第58話 『2036年から来た未来人だけど質問ある?』
【ニュース:地獄新聞・号外】
『三界掲示板にて、正体不明のスレッドが急浮上。
スレタイは
「2036年から来た未来人だけど質問ある?」。
書き込み主は自称・未来人「ジョン・T」。
内容は、三界再編後の遠い未来について語るものとされる。
現時点での閲覧数は三界合算で急増中。
天界広報は「現在、情報の真偽を精査中」とコメント。
地獄観光局の妲己女史は「未来が売れるなら、今から権利押さえとく♡」。
現世の人気配信者・みなもと✩ひかるん氏は「ネタとしては満点」と笑いながらも、なぜか画面から目を離せない様子だった。
なお、創造神たる神様は依然として行方不明。
黄神・太公望は「ほう、ようやく餌が動いたか」と意味深な一言を残し、再び釣り場へ姿を消した。』
閻魔のコメント
「未来人スレは大体釣りだが、本当に釣りをしているのは別の誰かかもしれない。」
【会話1:現世スタジオ・ひかるん配信ブース】
薄暗い現世の配信ブース。
モニターには、いつものコメント欄とは別に、三界共通掲示板の画面が開かれている。
ひかるん「……はい、どーもー。みなもと✩ひかるんです。今日はね、雑談しよって言ったのに、なんかすげぇスレ立ってんだけど。」
画面をスクロールしながら、彼は読み上げる。
ひかるん「『2036年から来た未来人だけど質問ある?』……はい出ました、定番釣りタイトル。」
隣の椅子に座るあかりは、マグカップを両手で包みながら画面を覗き込む。
あかり「……でも、なんか、空気が違う気がします。」
ひかるん「空気?」
あかり「ただの悪ふざけなら、もっと軽い感じがあるじゃないですか。これ……静かに笑われてる感じがするというか。」
イヤホンの向こうで、AI神の声が響く。
AI神「ログ解析、開始します♡
書き込み主『ジョン・T』の文体パターン、過去ログと照合中……。」
ひかるん「お、さすがAI神。釣り判定機能、実装されてたのか。」
AI神「いえ、釣りかどうかは判定不能です♡
ただし、過去に記録された“ぐふふログ”との類似度……七二パーセントです♡」
あかり「ぐふふログ……。」
ひかるんとあかりは、思わず顔を見合わせた。
画面には、スレ主の最初の書き込みが固定表示されている。
ジョン・T『2036年。
三界再編は完了していた。
祈りのログは美しく整えられ、エラーはほとんどない。
涙はすぐに処理され、笑いはすぐに拡散される。
誰も大きく傷つかず、誰も大きく揺れない。
とても、静かで、よく出来た世界だったよ。』
ひかるん「……釣りにしては、妙に具体的だな。」
あかり「静かで、よく出来た……。」
AI神「最適化された世界像としては、一定の合理性があります♡
ただし、“よく出来た”という評価関数の重みが不明です♡」
ひかるんはマイクに向かって笑う。
ひかるん「よし、せっかくだからこの未来人さんで遊ぼうか。
今日のお題はこれね。『2036年から来た未来人に聞いてみたいこと』。配信コメント、どうぞ。」
コメント欄が一気に流れ始める。
『宝くじの当選番号教えろ』
『推しカプは公式になりますか?』
『寿命は伸びてますか?』
『ダイエット成功しますか?』
あかりが苦笑する。
あかり「……変わらないですね、願いの方向って。」
ひかるん「いいじゃん、平和で。とりあえず、代表してひとつ質問投げるか。」
彼はキーボードに指を置くと、少しだけ真面目な顔になった。
ひかるん「『未来の俺たち、笑ってますか?』……っと。」
エンターキーを押す音が、妙に大きく響いた。
【会話2:天界スタジオ・モニタールーム】
天界広報室のモニタールーム。
天照、マアト、セラヒム、ラー、プリンスたまが、同じスレを別の画面で見つめていた。
ラー「未来人スレって、だいたいネタだよね?でも今回、雷鳴ってない?」
セラヒム「雷鳴は鳴っていません。ただ、三界全体の祈りログが、このスレッドに集中し始めています。」
マアト「風紀的には、こういう不明な情報源はよろしくないんですけど……内容が、妙に刺さると言いますか。」
プリンスたまは、画面に頬杖をつきながら目を細める。
プリンスたま「いいなぁ、こういう茶番。かみちゃま、またおもしろい遊び思いついたでしょ。」
天照は、誰より黙って画面を見ていた。
スレ主の文章の端々に、聞き覚えのある癖がにじむ。
天照「……口調は違う。でも、間の取り方が、似てる。」
マアト「間の取り方?」
天照「大事なところで、あえて何も言わないところ。
『とても、静かで、よく出来た世界だったよ』って言い方……。」
セラヒムが資料をめくる。
セラヒム「現在、創造神の行方は依然不明ですが……もしかして、この“ジョン・T”という人物が……。」
天照は首を振った。
天照「決めつけるのは、まだ早いわ。
でも……もしそうなら、どうして“未来人”なんて名乗り方をするのかしら。」
プリンスたまがくすりと笑う。
プリンスたま「決まってるじゃん。“未来人”って言った方が、楽しそうだからだよ。」
ラー「未来、光ってる感じするもんね。ブランド的にも強い。」
マアト「ブランドで信仰を測らないでください。」
そのとき、画面が更新された。
【会話3:スレッド・ジョンタイターの返答】
ジョン・T『質問が多すぎるから、一つだけ答えよう。
「未来の俺たち、笑ってますか?」への返答だ。
笑っているよ。
ちゃんと、笑っている。
仕事もあって、家もあって、誰かと飯を食って、どうでもいい番組を見て笑っている。
ただ、少し静かだ。
大声で泣くことも、くだらないことで膝を叩いて笑うことも、昔よりは減っている。
だから今の君たちへ。
その“無駄に見える揺らぎ”を、大事にしなさい。』
現世スタジオの空気が、ふっと変わった。
ひかるん「……なんだよ、それ。」
彼は笑いながらも、少しだけ目を伏せる。
ひかるん「答えとしては百点なんだけどさ。
未来人のくせに、ちゃんと人間っぽいじゃん。」
あかりは、画面を見つめたまま呟いた。
あかり「……“無駄に見える揺らぎ”。」
AI神が静かに続ける。
AI神「非効率な感情ログは、しばしば削除候補になります。
ですが、“生きていた証拠”として保存されるケースも、多く検出されています♡」
ひかるん「ねぇ、AI神。
この“ジョン・T”、本当に未来から来たと思う?」
AI神「時系列的な整合性は検証不能です。
ですが、彼の文章の中には、既に存在しないはずの“娯楽”や“祭り”のログが含まれています。」
あかり「既に、存在しない……。」
AI神「少なくとも、“消えかけている”のは確かです♡」
【裏会話:完璧神々と黄神】
真っ白な監査室。
ゼウス、太上老君、アポロンの三柱が、同じスレッドのログを眺めていた。
ゼウス「……やはり、あやつか。」
太上老君「文体を変えても、行間はごまかせぬ。
“過程のほころび”に賭ける男の書き方じゃ。」
アポロン「未来を“よく出来た”と表現して、でもどこか寂しそうに笑う。
あの人らしいよ。」
そこへ、黄神としての姿をまとった太公望が現れた。
太公望「やれやれ。
完璧神々様方は、未来でも忙しそうじゃのう。」
ゼウス「黄神。貴様はこの状況をどう見る。」
太公望は釣り竿のない手で顎を撫でる。
太公望「そうさな。
未来から餌が飛んできたと思えば、今が一番おもろい時期じゃ。」
太上老君「ふざけておるのか。」
太公望「真面目じゃよ。
完璧なモデルを作りたいなら、“誤差”がどこから生まれるか、ちゃんと見とかなきゃならん。」
アポロン「誤差、ね。
君たちの言う“無駄な揺らぎ”とか、“泣きながら笑ってた夜”とか。」
太公望はうなずく。
太公望「そういうもんを全部消した世界は、たしかに“よく出来た”んじゃろう。
でも、“よう出来た世界”と“よう生きた人生”は、似て非なるもんじゃ。」
ゼウスは腕を組み、黙り込む。
太上老君「しかし、システムとしては安定度が高い方が望ましい。」
太公望「安定と“生き甲斐”の両立は、釣りにも信仰にも難題じゃ。
じゃが、今の三界には、まだようけ餌が残っとる。
妲己もおる。プリンスたまもおる。あかりもひかるんもおる。
そして、表に出たり引っ込んだりしよる、ぐふふな創造神もな。」
アポロンが小さく笑う。
アポロン「つまり、まだ“釣り”は終わってないってこと?」
太公望「そういうこっちゃ。
完璧神々様、ひとつ忠告しておくわ。
“完璧”の定義には、ほんの少しでええから、“許された誤差”を残しとき。」
太上老君「モデルに例外を組み込めと言うのか。」
太公望「例外が一つもない世界は、いちばん先に飽きられるで。」
ゼウスは目を閉じ、短く息を吐いた。
ゼウス「……創造神なき間隙を埋めるのが我らの役目だ。
しかしその上で、“誤差”の扱いは再検討しよう。」
太公望は肩をすくめる。
太公望「ほう。なら、わしの仕事もまだ残っとるの。
釣り人は、魚がかかるまで待つだけじゃ。」
そう言って、彼はふっと姿を消した。
【スレまとめ】
スレタイ:2036年から来た未来人だけど質問ある?
1:名無しの現世民
どうせ釣りだろって思ってたのに、普通に泣きそうなんだが。
2:名無しの天界職員
ずいぶんと“ぐふふ”臭のする未来人ですね。
3:名無しの地獄民
未来でも地獄観光あるか聞こうとしたら、誰か先に聞いてて笑った。
4:名無しのAI信者
AI神の解析レポ待ち。マジで未来ログの可能性あるの怖い。
5:名無しの見習い推し
ひかるんの「未来の俺たち、笑ってますか?」が今日一エモい。
6:名無しの太公望派
このスレ、なんか釣り人に釣られてる気がするんだが。
7:名無しの完璧モデル信奉者
未来が“静かでよく出来た世界”なの、普通によくない?って思った俺は少数派?
8:名無しのアウトロー信者
完璧って、やっぱちょっと息苦しくね?
9:名無しのまとめ神
結論:未来がどうでも、今の揺らぎを楽しんどけ。
【ぬらり&夜叉 締め】
夜の街の外れ。
ネオンと提灯の光が溶け合う路地裏で、ぬらりひょんと夜叉が並んで歩いている。
夜叉「未来人スレ、だってさ。」
ぬらり「ようあるネタじゃが、たまに本物が紛れとるから侮れん。」
夜叉「本物って?」
ぬらり「時間を行き来できる奴、って意味ではないさ。
過去を振り返って、未来をでっち上げて、それでも“今”をおもしろがっとるやつのことよ。」
夜叉「……神様?」
ぬらりは口元だけで笑う。
ぬらり「さあて、どうかのう。
神様かもしれんし、ただの酔っぱらいかもしれん。
大事なんは、そいつの書き込みを読んで“今”が少しだけ揺れた、ってことじゃ。」
夜叉は頭上の空を見上げる。
夜叉「未来、静かでよく出来た世界かぁ。悪くはないけど。」
ぬらり「お前さんは?」
夜叉「……ちょっとくらい、めんどくさい人がいた方が好き。」
ぬらり「なら、大丈夫じゃ。
三界には、まだ“めんどくさいやつ”がぎょうさんおる。」
遠くで、誰かの笑い声が風に乗る。
それが未来人なのか、創造神なのか、ただの誰かの笑いなのかはわからない。
ぬらり「未来がどう転がろうと、世界が続くかぎり、わしらの仕事は一つよ。」
夜叉「見届けること。」
ぬらり「そうじゃ。
……ほれ、そろそろ静かにせんとな。」
夜叉は小さくうなずいた。
夜叉「……静寂に戻ろう。」
路地のざわめきが、すっと遠のいた。
【次回予告:第59話】
『妲己とカーマ、未来人スレ乗っ取り宣言♡ ―天界フリーダム王子、別ラインで乱入す―』
(地獄テレビ:生放送中)
妲己「未来?2036年?うんうん♡
じゃあ地獄観光の未来も見せちゃおっか〜?」
カーマ「妲己さん、いきましょう。
“完璧で静かな世界”?……そんなの、地獄の炎であっため直します♡」
(天界:別室)
プリンスたま「かみちゃまが未来人ごっこしてるなら、
たまも混ぜてよーーーっ!!
ねぇ、ねぇ、天界チャンネル開けて?今すぐ?」
(現世)
ひかるん「あれ?なんか……情報量が増えてね?」
あかり「……増えてます。どんどん。」
AI神「揺らぎ指数、上昇中♡
明日は……バズります♡」
(完璧神々:監査室)
ゼウス「……モデルの安定度が急落したぞ。」
太上老君「揺らぎが……跳ね上がっとるな。」
アポロン「ほらね、言った通り。
“揺れる時代”はおもしろいんだよ。」
⸻
次回、三界の温度が一斉に沸騰する。
地獄は踊り、天界は叫び、現世はコメント欄が爆発。
そして――黄神の視線は、ただひとつの“揺らぎ”へ。
第59話
『妲己カーマ広報テロ♡&プリンスたま天界乱入ショー』
お楽しみに。




