。
カーマはステージ中央で両手を広げる。
カーマ:「じゃあ♡
妲己ちゃん♡
いっくよぉ♡
地獄――
全力の♡
バッカ騒ぎライブ〜〜〜〜♡」
妲己:「乗った♡
あたしも♡
今日だけは♡
全部♡
楽しむ♡」
バッ!!
ステージの光が弾けた。
信仰ポイントの残り全部が
照明と爆発に変換されて飛び散る。
客席:「うおおおおおおお!!!」
妲己は跳ねた。
笑った。
全力で煽った。
巻き込まれたはずなのに、
完全に主犯だった。
ルシファー先輩も、
袖から少しだけ前に出てしまった。
客席から悲鳴のような歓声が起きる。
客席:「ルシ先輩ーー!!」
客席:「静かなのにかっこいいーー!!」
妲己:「ルシー♡
あんた今日はモテるよ♡
あたしのせい♡」
ルシファー先輩:「……妲己……
私は……本当に……
どうしてここに……」
妲己:「知らない♡
カーマのせい♡
巻き込まれたんだから♡
楽しんだほうが得でしょ♡」
カーマ:「じゃあ♡
最初の爆発いくよね〜〜〜♡」
妲己:「いこ♡」
ルシファー先輩:「……待て待て待て……」
どんっ!!!
地獄ライブが、本当に始まった。
ライブの最終爆発が夜空に広がった。
歓声と熱気がゆっくり落ち着いていく。
カーマはステージ中央でまだ跳ねているけど、
妲己だけは舞台袖へそっと降りた。
妲己は息を整えながら、
ライトの余熱の中でひとり笑っていた。
妲己:「ふふ♡
カーマと暴れたの、久しぶりね……
あー楽しかった♡
これで、あたしも満足♡」
その横に、静かに歩いてくる影。
ルシファー先輩だ。
照明の残光が彼の横顔を切り取り、
ステージとは違う、疲れと優しさの色を浮かべていた。
妲己は振り返らず、軽く笑う。
妲己:「ルーシー♡
……どうせ残るんでしょ?」
ルシファー先輩は一瞬だけ息を止めた。
妲己の声は、
いつもと同じ軽さなのに、
“全部分かってる”優しさが混ざっていた。
妲己:「天界より、地獄でしょ?
あんたはもう……
わかるんだから♡
うちの空気のほうが、向いてんのよ」
ルシファー先輩は否定しない。
しない代わりに、
ゆっくり視線を落として、
ほんの一言だけ漏らす。
ルシファー先輩:「……妲己。
お前こそ……
どうするつもりだ」
妲己:「あたし?
んー……
再建も終わったしー
燃やすものももうないし♡
やること終わっちゃったのよ、地獄」
妲己はくるりと小さく回る。
ライブの残り香と、光の残滓をまといながら。
妲己:「だからね?
月に行くの♡
月詠姉様のとこ。
前から行こうと思ってたし♡」
その言い方は、
“散歩ついで”くらいの軽さだった。
でもルシファー先輩の瞳は、
一瞬だけ揺れた。
妲己はその揺れに気付かない。
いや、気付かないふりをしているだけかもしれない。
妲己:「でね?
ここからが本題♡」
妲己はルシファー先輩の胸元を人差し指で軽く押した。
妲己:「今度は、ルシがあたしを追いかける番♡
毎晩見ておいで♡
空に浮かぶあたしのとこまで。
月から手、振ってあげるから♡」
ルシファー先輩が、
ほんの少しだけ息を吸う。
その目の奥に、
小さく光るものが滲んだ。
涙と言うには弱すぎて、
でも確かに、落ちる寸前の光。
妲己は気づかない。
妲己:「ほら。
ほらルシ♡
泣きそうな顔、似合わないわよ♡
いつもどおり静か〜〜に見送って♡」
ルシファー先輩:「……妲己。
お前は……
本当に……」
妲己は、胸の前で小さく手を合わせて
にこっと笑った。
妲己:「じゃあ……またねっ♡
愛しのルーシー♡」
その声は軽くて、
でも、残酷なくらい綺麗だった。
ルシファー先輩の頬を、
一粒だけ涙が落ちる。
妲己はまだ、気付かないまま
月へ向かう背中を想像して
嬉しそうに跳ねていた。
【仏門スレッド】
《地獄ライブの余韻と、月へ向かう影について》
――――――――――――――
舎利弗(スレ主)
今日の三界、乱れすぎ。
要点だけ置いとく。
・地獄ライブ、無料で解放
・妲己、満面の笑みで踊り散らす
・カーマ、信仰ポイントを“遊び道具”扱い
・観客、正気を保ってたのは三割
以上。
富楼那
妲己さん、あれで満足したっぽいね。
なんか…切り替わりの顔してた。
須菩提
空。
すべては空。
ライブも空。
無料も空。
ただしカーマのテンションだけは空を超えている。
阿那律(未来予測)
今夜の月、明らかに“誰かを迎える光”になってる。
現世の天気図にも出てた。
優波離(風紀)
ていうか、なに?
地獄ライブの帰り道で泣いてる天使見たって報告多くない?
阿難
……ああ。
ルシファー先輩、少しだけ目が赤かったらしいね。
理由は誰も知らないし、誰も聞かないけど。
富楼那
妲己さん、月行くのマジなんだ?
地獄の再建も終わったし“次の場所”行く雰囲気だったけど。
舎利弗
推測は禁止。
ただ、三界の空気は確かに変わりつつある。
須菩提
だから空だと。
推測しないのが空だと。
妄想は空ではない。
阿那律
でも、今日の地獄は笑ってたよ。
それでも、どこか…
薄い終わりの匂いはしてた。
優波離
やめろ、そういうの。
テンション下がる。
富楼那
下がったらライブもう一回やろうぜ?
カーマまだ余ってるポイント持ってるだろ絶対。
舎利弗
……はい解散。
本日のスレまとめ:
「地獄は元気。天界は静か。月が光っている。以上。」
摩訶(静寂担当)
……静寂に戻ろう。
ぬらりひょん
「……さて。地獄も天界もバタバタしておるが、現世のほうも変わり者が多いらしいのぅ。」
夜叉
「変わり者どころじゃないですよ、総大将。
“平日は他人、土日は家族”って家族、地獄にもいませんよ。」
ぬらりひょん
「おぬし、それはもう“現世の業”がにじみ出ておるな……。
まあ作者が次に書くらしい《週末家族。》という物語の話なんじゃが。」
夜叉
「あっ、それ知ってます。
お父さんは“年始3日から仕事だから、お年玉なしでセーフ!”って喜んで、
お姉さんは学費自腹で大学院、
お母さんは週末ごとに機嫌が変わる……あれ普通じゃないです。」
ぬらりひょん
「普通であってたまるか。
だが――“変な家族ほど、壊れそうで、愛おしい”。
現世の者らはそんな話が好きじゃろ?」
夜叉
「しかも幼馴染の女の子が一番ツッコむやつですよね。
『あんたの家族、やっぱ変。私こんな家いや!』って。」
ぬらりひょん
「ふふ。
地獄に落ちてくる魂たちも、だいたい同じこと言うておったわ。
“家族って難しい”とな。」
夜叉
「で、総大将。これは泣けるんですか? 笑えるんですか?」
ぬらりひょん
「どちらもじゃ。
作者いわく 『軽いのに刺さるやつ』 らしい。
まあ楽しみにしておくとよい。」
夜叉
「それじゃ地獄新聞としても載せておきます。
“土日だけ家族になる現世の怪異、近日公開”。」
ぬらりひょん
「怪異扱いするでない。……いや、怪異かもしれんな。」




