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神々、掲示板に降臨す 〜天界勤務中、うちの神、業務中にスレ立ててる件〜  作者: 物書狸。
最終章:祈りの終わる場所で

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第59話『妲己とプリンスたま、大暴れの序曲』

①【三界速報ニュース・地獄特別号外】


『三界臨時ニュース。


完璧神々による「三界信仰再編プログラム」移行から数日。

天界は残業申請が減り、地獄はクレームが減り、現世は炎上が減り――

世界は、静かで、整っていて、そして少しだけ“退屈”になった。


そんな中。


本日、地獄観光局前にて、

妲己・カーマ・プリンスたまによる共同プロジェクト


「ゆらぎを返せ作戦(仮)」


がゲリラ的にスタートした模様。


主な行動は以下の通り。


・妲己女史

 「完璧に疲れた現世民専用・抱っこ券♡」を無料配布。

 ※使用条件:「失敗した夜に限る」。


・カーマ氏

 「不完全すぎる愛のカレー」を炊き出し。

 味は日替わり、分量も日替わり、辛さは気分次第。


・プリンスたま

 天界と地獄の境界付近で、

 「笑っても泣いても悟りじゃないけど救われるトークショー」を無許可開催。


なお、完璧神々サイドは現時点で沈黙を貫いており、

天界広報は「状況を注視中」、地獄新聞編集部は「おいしい」とコメント。


現世では人気配信者・みなもと✩ひかるん氏が、

「なんか……胸んとこだけ、完璧になりきれねぇんだよな」と配信内で発言。


新たな“揺らぎ”が、静かな世界に広がりつつある。』



②【会話:妲己・カーマ・プリンスたま/現世リンク】


地獄観光局前は、ちょっとした縁日のようになっていた。

屋台、光の看板、謎の行列。

その真ん中で、妲己が両腕を広げる。


妲己

「さー、並んで並んで。

失敗した夜、笑いながら泣いた人だけ、ここに来なさい♡」


現世から遊びに来た観光客が、おそるおそる手を挙げる。


現世の女の子

「えっと……昨日、告白してフラれました……」


妲己

「はい一枚。『フラれたけど生きてる抱っこ券♡』。」


女の子

「名前、長っ。」


妲己

「長くていいのよ。

短くまとめられない夜も、世界には必要なんだから。」


隣では、カーマが黙々とカレーをよそっている。


カーマ

「本日は、“焦がしすぎたけどおいしい気もするカレー”です。」


現世のおじさん

「焦がしたのかよ。」


カーマ

「はい。焦がしました。

でも、悪くないですよ。

人生も、ちょっと焦げてから深みが出ること、ありますから。」


おじさんは一口食べて、しばらく黙って、笑った。


おじさん

「……うん。

なんか、若いころの夜勤の味がする。」


カーマ

「それはきっと、救いです。」


妲己がにやりと笑う。


妲己

「ほらね。

完璧に美味しいものだけが、生きててよかった味じゃないの♡」


その少し離れたところ。

境界線ギリギリの高台で、プリンスたまがしゃべり倒していた。


プリンスたま

「はい、じゃあ質問〜〜。

“完璧になったら幸せになれる”って、本気で思ってる人〜?」


数人の天界職員が、申し訳なさそうに手を挙げる。

数人の現世民も、なんとなくつられて手を挙げる。


プリンスたま

「うんうん、ありがとう。

じゃあ次の質問。

“完璧になれなかった夜に、自分を責めたことある人〜?”」


今度は、ほとんどの手が上がった。


プリンスたま

「はい、それ。

それが今日のテーマで〜す。」


彼は、あっけらかんと笑う。


プリンスたま

「完璧ってさ、

“ミスしない”って意味じゃないと思うんだよね。

“ミスしても捨てられない”ってことじゃない?」


ざわ、と空気が揺れた。


天界職員のひとり

「……でも、三神様は秩序を……」


プリンスたま

「秩序、いいじゃん。

時計もダイヤルも、きちんと動いてる方がきれいだし。

たださ――」


彼は、地獄側の喧騒に視線を送る。

泣き笑いしながら抱きしめられている人たち。

焦げたカレーを「うまい」と言っている人たち。


プリンスたま

「“遅れた時計”の時間を、誰が見てあげるのって話だよ。」


沈黙が落ちたところへ、ひょこっと通信。


AI神

「解析結果♡

“遅れた時計を笑い飛ばす”行為、

被験者の自己否定スコアを有意に下げています♡」


プリンスたま

「ほら。

AIが言うなら間違いない。」


天界職員

「その信頼の仕方、間違ってませんか。」



その頃、現世。


ひかるんは、配信ブースの椅子に浅く座り、画面を見つめていた。

コメント欄は、以前より静かだ。

荒れもしないし、荒らせもしない。

あいさつと、スタンプ。

礼儀正しすぎる世界。


ひかるん

「……なぁ、あかり。」


あかり

「はい。」


ひかるん

「俺さ。

“荒れてる方がよかった”って言いたいわけじゃねぇけどさ。」


一度言葉を切る。

自分の口から出る音を、ちゃんと選びたかった。


ひかるん

「完璧って、案外つまんねぇな。」


あかりは少しだけ、目を伏せる。


あかり

「……わかる気がします。

静かなのは、悪くないんです。

でも……前より、寒い気がして。」


AI神のモニターに、小さな波形が揺れる。


AI神

「現世配信空間の“ゆらぎ指数”、確かに低下しています♡

でも、苦しみ指数も低下しているので……

“良いこと”と判定されます♡」


ひかるん

「だろうな。

数字で見りゃ、そうなんだろうな。」


あかり

「でも……

“良いこと”だけじゃ、息が続かない夜もありますよね。」


ひかるんは思わず笑う。


ひかるん

「お前、たまに核心刺してくるよな。」


あかり

「すみません。」


ひかるん

「謝んな。

いい意味で言ってる。」


彼は一度、配信ボタンに触れかけてから、手を引っ込めた。


ひかるん

「……なぁ、行ってみるか。」


あかり

「地獄、ですか?」


ひかるん

「揺らぎ、まだ残ってるなら。

どんな顔して揺れてるか、この目で見ときてぇ。」


AI神

「推奨します♡

現在、地獄観光局前にて“揺らぎ暴走イベント”が発生中♡

解析のしがいがあります♡」


あかりはくすっと笑った。


あかり

「じゃあ、行きましょう。

“揺れてる世界”が、まだ好きだって確かめに。」


ひかるん

「……そういうの、タイトルにしてぇな。」



③【裏会話:黄神と完璧神々/見えないところで】


地獄と天界と現世が、細い線でつながるその中空。

誰も気づかない高さで、黄神は釣り竿を肩に担ぎながら、世界を見下ろしていた。


太公望――いや、今は黄神と呼ぶべき男。


黄神

「ほれ見い。

揺らぎ、勝手に増えよる。」


背後に、雷のような気配。

ゼウスが腕を組んで立っていた。


ゼウス

「黄神。

お前は、やはり静観するつもりか。」


黄神

「静観いうたら聞こえはええがの。

ただ、面白い方に賭けとるだけじゃ。」


太上老君も姿を現す。

手には、いつもの巻物。


太上老君

「完璧モデルに対する誤差が、再び広がっておる。

妲己、カーマ、あの道化。

そして、灯りをもろうた少女と現世の配信者。

黄神、お主の狙いはそこか。」


黄神はニヤリともせず、ただ淡々と答える。


黄神

「狙いなんぞ、大したもんはないわい。

ただの好みじゃ。

完璧に揃った将棋盤より、

一枚どこかに転がっとる駒がある方が、わしは好きなだけよ。」


アポロンが、少しだけ楽しそうに笑う。


アポロン

「やっぱり、そういうとこ、嫌いじゃないな。

でも僕らは“盤面を整える役”だからね。」


ゼウス

「誤解するな、黄神。

我らは揺らぎを否定しているわけではない。

ただ、揺らぎに呑まれて潰れる魂を減らしたいだけだ。」


黄神

「知っとるよ。

お主らの“正しさ”も、ちゃんとわかっとる。

だからこそ、おもしろいんじゃ。」


太上老君

「どこがだ。」


黄神

「完璧な神々が、揺らぎを嫌い切れんところが、じゃ。」


三人は一瞬黙った。


アポロン

「……あの現世の配信者、ひかるん、だったか。

彼の“間の取り方”は、悪くない。

完璧な光の中に住ませておくには、惜しい気もする。」


ゼウス

「情を挟むな、アポロン。」


アポロン

「芸術なんて、情の塊だろう?」


太上老君

「……討論はまた今度にしよう。

黄神、ひとつだけ確認しておく。」


黄神

「なんじゃ。」


太上老君

「創造神が姿を消したこの隙に、

お主は三界をどこへ持っていくつもりだ。」


黄神は、遠くの地獄の喧騒を見つめる。

妲己が笑い、プリンスたまが叫び、カーマが静かに肯き、

その影で、ひかるんとあかりがこちらへ歩き始めている。


黄神

「どこにも持っていかんよ。

ただ――」


少しだけ、目を細めた。


黄神

「“自分で選ばせる”だけじゃ。

完璧な光の中に立つか、揺れながら笑うか。

どっちが正しいかは、わしには決められん。」


ゼウス

「……それは、創造神の役目だ。」


黄神

「そうじゃな。

あやつは、まだどこかで“ぐふふ”言うとろう。」



④【スレまとめ:揺らぎ暴走隊について語るスレ】


スレタイ:

【ゆらぎ速報】妲己とプリンスたま、マジで大暴れし始めた件【完璧神々どうする】


1:名無しの地獄民

 地獄観光局前カオスすぎる。

 抱っこ券配って、泣き笑いしてる現世民で通路詰まってる。


2:名無しの現世観光客

 焦がしカレー食べた。

 うまいかどうかよくわからんけど、なんか泣きそうになった。ずるい。


3:名無しの天界職員

 プリンスたまの「遅れた時計の時間を誰が見るか」の話、

 風紀的にアウトだけど、心にはセーフ。


4:名無しのAIログ読み

 AI神の解析コメント、地味にグサグサくる。

 “非効率な祈り=生存ログ”って言葉、保存した。


5:名無しの信徒

 完璧神々も間違ってないんだよな。

 実際、燃え尽きてた人たちが少し楽になってるのも事実。


6:名無しのゆらぎ推し

 でも、“ちょっとぐらい壊れてても、ここにいていいよ”って言ってくれる場所も欲しいんだよ。


7:名無しの見習い推し

 あかりちゃん、また変なところに巻き込まれてない?大丈夫?

 神様見習い、気づいてるかな。


8:名無しの黄神クラスタ

 黄神、絶対裏でニヤニヤしてるだろ。

 釣り竿持ってないとか逆に怖い。


9:名無しの太公望派

 創造神、いつ帰ってくるんだよ。

 帰ってきたらまたぐちゃぐちゃにしそうで怖いけど、それを待ってる自分もいる。


10:名無しのまとめ神

 完璧も正しい。揺らぎも正しい。

 ……じゃあ、わたしたちは、どこに立てばいいんだろうな。



⑤【ぬらり&夜叉締め】


薄暗い路地。

ネオンと提灯と、どこかの世界からこぼれた祈りの光が、

全部ごちゃごちゃに混ざっている。


ぬらりひょんと夜叉が、その真ん中を並んで歩いていた。


夜叉

「静かになったと思ったら、また賑やかになってきたね。」


ぬらり

「静けさは静けさでよう味わいあったがのう。

やっぱり、誰かが声を上げると、世界は生きとる感じがするわい。」


夜叉

「妲己、また好き勝手やってる。」


ぬらり

「好き勝手言うても、あやつなりに筋は通しとる。

“完璧も正しいけど、それだけじゃ苦しい夜もある”っちゅう筋にな。」


夜叉

「プリンスたまは?」


ぬらり

「ありゃ、ただの自由人じゃ。

……ただ、自由人が本気で笑ってくれる世界は、案外悪くない。」


夜叉

「ひかるんは、どっち側なんだろ。」


ぬらり

「どっち側にもおらんよ。

揺れてるやつは、線の上をふらふらしとる。

だからこそ、見える景色もあるんじゃ。」


夜叉は少しだけ笑った。


夜叉

「……黄神は?」


ぬらり

「あやつは、ようやく竿を置いたと思ったら、

今度は世界全体を盤に見立てて遊び始めおった。

ほんに、ろくでもない神様たちじゃ。」


夜叉

「完璧神々も、ろくでもないの?」


ぬらり

「“正しすぎる”いうのも、ある意味ろくでもないんじゃ。

でものう――」


ぬらりは立ち止まり、夜空を見上げた。

完璧な光と、そこから零れ落ちる小さな影が、入り混じっている。


ぬらり

「どっちか一方だけじゃ、世界は長持ちせん。

だから今は、“揺らぎ暴走隊”の出番いうことよ。」


夜叉

「世界、どうなるかな。」


ぬらり

「さあのう。

ただ一つ言えるのは――」


遠く、地獄の喧騒の向こう。

見えない高さで、黄神が小さく笑った気配がした。


黄神の声

「まだまだ、ええ“餌”が増えよるわい。」


ぬらり

「世界は、まだ揺れておる。

揺れておるうちは、終わらん。」


夜叉

「じゃあ、今日も。」


ぬらり

「……静寂に戻ろう。」


喧騒が、少しだけ遠のいた。

けれど、どこかで誰かが笑う声と、

泣きながら笑う気配だけは、いつまでも消えなかった。

薄暗い部屋。

神様がひとり、ちゃぶ台に座っている。


目の前に――

未来の声。

過去の声。

現在の声。


三つ全部、自分。



神様(現在)

「……ふむ。信仰足りないねぇ。見えてないねぇ。」


ジョンタイター(未来)

「そりゃそうだよ。

2036年の統計でも“完璧は飽きる”って出てる。」


サンジェルマン(過去)

「人間は“揺らぎ”にしか心を寄せないのだ。

昔からそうだよ?」


神様、ぽりぽり頭を掻く。


神様(現在)

「じゃあ、そろそろ戻るか?

……でも、まだ誰も呼んでないんだよね。」


ジョンタイター(未来)

「呼ばれるよ。

揺らぎが動き出したから。」


サンジェルマン(過去)

「歴史の法則だ。

完璧は、常に破られる。」


神様、ニヤッ。


神様(現在)

「そっか。

じゃあ次回――」


ちゃぶ台の上のサイコロを一個転がす。

『1』が出る。


神様(現在)

「……うん。人生は、ゆっくりでいい。」


神様(全員)

「次回、第59話。

三界、揺らぎの真ん中で立ち上がる。」


わざとらしく同時に笑って――


「「「ぐふふ。」」」


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