第8話 神様、広告代理店に転職する
「信仰が減った? なら増やせばいいじゃない。」
天界会議室。
金色の天蓋の下、重役たちが沈痛な顔で数字を見つめていた。
「信仰指数、先週比マイナス23パーセント。」
「若年層の祈り離れが止まりません。」
「供物課のボーナスカットも避けられないかと……」
創造神は立ち上がった。
神々の視線が一斉に集まる。
「諸君、問題は簡単だ。人は我々を忘れた。ならば――思い出させればいい。」
ルシファーが嫌な予感しかしない顔で呟いた。
「またスレ立てですか……?」
「違う。」
神様の眼がぎらりと光る。
「広告だ。」
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天界PR部、誕生
こうして天界に「信仰広告部」が設立された。
マアトが倫理監査担当、ルシファーが謝罪担当。
スローガンは「バズれば信仰は戻る」。
最初の広告案がこれだ。
『祈れば光る。信じれば燃える。#神活しよう。』
「……炎上確定ですね」とルシファー。
「炎上は神聖なる照明よ」と神様。
マアト「倫理的にアウトです。」
「倫理よりエンゲージメントだ。」
マアトのこめかみの血管が音を立てた。
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地獄との商談
「で、御社の広告枠、まだ空いてるかしら♡?」
地獄観光局の会議室。
妲己が笑顔で迎える。
閻魔はすでに頭を抱えていた。
「天界がスポンサーとか聞いてねぇぞ……」
「契約書には“光と愛のプロモーション”って書いてあったのよ♡」
「お前、それ絶対炎上案件だろ……」
神様は嬉しそうにパンフレットを広げた。
「今回は“地獄も天界もみんな友達キャンペーン”です!」
閻魔「内容が不穏だ。」
妲己「可愛いじゃない♡」
神様「地獄観光便に“聖なるマイル”を導入しました!」
閻魔「どこの航空会社だよ。」
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その頃、掲示板では
【速報】神、広告代理店を設立
1 名前:名無しの神 ID:god000
また始まったな。
2 名前:名無しの天使 ID:luci_444
今回、僕は謝罪しません。
3 名前:名無しの地獄民 ID:bee666
スポンサー料うめぇッス。
【新広告】#神活しよう がトレンド1位
→1時間後 #神燃えろ が2位に浮上
愛と光のキャンペーン
天界と地獄の共同企画――“愛と光のキャンペーン”がスタートした。
CMソングは観音プロデュースの癒し系。
ナレーションはルシファー(無理やり)。
だが、公開30分後。
コメント欄が地獄になった。
「照度オーバーで失明した」
「広告の最後の笑顔が怖い」
「信仰誘導ってステマじゃね?」
天界広報部、サーバーダウン。
地獄観光局、笑顔でアクセス解析中。
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「大成功ね♡」妲己が笑う。
「いや、これ大炎上だぞ!」閻魔。
「だって“愛と光”が燃えてるんだもの。」
「もう何言ってるかわからん!」
ルシファーが項垂れながら言った。
「神様、また謝罪動画を出しましょうか……」
神様は椅子をくるりと回し、モニターを指差した。
「見ろ。トレンド1位、“#祈れば光る”。」
「いや、“#祈れば焦げる”に変わってます。」
「誤字だ。愛嬌だ。」
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そして光が落ちた
その夜、天界がまた停電した。
光が強すぎて、電力が落ちたのだ。
ルシファーは懐中電灯を灯しながら呟く。
「神様、これが照明の奇跡ですか……?」
「そうだ。闇があれば、また光が求められる。」
「いや、闇作ってるの自分ですけどね。」
神様は少し笑って、椅子に背を預けた。
「――信仰ってのは、思い出させる努力だよ。どんな形でも。」
遠くの地獄の街に、妲己の看板が光っていた。
「#地獄も、信じれば輝く♡」
妲己「ねぇ神様、次は“地獄と天界の合同音楽祭”どう?」
神様「採用。タイトルは“神フェス2025”。」
ルシファー「やめてください。」
閻魔「俺もう無理。」
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次回予告
第9話「太公望、釣りから帰らず」
世界が騒がしくなる中、
一人の仙人が、静かに海を見ていた。
「――釣れたのは、神の未来だった。」




