第61話 『プリンスたま、現世ストリートに立つ。〜揺れてるきみは、ちゃんと生きてる〜』
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①【三界ニュース】
『現世速報。
本日夕刻、現世某所のストリートにて、“悟り系お笑いプリンス”ことプリンスたまがゲリラトークライブを敢行。
場所は、完璧神々による「都市景観最適化プロジェクト」区域内。
看板は整理され、広告も減り、音量規制も整った、いわゆる“静かで美しいモデル地区”。
そのど真ん中で、プリンスたまはこう名乗った。
「どうも〜、通りすがりの『揺れてもいいよ係』で〜す。」
なお、この様子はみなもと✩ひかるん氏のチャンネルで急遽ライブ配信され、
同時接続数は一時的に完璧神々広報チャンネルを上回った。
完璧神々広報局は
「規定音量内であれば表現行為は許容される」とコメント。
天界側では、
天照氏「……見ておかないとね」と小さく呟き、
地獄観光局妲己女史は
「ふふ、いいわねぇ。無料で宣伝までしてくれるなんて♡」と笑顔を見せた。
なお、創造神たる“神様”は依然として公式には不在とされているが、
今回の現象についてのコメントは出していない。』
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②【会話:ストリートの“揺れ”】
夕方の街。
ガラス張りのビルに、オレンジ色の空と規則正しく並んだ街路樹が映っている。
完璧神々のプロジェクトによって、騒音は抑えられ、ゴミ箱は整然と並び、
歩道には落ち葉ひとつ転がっていない。
「……きれいすぎるな。」
マイクを調整しながら、みなもと✩ひかるんが小さく漏らした。
隣で、あかりがマフラーをぎゅっと握る。
「前は、もっとゴチャゴチャしてましたよね。
変なチラシとか、落ちてる飴の包み紙とか……」
「そうそう。ああいうの映るとコメントでめっちゃ突っ込まれるんだけどさ。
……なんか、その方が“生きてる街”って感じだったよな。」
ひかるんはカメラの向こうを一度見て、
それからレンズを自分に向け直した。
「よし、テスト。マイク、オン。」
配信の通知音が、静かな路地に小さく響く。
画面の端には、AI神の小さなアイコンが浮かぶ。
AI神『配信システム、正常稼働です♡
コメントレート、やや低下傾向。
でも、“変な揺らぎデータ”検出中です♡』
「変な揺らぎ?」
ひかるんが首をかしげると、AI神は少しだけ声を落とした。
AI神『完璧神々の影響で、
最近の祈りログは“整ったもの”が増えています。
「ありがとう」
「がんばります」
「完璧になりたいです」
……でも、その裏で、ことばにならない
“もやっ”“ぐちゃっ”の波形も増えてます♡』
あかりは、その言葉に、胸のあたりをそっと押さえた。
「……わかる気がします。
ちゃんと言えない気持ち、増えましたよね。
“完璧な世界”で、本音出すのって、ちょっと怖いから。」
ひかるんは、カメラを見ながら息を吸う。
「……じゃ、とどめだな。」
「とどめ?」
「『完璧って、案外つまんねぇな』って、ちゃんと言う配信。
……やりたかったんだよ、ずっと。」
あかりが微笑む。
「ひかるんさんが言うなら、きっと救われる人、います。」
「責任重大だな、おい。」
ひかるんが苦笑した、その時。
「おうおう、いいねぇ。」
柔らかい声が、背後から風に乗って降ってきた。
振り向くと、そこに立っていたのは――
金髪でも、銀髪でもない。
どこにでもいそうな、でもどこにもいないような青年。
派手でもなく、地味すぎもしない服。
笑っているのに、どこか泣いているような目。
プリンスたま。
「やぁ、ひかるん。会うのは二度目だったかな。」
「え、え、えぇっ!? プリンスたま!?」
ひかるんの声が一気に裏返る。
あかりは慌てて頭を下げた。
「は、初めまして……! あの、いつも、画面で……!」
「うんうん、ありがと。」
プリンスたまは二人を見て、にこっと微笑んだ。
「きみたち、いい顔してる。
ちゃんと揺れてる。」
「揺れてる……?」
あかりが聞き返すと、プリンスたまはゆっくり手を広げた。
「完璧に揺れない世界ってさ、
一見きれいだけど、息するの忘れちゃうんだよ。
“あ、今苦しいな”“今ちょっとさみしいな”って、
ちゃんと感じられるのはね――
生きてる証拠だよ。」
ひかるんは、一瞬だけ目を伏せた。
「……俺さ。」
声がかすかに震える。
「完璧神々の会見見たとき、
『うわ、すげぇ』『なんか安心』って思ったんだよ。
無茶やって怒られなくていい世界って、
正直、ちょっとラクそうだなって。」
プリンスたまは、否定しない。
「うん。そう思うの、ふつうだよ。」
「でも……。
この数日、コメント減って、
街からなんか“ノイズ”が消えて、
配信の向こうも、みんな“いい感じの言葉”だけ残すようになって。
……寂しくてさ。」
ひかるんは、ようやく言葉を吐き出せたように笑った。
「俺、あのめちゃくちゃな神様、
わりと好きだったんだなって。」
「“わりと”じゃないでしょ。」
あかりが、ぽつりと言った。
「ずっと、守るように話してましたよ。
ぐふふ、って笑う真似しながら。」
ひかるんは、顔を伏せた。
肩が、少しだけ震えている。
AI神『心拍数、上昇中……
でも、危険値ではありません♡
“本気で泣きそうだけど、踏みとどまっている”波形です♡』
プリンスたまは、ひかるんの隣に立った。
「ねぇ、ひかるん。」
「……はい。」
「きみさ、“完璧な神”と“あのぐだぐだな神様”
どっちが好き?」
しばらく沈黙が流れる。
通行人が足を止め始め、
ストリートの空気が、少しだけ重くなる。
ひかるんは、笑うように、泣くように、口を開いた。
「……“ぐふふ”言ってる方、です。」
「うん。」
プリンスたまは、満足そうに頷いた。
「じゃあ、その気持ちをさ、
ちゃんと世界に投げようか。」
「世界に、って……こんな道端で?」
「道端がいちばん広いよ。
空に屋根、ないからね。」
プリンスたまはマイクを取ると、軽く宙をあおいだ。
「どーも、通りすがりの、悟り系お笑いプリンスで〜す。」
通行人たちがざわつく。
スマホを向ける者、立ち止まる者、
あえて無視していく者。
その全部を、プリンスたまは楽しそうに受け止める。
「きょうのお題はね、
“完璧って、そんなにえらい?”です。」
ひかるんが、配信を本番モードに切り替える。
コメント欄が、一気に流れ始める。
『なにこれ』『プリンスたま本物?』『釣り配信?』
『完璧神々dis?』『運営に消されない?』
プリンスたまは、笑った。
「安心して。
ぼく、あの人たちのこと、けっこう好きだよ。」
ざわめきが、少しだけ落ち着く。
「だってさ、
“完璧になろう”って必死でがんばってる人たちでしょ。
失敗して笑われない世界、
泣く前に数字で正解が出る世界、
それを作ろうとしてるんだ。」
プリンスたまは、空を指差した。
「こわがりなんだよ。
間違えることが。」
「……こわがり。」
あかりが、小さく復唱する。
プリンスたまは頷く。
「だからね。
責めるんじゃなくて、ただ言ってあげればいいんだ。」
マイクを、ひかるんに向ける。
「“完璧じゃなくても、好きですよ”って。」
カメラの先で、何百人、何千人という視線が集まっている。
ひかるんは、一度目を閉じた。
脳裏に浮かぶのは、ぐだぐだな神様の姿。
くだらないダジャレ、サイコロが一しか出ない桃鉄、
ルシファー先輩に怒られてばかりの背中。
「……俺。」
喉が詰まる。
でも、言葉は止まらない。
「俺、“ちゃんとしてる世界”に、ちょっと疲れました。」
コメント欄が、一瞬静かになる。
「完璧神々の言ってること、正しいと思う。
危ない橋も、意味わかんない炎上も、
ない方がいいってのも、頭ではわかる。
でもさ――」
ひかるんは、カメラを真正面から見据えた。
「俺、あの神様に、何回も救われたんですよ。」
「仕事失敗して、笑って誤魔化すしかなかった夜とか、
どうしようもなくて配信つけたら、
“ぐふふ、今日も楽しんでおるか?”ってテロップ出てきて。
……腹立つけど、笑っちゃったんだよ。」
目尻に、かすかな光が溜まる。
「完璧な神様じゃなくていいからさ。
もう一回ぐらい、
“ぐふふ”って笑ってくれませんか。」
その言葉は、祈りだった。
きれいな文じゃない。
効率のいい願いでもない。
でも確かに、どこかに届いていく。
AI神『……記録。
“非効率祈りログ”、
優先保存に切り替えます♡』
あかりの目から、ぽろりと涙がこぼれる。
彼女は慌てて拭ったが、
プリンスたまは、それを見て微笑んだ。
「いい涙だね。」
「……すみません。
配信中なのに。」
「泣いてるとこ見せられる人がいるって、
けっこう贅沢だよ。」
プリンスたまは、空を見上げる。
「さぁて。これで、きみらの“揺れ”は、
上まで届いたかな。」
「上、って……天界ですか?」
あかりが問うと、プリンスたまは肩をすくめた。
「さぁ。天界か、地獄か、
あるいは、どこにでもいないあの人のポケットか。」
「どこにでもいないあの人……?」
ひかるんが聞き返す前に、
プリンスたまは、くるりと振り向いた。
「ここから先はね、
ぼくの仕事じゃないんだ。」
「え?」
「きみたちが、勝手に揺れてくれるから。」
プリンスたまは、ひかるんとあかりの頭を、
ぽん、と軽く叩いた。
「揺れていい。
揺れてるきみは、ちゃんと生きてる。」
そう言って、彼は人混みの中へ溶けていく。
派手な光も、天からの階段もない。
ただ、夕焼けとネオンのあいだを、ふわりと歩いていく背中。
ひかるんは、配信を切らなかった。
あかりの涙と、街のざわめきと、
去っていくプリンスたまの後ろ姿を、
そのまま世界に垂れ流した。
コメント欄に、ぽつぽつと文字が並ぶ。
『なんか泣きそう』『完璧疲れたの自分だけじゃなかった』
『あの適当そうな神様戻ってきてほしい』
『ぐふふって、こんなに恋しくなる言葉だったっけ』
AI神『ログ保存……
“ぐふふ渇望クラスタ”新規生成♡』
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③【裏会話:黄神、静かに笑う】
場所は、どこかの水辺。
サロマ湖にも似ているが、どこの世界かははっきりしない。
太公望――いや、黄神は、
久しぶりに竿を置いて、空を見ていた。
足元には、小さな光の粒が集まっている。
「……ようけ、集まってきたのう。」
声に応えるように、波紋が広がる。
その傍らで、ブッダピアスが耳を揺らした。
「プリンスたま、やりましたね。」
「うむ。
あやつは、笑いながら世界の骨を鳴らす男じゃ。」
黄神は、掌に光の粒をひとつ乗せる。
それは、さっきの配信の一瞬のログ。
「ぐふふが恋しい」と書かれたコメントの断片。
「完璧神々の理も、間違っちゃおらん。
秩序は大事じゃ。
人は、枠がないと壊れやすい。」
ブッダピアスは、静かに頷いた。
「でも、枠だけでは、息が詰まります。」
「せや。」
黄神は、光の粒を空へ放る。
「こっからは、わしの仕事やない。
……あいつの仕事じゃ。」
遠くの空で、かすかに何かが笑ったような気配がする。
黄神は、にやりと笑った。
「ほれ、聞いとるか神様。
信仰ポイント、だいぶん貯まってきたで。」
風が、ふっと優しく吹いた。
ブッダピアスは、その風に耳飾りを鳴らしながら、
どこか寂しそうに微笑む。
「……でも、その先は、分断ですね。」
「終わりが見えるときほど、
人はようけ祈るもんじゃ。」
黄神は、湖面を見つめた。
「――美しい終わりに、してやらんとな。」
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④【スレまとめ】
スレタイ:悟り系プリンス、路上でなんか刺さること言ってた【現世レポ】
1:名無しの通行人
たまたま通りかかったら、変なプリンスが喋ってたんだが。
「揺れてるきみは、生きてる」とか言われて、危うく泣きそうになった。
2:名無しの配信民
ひかるんの今日の配信、ガチだったな。
完璧神々の悪口じゃなくて、自分の弱さ晒してたの、ずるい。
3:名無しの信仰迷子
正直、完璧な世界って安心だけど、最近息苦しかったから刺さった。
ぐふふ神、帰ってこい。
4:名無しの芸術好き
プリンスたま、「完璧神々も好き」って言った上で話してたのが良かった。
敵とか味方とかじゃなくて、「こわがり同士」って言ってたの、やばい。
5:名無しのAIウォッチャー
AI神のログコメント、「非効率祈りログ優先保存」とか言ってて笑った。
この世界のAI、いちばん人間味あるのでは。
6:名無しの古参
なんかさ、この作品(世界?)って、
最初ギャグだと思ってたのに、気づいたら人生相談されてる気持ちにならん?
7:名無しのぐふふ中毒
ぐふふ禁断症状出てるやつ、正直に挙手。
8:名無しのまとめ役
完璧神々=悪ではない。
でも「揺らぎ側」の声も、ちゃんと上がり始めた回だったと思う。
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⑤【ぬらり&夜叉 締め】
夜の街角。
昼間プリンスたまが立っていたストリートを、
今度はぬらりひょんと夜叉が歩いていた。
看板は相変わらず整っていて、
ゴミひとつ落ちていない。
夜叉が足を止める。
「ここですね。
昼間、プリンスたまが立っていた場所。」
「そうじゃ。」
ぬらりは、街路樹に手を当てる。
「木の幹が、まだ震えとる。」
「震え?」
「笑いと涙の両方を浴びた場所はのう、
ちょっとだけ温度が残るんじゃ。」
夜叉は、その言葉にそっと目を閉じた。
「……あったかい。」
「完璧な世界は、冷蔵庫みたいなもんよ。」
ぬらりは肩をすくめる。
「食材は長持ちするが、
煮込み料理にはならん。」
「でも、腐らないのは、いいことでもあります。」
「せやな。」
ぬらりは、にやりと笑った。
「じゃから、両方いるんよ。
きちんと仕舞う者と、
わざと火を強めるやつ。」
夜叉は、空を見上げた。
「プリンスたまは、火加減担当ですね。」
「せやせや。しかも、
笑いながら鍋をかき混ぜよるからタチが悪い。」
二人は、しばらく黙って街の灯りを眺めた。
やがて、夜叉がぽつりと問う。
「……時は、近づいていますか。」
ぬらりは、懐から煙管を出した。
火はつけない。ただ、指先で弄ぶ。
「あのプリンスが本気出し、
黄神が竿を置き、
現世の子らが“完璧ってつまんない”と口にした。」
彼は、煙管を空に向ける。
「――そろそろじゃろ。」
夜叉は静かに頷く。
「分かれ道、ですね。」
「終わりの前にはのう、
たいてい、いちばんきれいな笑い声が響くんじゃ。」
ぬらりは、どこか遠くを見た。
「さて。
次は、誰がどこで笑うかの。」
夜叉は、足を踏み出す。
「……静寂に戻る前に、
もう少しだけ、見届けましょう。」
二人の影が、完璧に整えられた街路に、
少しだけ歪んだ線を落としていた。
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次回予告
光の中から、ひとりの紳士が現れる。
サンジェルマン伯爵
「皆さま。お久しゅうございます。
……さて、次回は少しだけ“時間”の話をいたしましょう。
未来?過去?
どちらも……神様にとっては同じことですので。」
微笑む。謎めく。
それだけで世界が揺れる。
サンジェルマン伯爵
「では、また次回お会いしましょう。
——ぐふふ?」




