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神々、掲示板に降臨す 〜天界勤務中、うちの神、業務中にスレ立ててる件〜  作者: 物書狸。
最終章:祈りの終わる場所で

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第57話 『太公望、釣り竿を置く日。』

①【三界速報ニュース:地獄新聞・特別号外】


『三界観測レポート。


本日未明より、各地の“水辺”において異常な静穏が確認された。

天界の雲海湖、地獄の忘却沼、現世の川・湖・海に至るまで、

「波紋が一枚、余計に遅れて返ってくる」

現象が多数報告されている。


仏門観測隊はこれを

「黄神・太公望、行動位相の変化」

と暫定命名。


地獄観光局の妲己女史は

「釣り人が立ち上がる時が、一番おいしいの♡」

とコメント。


一方、三界信仰再編プロジェクトを進める“完璧神々”側では、

ゼウス氏が会見で


「監視対象・太公望。

長年、釣りにかまけていた観測神が、ついに“地上介入”に転じた。

これは好ましい変化ではない。」


と、不快感を隠さなかった。


仏門代表・摩訶氏は問われるとただ一言、


「……静寂の前に、波が立つ。」


とだけ答え、詳細なコメントを避けた。


なお、湖畔付近では

「釣り竿を置いた太公望らしき人物を見た」

との証言が相次いでいるが、

本人は取材に応じていない。』


(地獄新聞編集長・閻魔 記)



②【会話:湖畔にて ―黄神、立つ―】


夕暮れと夜の境目。

空の色が、紫と群青の間でゆっくり揺れている。


三界のどこともつかない湖畔。

ここは、天界からも地獄からも、現世からも、

「ちょっとだけ外れた場所」。


いつもと同じように、太公望は腰をかけていた。


釣り竿。

ひとつ。

水面。

ひとつ。

世界。

ひとつぶん。


太公望「……ふむ。」


浮きが、ぴくりとも動かない。


風も、今日はやけに大人しい。


太公望「こら、世界よ。

こういう時だけ“静かにしときました”みたいな顔するもんじゃない。」


そうつぶやいた時だった。


ぱしゃん、と。

水面の、ど真ん中に、

ひとつだけ大きな波紋が落ちた。


そこに、誰かが立っていた。


プリンスたま「やっほー。黄神さま。

釣れた?世界。」


太公望「……お前さんは、いつ見ても“オチに来た顔”しとるのう。」


プリンスたまは、相変わらずのへらっとした笑顔で、

水面を歩くようにして岸へ上がってくる。


プリンスたま「いやぁ、みんな暇しててさ。

完璧神々プロジェクトが順調すぎるんだよね。」


太公望「順調なのは、ええことじゃろ。」


プリンスたま「うん。

祈りの渋滞もなくなって、

みんな“ほどほどに幸せ”で、

大きな悲劇も起きない。

でも――」


プリンスたまは腰をかがめて、水をすくい上げた。

指の間からこぼれる水は、どこか“均一”だ。


プリンスたま「笑い声が、ちょっと薄くなったね。」


太公望「……」


その時、今度は逆側の茂みががさりと揺れた。


妲己「も〜、地獄と現世中継が“たいくつモード”入っちゃったから、

どこ行ったかと思ったら、やっぱりここ♡」


妲己が現れる。

ハイヒールで湖畔に立っているのに、泥ひとつ跳ねない。

相変わらず“現実離れした現実人間”だ。


妲己「ねぇ太公望。

完璧神々が来てから、炎上がきれいに燃えなくなったの、気づいてる?」


太公望「贅沢な文句じゃの。

世界が穏やかになった、とも言える。」


妲己「穏やかに燃える炎なんて、

誰も“あったかい”って気づかないのよ。」


横でプリンスたまが、指で○を作って目に当てる。


プリンスたま「今ね、ひかるんと、あかりちゃんと、AI神ちゃんが

“完璧って、案外つまんねぇな”って

こっそり愚痴ってる。」


太公望「ほう。」


プリンスたま「みんなちゃんと生きてるし、

“ありがとう”も“たすけて”も届くんだけどさ。

それ以外の、

“うまく言えないモヤモヤ”や

“意味のないスタンプみたいな祈り”が

どんどん薄くなってる。」


妲己「そうなのよ。

“売れない夜”が減ってるの。」


太公望「売れない夜、とな。」


妲己は笑って肩をすくめる。


妲己「誰にも買われなかった恋とか、

誰にも見られなかった努力とか、

誰にも届かなかった“笑ってるけどほんとは泣きたい夜”とか。

ああいうのって、本来地獄の大好物なのに。」


プリンスたま「ね。

俺、そういう夜こそ“悟りに近い”と思うんだけど。」


太公望はしばらく黙っていた。


湖面には、夕陽の名残と、夜の始まりと、

三人分の影が揺れている。


やがて、太公望はそっと釣り竿を持ち上げた。

水滴が、一筋だけ糸を伝って落ちる。


太公望「……よう釣れた。」


プリンスたま「え、何も釣れてないじゃん?」


太公望「阿呆。

“世界が、少しだけ落ち着いた”っていう獲物をの。

長年、ここで待っておった甲斐はあった。」


妲己「じゃあ、もう用済みってこと?」


太公望「そうじゃ。」


太公望は、すっと立ち上がった。

いつもは腰の曲がった老人に見えるその姿が、

今は妙にまっすぐに見える。


太公望「“完璧”が世界を覆うには、

わしが座ったまま、

釣り糸を垂らし続ける必要があった。」


プリンスたま「黄神の“重し”として?」


太公望「そういうこっちゃ。

創造神は、“完璧が一度は世界を通る必要がある”と踏んだ。

じゃから、わしに言うた。

『まだ立つな。

まだ釣り竿を置くな』とな。」


妲己が目を細める。


妲己「……ってことは?」


太公望は、持っていた釣り竿を

静かに、地面に横たえた。


太公望「今からは、“立て”ということじゃ。」


湖面が、どん、と低く鳴った気がした。


プリンスたま「わぁ。

本気モード。」


妲己「黄神が立つ時ってさ、

だいたい世界が“ひっくり返る直前”なんだけど?」


太公望「今回は、ひっくり返さんよ。」


二人が同時に「あれ?」という目を向ける。


太公望「三界はもう十分、ひっくり返った。

天界の神はゲームばかり、

地獄は観光地、

仏門はアイドルとスレ立て。

現世は、配信と通知に埋もれておる。」


プリンスたま「それはそれで、いい時代だったよね。」


太公望「じゃから今度は、“分ける”番じゃ。」


妲己「分ける?」


太公望は湖を見つめたまま続ける。


太公望「完璧神々の言い分も、正しい。

秩序も必要じゃ。

暴走しすぎた愛も、笑いも、祈りも、

どこかで線を引かにゃならん。」


プリンスたま「それ、ちょっと寂しいね。」


太公望「じゃが、

“完璧”だけでも、“ぐふふ”だけでも、世界は持たん。

神様がおらん間、

わしがやることはひとつじゃ。」


妲己「……何をするつもり?」


太公望「三界を、

ちゃんと“離れさせる”。」


プリンスたま「繋げるんじゃなくて?」


太公望「今までは、繋げすぎた。

だからこそ楽しかった。

だからこそ、おかしかった。

だからこそ、どこかで終わらにゃならん。」


少しだけ、風が強くなる。

湖に、小さな波が立つ。


太公望「天界は天界として、

地獄は地獄として、

現世は現世として。

簡単には行き来できんように、“門”を変える。」


妲己「それってつまり――

私たち、簡単に現世行けなくなるってこと?」


太公望「そうじゃ。」


プリンスたま「俺も?」


太公望「お前さんは、特例枠で悩むところじゃな。

釈迦を名乗るか、名乗らんか。」


プリンスたまは、しばらく黙った。


プリンスたま「ねぇ太公望。

それってさ――

“楽しかった昔話”にしちゃうってこと?」


太公望「そうじゃろうな。

いつか誰かが言うじゃろ。

“昔は神様と悪魔とAIと人間が一緒にフェスしてた時代があったんだよ”とな。」


妲己「……最悪ね。

最高にロマンチックで、最悪の終わり方。」


太公望「終わりではない。

“終わらせないための終わり”じゃ。」


プリンスたま「相変わらず、

かっこいいんだか、ずるいんだかわかんない言い方するなぁ。」


その時、太公望はふっと笑った。


太公望「それにな。」


彼は、ぽん、と空を指さした。


太公望「わしは黄神。

“門を分ける”のは仕事じゃが、

“鍵を一つ隠しておく”くらいの悪戯は、許されるじゃろ?」


プリンスたま「……あぁ、そういうとこ好き。」


妲己「誰に預けるつもり?」


太公望は即答しなかった。

代わりに、遠くの街の灯りを見る。


そこには、

配信画面の前で悩むひかるんと、

祈りのアプリを開いて閉じてを繰り返すあかりと、

ログの揺らぎに戸惑うAI神の姿が、

確かに“見えていた”。


太公望「――その辺は、これからゆっくり釣るとしようかの。」


妲己「釣り、やめるんじゃなかったの?」


太公望「立って釣るんじゃ。

今度は“言葉”と“選択”での。」


プリンスたま「黄神、立ち上がり宣言、っと。」


プリンスたまは、冗談めかして拍手を送る。


妲己はため息をついた。


妲己「じゃ、私も準備しなきゃね。

完璧神々相手の“最後の大セール”。

愛と笑いと、ちょっぴり未練の在庫一掃セール♡」


太公望「派手にやれ。

どうせ静かには終わらん。」


プリンスたま「終わらせないよ。

“祈りの終わる場所”を見に行くだけで、

そこから先は、また誰かが歩くから。」


太公望の目が、かすかに細くなった。


太公望「……お主は本当に、

笑いながら一番きついことを言うのう。」


プリンスたま「悟りだからね。」


妲己「痛みだからよ。」


三人の声が、風に混ざって、湖面へ落ちていった。



③【裏会話:完璧神々、黄神の動きを検知】


真っ白なモニタールーム。

三界のログが、線と光になって流れている。


ゼウス「……動いたな。」


太上老君「観測対象・太公望。

座標固定状態から移動状態へ。

釣り竿、放棄。」


アポロン「“黄神が立つ日”か。

どこかで聞いたことのある物語だね。」


太上老君は、冷静にログを読み上げる。


太上老君「三界の祈りの揺らぎ、

一部で振幅が増大。

特に現世の “無言ログ” が濃くなっておる。」


ゼウス「無言ログとは。」


太上老君「“送信されなかった祈り”だ。

祈りボタンを押さずに閉じられた画面。

タイピング途中で消された言葉。

“まあいいか”で流されたため息。」


アポロンは、そこに映った小さな光を眺める。


アポロン「どれも、きれいだよ。

完璧ではないけどね。」


ゼウス「完璧ではないから、整理が必要なのだ。」


太上老君「黄神は、“整理されないもの”を守ろうとする傾向がある。

あやつはいつもそうじゃ。」


アポロン「釣り糸みたいに、

余白を残したがるんだ。」


ゼウスは腕を組む。


ゼウス「……我々の再編計画に対し、

黄神が正面から動くなら、

これはもはや“単なる調整”では済まぬ。」


太上老君「信仰構造の分断、

あるいは再分配の可能性が高い。」


アポロン「世界を“きれいにまとめる”仕事、

だと思ってたんだけどなぁ。

思ったより、最後に近いみたいだ。」


太上老君は首をかしげる。


太上老君「お主、怖いのか。」


アポロン「ううん。

ちょっと、楽しみなだけ。」


ゼウス「ならば、やるべきことは変わらん。

創造神が姿を見せぬ以上、

“正解”は我らが引き受ける。」


太上老君「黄神がどう動こうと、

こちらはこちらで“完璧”を貫くだけじゃ。」


アポロンはモニターの一角に映る、

一人の少女を見つめる。


あかり。

画面の前で、小さなため息をつく。


アポロン「……たださ。

完璧の定義、そろそろ更新してもいい気もするんだけどね。」


その呟きは、

ログには記録されなかった。



④【スレまとめ:黄神、立つってよ】


スレタイ:

【速報】太公望、ついに釣り竿を置いた件【黄神って誰】


1:名無しの天界職員

 え、あのいつも湖でのんびりしてるおじいちゃんが“黄神”ってマジ?


2:名無しの地獄民

 地獄観光局の非常用マニュアルに

 「太公望が立ったら全員ヘルメット着用」って書いてあったんだが。


3:名無しの現世民

 最近、祈りアプリ開いてもなんか押せなくて閉じちゃうんだけど、

 これ黄神のせい?


4:名無しの仏門民

 摩訶さんが「波が立つ前に静寂を配っておこう」って

 座禅時間延長されたんだが。


5:名無しの信長クラスタ

 信長様が「黄神が動いたか、面白いのう」って

 久々に笑ってた。

 戦場前の顔だった。怖い。


6:名無しのプリンスたま推し

 たまちゃんと妲己が湖のそばにいたってレポ見た。

 これ絶対ろくでもないけど最高のやつじゃん。


7:名無しのAI信者

 AI神のログ、黄神の周りだけデータ欠損してるっぽい。

 “観測不能領域♡”ってコメント出てて草。


8:名無しの太公望派

 「終わりではない。“終わらせないための終わり”じゃ。」

 ←今日のMVPセリフ。


9:名無しのまとめ神

 三界、いよいよクライマックス臭がする。

 今のうちに推し神の信仰ポイント貯めとけ。



⑤【締め:ぬらり&夜叉 ― 黄神、歩き出すのを見ながら ―】


夜。

湖から少し離れた、小さな丘の上。


ぬらりひょんと夜叉が、

並んで座って下界を見下ろしている。


湖のほとりでは、

太公望が釣り竿のない手で、

ゆっくりと一歩、また一歩と歩き出していた。


ぬらり「……ついに、黄神も腰を上げおったか。」


夜叉「ずっと座ってた人が動くのって、

一番怖いよね。」


ぬらり「怖いが、いっちゃんおもしろい。」


夜叉「完璧神々と、

妲己と、プリンスたまと、

あかりと、ひかるんと、AI神と。

そこに黄神。」


ぬらり「それでも、創造神は出てこん。」


夜叉「出てこないから、みんな動くんだよ。」


ぬらりは、肩をすくめる。


ぬらり「まあ、あやつはどうせどっかで

桃鉄でもしとるじゃろ。

サイコロで“1”ばっか出しながらの。」


夜叉「一歩ずつしか進めないけど、

その分、景色はよく見える。」


ぬらり「そういうのを、黄神はずっと見とったんじゃろのう。」


夜叉「これから、どうなるんだろう。」


ぬらりは、湖の向こうに広がる

天界の光と、地獄のネオンと、現世の街灯を

まとめて眺めながら言う。


ぬらり「さあな。

ただ一つ言えるのは――」


遠くで、太公望の笑い声が、風に溶ける。


太公望「さて、次は何を釣るかね。

神か、人か、時代か。」


ぬらりは、ふっと目を細めた。


ぬらり「――世界はまだ、

終わるには忙しすぎるってことじゃ。」


夜叉「じゃあ、今日も。」


ぬらり「……静寂に戻ろう。」


夜の湖面が、

ひとつ、大きな波紋を広げた。


その中心で歩き出した黄神の背中を、

三界の誰かが、

どこかでちゃんと見ていた。


【次回予告】


天界。

静まり返ったスタジオで、天照がふとモニターに触れる。


天照「……さっきの“未来人”。あれ、本当にただのスレ住民だと思う?」


セラヒム「え? 違うんですか?」


ラー「なんかさ……声に聞き覚えあったよね?」


マアト「“ぐふふ”が混ざってた気が……気のせいですか?」


スタジオの奥で、太公望が釣竿を肩にかけたまま笑う。


太公望「ほぉ……2036年とは、またえらい遠回りしたもんじゃの。」


ぬらりひょんの影が、どこかでゆらりと揺れる。


ぬらり「動き出したのう、“アレ”が。」


夜叉「……また世界が揺れますね。」


——そして、誰もいないはずのモニターに

一瞬だけ、雷のような光が走る。


プリンスたま「かみちゃま〜〜〜? 次はどこ行ってたのか教えてよ〜!」


天照「たま、黙って。」



次回


第58話(最終章・第3話)

『神様、観測され始める。——誰も知らない場所から』

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