第66話 三界、揺れすぎ問題。〜完璧の外側で笑う声〜
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◆三界同時ニュース・特別編
【地獄放送局/地獄ニュース24】
アナウンサー
「本日の地獄、観光客数、観測史上最大を更新しました。
妲己さんとカーマさんの“愛と炎上フェス♡”により、地獄行き希望者が爆増している模様です」
背後では、炎の中でライブステージが光っている。
妲己がマイクを回し、カーマがハート形の光を飛ばしている。
妲己
「みんな〜♡ 生きてても死んでても、愛は平等よ〜♡
はい、推しの地獄に清き一票♡」
【現世ニュース/夕方ワイド】
キャスター
「“神様って実在するのか?”特集が、視聴率40%を突破しました。
スタジオには、謎のプリンスと、現世代表の二人組も……」
プリンスたま
「うん、神様ね、いるよ。
いるし、めちゃくちゃポンコツで、でも誰より楽しい人だよ」
ひかるん
「……テレビでそれ言う? 炎上するぞ普通」
あかり
「でも……なんか、信じたくなる言い方ですね」
【天界放送局/臨時枠】
キャスター
「天界使節団の派遣以降、三界の動きは激しくなっています。
天界は引き続き“観測と調整”を続けると発表しましたが――」
画面の端に、ゼウス・太上老君・アポロンの後ろ姿が一瞬だけ映る。
そのシルエットには、微かな緊張が走っていた。
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◆会話パート:三界、それぞれの“揺れ”
◇地獄サイド/ステージ裏
ステージの熱気が、まだ壁を震わせている。
妲己がペットボトルの水を飲みながら、モニターを眺めた。
妲己
「ふふ、すごいわねぇ。
“神様復活希望”と、“神様いらない”のアンケート、どっちもバズってるじゃないの」
カーマ
「両方トレンド入りって、さすがだね。
好きも嫌いも、ちゃんと“向ける先”があるってことだよ」
閻魔
「……だが、向けすぎておる。
地獄側の信仰グラフ、振り切れて表示ミスを起こしておるぞ」
ルシファー先輩
「す、すみません……地獄観光便の予約も、キャパを超えてしまいまして……!」
妲己
「いいのよ先輩♡ 混んでる地獄って、それだけ“生きてる”証拠でしょ?」
閻魔
「問題はな、“天界の管理システム”のほうだ。
三界の数字が、同時に跳ねすぎておる」
カーマ
「……神様のいない空席に、みんな一斉に感情投げてる感じ。
ちょっと危ない匂いはするね」
妲己
「だからこそ、やるのよ♡
完璧とか正しさじゃなくて、“このカオスこそ神様が好きそう”って思わせるの」
閻魔
「……お前は、本当にブレぬな」
妲己
「当たり前でしょ♡ 私は私のやり方で、あの人を待つのよ」
◇現世サイド/夜の公園
ベンチに座って、自販機のあったかい缶コーヒーを手に、
ひかるんとあかりとプリンスたまが空を見上げている。
ひかるん
「……SNS、地獄も天界も現世もごっちゃになってんだけど。
どれが本物でどれが釣りなのか、もうわかんねぇな」
あかり
「“神様見たことある人スレ”とか、“神様にフラれた人の会”とか……
なんか、全部ほんとのような、冗談みたいな……」
プリンスたま
「でもさ、どれも“神様の話をしたい人たち”なんだよね。
信じるとか信じないとかよりも、ただ、話したい」
ひかるん
「……完璧で正しい神様像じゃなくて?」
プリンスたま
「うん。
“ちょっとポンコツで、でもそばにいて笑ってる神様”のほうが、たぶんみんな好きなんだよ」
あかり
「……それ、なんか、わかる気がします」
ひかるん
「完璧三神の世界、“すげー”とは思ったけどさ。
……正直、ちょっと息が詰まったんだよな」
プリンスたま
「それ、ちゃんと言ってあげなよ。
“あの人”にさ」
ひかるん
「……見えないのに、どうやって」
あかり
「見えなくても、届くんじゃないですか?
ずっと、そうやって祈ってきたわけですし」
プリンスたま
「そうそう。完璧の外側で揺れてる声のほうが、案外、届いたりするんだよ」
ひかるん
「……そうかねぇ?」
あかり
「……届くと、いいですね」
◇天界サイド/管制室
天界管制室。
三界から流れ込む“信仰・感情・祈り”のデータが、壁一面のスクリーンに波として表示されている。
セラヒム
「……乱れすぎて、形になりません……!」
マアト
「秩序の天秤にかけようとしても、メモリが振り切れますね。
“善悪”とか“正誤”では測れない揺れです」
ラー
「地獄のフェスと、現世の布教番組と、天界の使節団ニュースが同時トレンド入り……
そりゃ揺れるよなぁ」
天照
「……でも、“揺れている”ということは、
まだ“あきらめていない”ということでもある」
セラヒム
「天照さま……?」
天照
「神様を信じたい人も、信じたくない人も。
“完璧な世界にされるのは嫌だ”って思う人も。
全部、まだこの世界を捨ててない」
マアト
「……それを、三神がどう受け取るか、ですね」
ラー
「嫌な予感しかしないけどな」
天照は少しだけ目を伏せた。
その表情には、わずかな痛みと、静かな決意が混ざっていた。
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◆裏会話:三神会議室
重い扉が、静かに閉じられる。
ゼウス
「……見たな、数字を」
太上老君
「うむ。
三界の揺らぎ、もはや“管理の範囲外”じゃ」
アポロン
「音楽に例えるなら、完全に調律が狂っている。
コードもリズムもバラバラだ」
ゼウス
「これは、誰のせいだ?」
しばし沈黙。
すぐに、誰か一人の名を挙げることはできなかった。
太上老君
「妲己とカーマの動きは、予定通りといえば予定通り。
プリンスたまも、“揺らぎ”を広げる役目として想定内。
天照達の行動も、必要な範囲内じゃ」
アポロン
「問題は、“想定以上に三界の民が楽しんでいる”ことだ。
完璧な秩序への回帰ではなく、“揺らぎそのもの”を好んでいる」
ゼウス
「……つまり、“我らの理想と違う方向”で盛り上がっている、と」
太上老君
「それを簡単に言うなら、そうじゃな」
アポロン
「このまま神様が戻れば、どうなる?」
ゼウス
「……あの男は、揺らぎを喜ぶ」
太上老君
「三界を歩きながら、笑って許してしまうじゃろうな。“今のままでええ”と」
アポロン
「それでは、“完璧”は二度と戻らない。
我らが積み上げてきた理想と、矛盾する」
ゼウスの指が、テーブルをコツ、と叩いた。
雷が鳴る直前のような、小さな震えだった。
ゼウス
「……揺れを“敵”と決めつけるつもりはない。
だが、“このまま放置すれば、完璧は遠のく”」
太上老君
「完璧を捨てるか、揺れを制御するか。
どちらかを選ばねばならん段階に来た、ということじゃ」
アポロン
「選ばなければ、“世界のほうが勝手に選ぶ”」
ゼウス
「……それだけは、避けねばならぬ」
三人の沈黙の中、扉の隙間から、
誰かの気配がそっと覗いていた。
太公望(小さく独り言のように)
「“揺れ”は道を示す。
……さて、お主らがどの道を選ぶか、か」
その声には、責める響きはなかった。
ただ、静かな観察者の音だけがあった。
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◆スレまとめ:三界まぜこぜスレ監視室
【三界クロスオーバースレ】
《完璧神々の世界、ほんとに“正解”だったのか問題》
1:名無しさん(現世)
なんかさ、最近“神様ネタ”増えすぎじゃない?
5:名無しさん(地獄)
地獄観光、楽しいよ。
でも、前の“ゆるいカオス”のほうが好きだったかも
12:名無しさん(天界)
天界使節団、マジで動いてる。
天照さま、本気の顔してた
30:名無しさん(現世)
プリンスって人の言う“神様”、ちょっと会ってみたいんだけど
45:名無しさん(仏門)
揺れてるなあ、みんな
(※いつものテンション)
60:名無しさん(地獄)
完璧三神も嫌いじゃないけど、
“あのポンコツ神様”のほうがなんか安心するのわかる奴いる?
72:名無しさん(現世)
いる
73:名無しさん(現世)
“いなくなって初めてわかるやつ”じゃんそれ
88:名無しさん(天界)
でも、そのせいで世界めちゃくちゃになってるのも事実だぞ
101:名無しさん(現世)
めちゃくちゃの中で笑ってたのが、あの神様じゃん
150:名無しさん(?)
……見えないだけで、いるよ
151:名無しさん(現世)
今の誰?
152:名無しさん(地獄)
ID見えねえ
153:名無しさん(天界)
“見えない”って、やっぱ一番こえーな
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◆ぬらり&夜叉締め
夜。
三界をまたぐように、静かな風が流れる。
その風の淀みに、ぬらりひょんの影がゆらりと浮かんだ。
隣に夜叉。
二人とも、遠くの雷の気配を眺めている。
ぬらり
「……揺れとるのう。
三界ぜんぶ、よう揺れとる」
夜叉
「完璧の外側で、人も神も笑っています。
泣きそうになりながら」
ぬらり
「ほっほ。
それを“良し”と言うか、“駄目”と言うか。
そこが分かれ道じゃな」
夜叉
「三神は、“揺れ”を恐れています。
完璧が遠のくことを」
ぬらり
「じゃが、揺れがおらねば“再会”もない。
静まり返った世界では、誰も“会いたい”と思わんからの」
夜叉
「……時は、進みましたね」
ぬらり
「進んだのう。
もうすぐ、“呼ばずにはいられなくなる”」
夜叉
「“誰を”、でしょう」
ぬらり
「決まっとるじゃろ。
この騒ぎの、いちばんの元凶じゃ」
遠くで、どこかの誰かの笑い声が、
ほんの一瞬だけ、かすかに聞こえた気がした。
ぬらり
「さ、次じゃ次。
三神の顔が、どんなふうに歪むか……見物じゃ」
夜叉
「……揺れの先に、何を見るか。
我らも、見届けましょう」
二人の影が、静かに闇へ




