第54話 『完全神々、降臨。〜完璧って、そんなに偉いですか?〜』
①【三界速報ニュース】
『三界同時速報。
本日、天界・地獄・現世の通信網にて、突如として「完全神々」を名乗る三柱が記者会見を開始。
名乗りは以下の通り。
・天上統括:ゼウス
・理法監査:太上老君
・光明芸術監理:アポロン
三神は「三界信仰再編プロジェクト」の立ち上げを宣言。
ゼウス氏「混沌は愛らしいが、非効率だ」
太上老君氏「炎上率、笑い偏差値ともに基準値を大きく逸脱」
アポロン氏「ブランドイメージ、もっと磨けるはずだ」
なお、創造神たる“神様”は本会見に不在。
天照氏は「スケジュール調整中」とコメントしているが、詳細は明かされていない。
地獄観光局の妲己女史は「完璧?おいくらで売れるのかしら♡」と笑顔で応じた。
現世代表のみなもと✩ひかるん氏は「タイトルだけでバズりそう」と配信内で発言。
AI神は「新規アルゴリズム検証案件♡」と静かにサーバ負荷を上げている。』
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②【会話:三界同時中継ライブ】
1)天界スタジオ:天照・セラヒム・ラー・マアト・プリンスたま
天界広報スタジオ。
いつもの「お祈り叶えますTV」のセットが、今日は妙にきちんと片付いている。
セラヒム「本日、天界より特別番組をお送りします。三界同時中継・緊急信仰会議――です!」
ラー「タイトル硬すぎない?もっとさ、フェスっぽくしようよ。」
マアト「フェスではありません。風紀です。」
プリンスたま「いやいや〜楽しい方がいいじゃん?かーみちゃま行方不明記念フェスとかさ。」
天照「記念にしないで。」
セラヒムが慌てて資料をめくる。
セラヒム「ええっと……本日お招きしているのは、三界信仰再編プロジェクトの……その……」
光が揺れ、空間に三つのホログラムが浮かび上がった。
雷をまとった威圧感たっぷりの男。
細い目で書物を抱えた老人。
眩しすぎる笑顔の完璧な青年。
ゼウス「天界諸君、初めまして。私はゼウス。雷と統治を司る者だ。」
太上老君「太上老君。理と法の監査担当だ。」
アポロン「アポロン。光と芸術と、イメージ戦略を請け負っているよ。」
ラー「うわ、眩しい……太陽増えた?」
プリンスたま「どーもどーも!同業かな?俺プリンスたま☆悟り系お笑いプリンスやってまーす。」
ゼウスが一瞬だけまばたきを止めた。
ゼウス「……自己紹介から既に基準外だな。」
マアト「基準外ですが……尊いので一旦許可します。」
天照は、あえて笑顔を崩さないまま問いかけた。
天照「本日は、どのようなご用件で?」
太上老君が静かに巻物を開く。
太上老君「簡単に言えば、評価だ。
天界・地獄・現世、それぞれの“信仰運用”は大変ユニークだが、お世辞にも安定とは言えぬ。」
セラヒム「(小声で)運用って言われました、初めて……。」
アポロンは、スタジオのカメラを見回しながら軽く笑った。
アポロン「君たちの世界はさ、とてもチャーミングだよ。
笑いも愛も混ざってる。でもね――」
彼は、モニターにフェス映像を映し出す。
妲己とプリンスたまが、地獄歓楽フェスで笑い合う姿。
ひかるんが涙ぐみながら祈りを語るシーン。
神様見習いが、忙しそうにアプリを操作する背中。
アポロン「荒削りなんだ。
もっと“完璧”にできる。
笑いも、涙も、祈りも。」
プリンスたまが首をかしげる。
プリンスたま「完璧ってさ、そんなに偉いの?」
ゼウスが、雷の気配を少しだけ強める。
ゼウス「秩序なき信仰は、いずれ自壊する。
その前に、我々が“指針”を示す必要があるのだ。」
天照は微かに眉を寄せた。
天照「……あなた方の指針には、“遊び”はありますか?」
太上老君「遊びは誤差だ。切り捨ててもよい。」
プリンスたま「おっと、いきなりバグってるね〜。誤差がおもしろいのに。」
マアトが小声で呟く。
マアト「……でも、完璧な秩序って、風紀的には理想でもあるんですよね……。」
セラヒム「マアトさんまで揺らがないでください!」
天照は、ふと空の一点を見上げた。
そこには、いつもなら“ぐふふ”と笑っているはずの気配がない。
天照(心の中で)
(……あなた。
完璧な世界を、あなたは望んでいた?)
誰も答えない。
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2)地獄中継:妲己・ルシファー先輩・カーマ・閻魔
地獄観光局のスタジオにも、同じホログラムが映っていた。
妲己「完璧な神々、ですって。ねぇルシ?」
ルシファー先輩「呼び方変わらんな……。どうだろうな、俺はほどほどのミスと謝罪で食ってきた身だ。」
閻魔「そうだな。完璧にされたら、新聞のネタが尽きる。」
カーマは穏やかに笑う。
カーマ「でも、完全な愛を掲げる神々も、理屈としては魅力的ですよ。」
妲己「完全な愛?ふふ……それ、値札つけられる?」
画面の中で、ゼウスが地獄側へ向き直る。
ゼウス「地獄。君たちの“歓楽”と“炎上”は、信仰の熱を集めるには有効だ。だが、行き過ぎだ。」
太上老君「笑いのためとはいえ、労働時間と精神負荷が基準値を超えている。“地獄”の定義もブレておる。」
閻魔「それは……まあ、否定できん。」
アポロン「商品としては悪くないよ。
ただ、もっと“洗練”できる。
苦しみも、愛も、もっとスタイリッシュに。」
妲己はにっこりと微笑んだ。
妲己「スタイリッシュな苦しみ、ね。
じゃあ質問してもいいかしら?」
ゼウス「許可しよう。」
妲己「あなた方の完璧な世界で、
“失敗して泣きながら笑う夜”は、どこに置くの?」
一瞬、空気が固まる。
妲己は続けた。
「誰かを愛そうとして、うまくいかなくて、
こんなはずじゃなかったって笑い飛ばした夜。
それも“誤差”かしら?」
カーマが静かに頷く。
カーマ「それごと抱きしめるのが、わたしたちの“地獄の愛”ですよ。」
太上老君は、少しだけ目を細めた。
太上老君「……感傷は、評価指標に入っておらぬ。」
ルシファー先輩が苦笑する。
ルシファー先輩「だろうな。
だが、俺みたいなやつには、その感傷だけが救いなんだよ。
謝る相手がいる、ってことだからな。」
妲己はちらりとルシファー先輩を見た。
その横顔を見て、何かを飲み込む。
妲己「完璧な神様もいいけれど。
……私、逃げる人を追いかける方が好きなの。」
ルシファー先輩「追うなと言ってるだろうが!」
地獄スタジオに笑いが走る。
アポロンは、ほんの少しだけ口元を緩めた。
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3)現世スタジオ:あかり・ひかるん・AI神
薄暗い現世の配信ブース。
みなもと✩ひかるんのバックには、今や三界中継のコメントが流れ続けている。
ひかるん「やばくない?
完璧神々、マジで映像クオリティがエグい。」
あかりはモニターをじっと見つめていた。
あかり「……すごい、ですね。全部、揃ってる感じがする。」
アポロンの声が、こちらにも届く。
アポロン『現世。君たちの祈りは、雑音が多すぎる。
もっとシンプルに、美しく、効率よくデザインできるはずだよ。』
ひかるん「効率のいい祈り、ってなに……。
一言でバズるやつ?」
AI神の声が、イヤホン越しに聞こえる。
AI神「効率化された祈りアルゴリズム……理論上は可能です♡
“ありがとう”と“たすけて”だけに絞れば、システム負荷は大幅に低下します♡」
あかり「……でも、それだけじゃ、足りない気がします。」
ひかるんが顔を向ける。
ひかるん「どういうこと?」
あかりは少し考えてから、ゆっくりと言葉を選ぶ。
あかり「例えば、“大丈夫だよ”って言えない日とか。
“助けて”って素直に打てない時とか。
それでも、誰かに見ていてほしくて、
意味のないスタンプみたいな言葉を送る日が、あるじゃないですか。」
ひかるんは黙った。
自分の過去の配信ログが、頭の中に蘇る。
ひかるん「……あるな。」
あかり「それも、祈りだと思うんです。
うまく言えなくても、形にならなくても。
効率が悪くても。」
モニターの中で、ゼウスが冷静に告げる。
ゼウス『現世代表。
君たちのその“揺らぎ”は、世界全体のシステムに負荷をかけている。
均されなければならない。』
あかりはスクリーンを見つめ返した。
あかり「……でも、その“負荷”のおかげで、誰かが救われることもあります。」
ひかるん「俺も……あったよ。
どうでもいい配信やってるつもりがさ、
“あの夜救われました”ってコメント来たこと。」
AI神が小さく呟く。
AI神「ログ照合……一致します♡
非効率な祈りは、多くの場合、
“誰かの生存ログ”と同時に記録されています♡」
アポロンは、ほんのわずかに表情を曇らせた。
アポロン『……だからこそ、だよ。
その生存ログを、もっと美しく残せるはずだ。
完璧な光の中で。』
あかりは首を振る。
あかり「完璧な光の中では、
“暗い顔のまま笑う”ことが、できなくなる気がして。」
ひかるん「……それ、わかるな。」
ゼウスが一段声を強める。
ゼウス『三界。
我々は宣言する。
この混沌とした信仰構造を、一定期間をかけて“再編”する。
創造神がいようがいまいが――
秩序は、我々が引き受けよう。』
天界スタジオの空気が、ぴんと張り詰めた。
天照の指が、わずかに震える。
天照(心の中で)
(……やっぱり、あなた、わざといないんでしょう。)
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③【裏会話:完璧神々の控え室】
同時中継が一旦CMに入るその裏で、
三柱の完璧神々は、誰もいない白い空間に戻っていた。
ゼウス「……予想以上に、抵抗があるな。」
太上老君「当然だ。
長年の“ぐふふ運用”のツケがたまっておる。
笑いと混沌に慣れた世界ほど、秩序を拒む。」
アポロン「でも、嫌いじゃないよ。
あの“揺らぎ”。
芸術としては、とても面白い。」
太上老君「ならば、なおさら整えねばならぬ。
芸術は、枠があってこそ芸術だ。」
ゼウスは、腕を組みながら遠くを見つめる。
ゼウス「創造神は、意図的に不在か。」
太上老君「あやつは、元より“結果”を信じておらん。
“過程のほころび”に賭ける男だ。」
アポロン「じゃあ、僕らは“結果”を引き受ける、ってわけか。
完璧な答え合わせ担当。」
太上老君「そういうことだ。
三界の信仰の矢印は、いずれこちらへ向かう。」
ゼウス「……だが、あの地獄の女と、悟りを笑いに変える道化。
それに、名をもらった灯りの少女。
あれらが“誤差”を拡大させる。」
アポロンが小さく笑う。
アポロン「誤差、という名前の、命だよ。
さて、どこまで削れるかな。」
太上老君「削れぬなら、そのまま評価指標として組み込めばよい。
“例外許容型完璧モデル”だ。」
ゼウス「……完璧の定義まで、揺らぎ始めていないか?」
一瞬、三人は黙った。
やがてゼウスが小さく息を吐く。
ゼウス「いずれにせよ――
創造神なき間隙は、我らが埋める。
それが我らの“正しさ”だ。」
誰も、それに異を唱えなかった。
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④【スレまとめ】
スレタイ:完璧神々きたけど、正直どうよ【三界再編】
1:名無しの天界職員
ゼウス様、声デカい。会議思い出して胃が痛い。
2:名無しの地獄民
太上老君に労働時間グラフ見せられたんだが、地獄なのに怒られた。
3:名無しの現世民
アポロン、普通に推せるビジュだけど、完璧って言われると距離感じる。
4:名無しの信徒
プリンスたまの「完璧ってそんなに偉い?」が今日のハイライト。
5:名無しの悪魔
妲己の「泣きながら笑う夜も売りたい」は名言だと思う。
6:名無しのAI信者
AI神、効率化祈りアルゴリズムを本気で作りそうで怖い。
7:名無しの見習い推し
あかりちゃん、初めて名前呼ばれたのエモすぎてしんどい。
8:名無しの太公望派
結局、神様どこ行ったんだよ。
9:名無しのまとめ神
三界、完璧になったら逆につまらなくね?
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⑤【ぬらり&夜叉 締め】
地獄と現世の境目のような、薄暗い路地。
ネオンと提灯の光が混ざる中、ぬらりひょんと夜叉が並んで歩いている。
ぬらり「完璧な神々、か。
いやぁ、ようやく“大物”が出てきおったの。」
夜叉「完璧ってさ、誰のための言葉なんだろうね。」
ぬらり「さぁてな。
作る側には気持ちいいかもしれんが、
生きる側には、ちいと息苦しいかもしれん。」
夜叉「でも、完璧に憧れちゃう夜もあるよ。」
ぬらり「そうよの。
鏡の前で『今日こそ泣かん』て決めるみたいなもんじゃ。」
二人の足元を、どこかの世界の祈りが、光の粒になって流れていく。
夜叉「この光たち、どこに向かうんだろう。」
ぬらり「さてのう。
創造神が消えた隙に、
完璧な神々の元へ行くやつもおるじゃろうし、
地獄の歓楽に紛れるやつもおるじゃろう。」
夜叉「天照が、一人で抱える光も増えそう。」
ぬらり「まあ、心配せんでもええ。
灯りはもう、ひとつ増えとる。」
夜叉「……あかり?」
ぬらりはにやりと笑った。
ぬらり「名前をもろうた子は強いで。
世界が暗うなっても、自分でスイッチ探す力がある。」
夜叉「じゃあ、この先どうなるの?」
ぬらりは肩をすくめる。
ぬらり「さあな。
ただ一つ言えるのは――」
遠くの湖畔で、誰かが笑う声がした。
釣り竿の揺れる音も聞こえる。
太公望の声が、風に乗って届く。
太公望「まだまだや。
完璧を釣るには、もっとでかい餌がいるわい。」
ぬらり「……世界は、まだ終わらん。
終わらんうちは、笑うて見届けるだけよ。」
夜叉「じゃあ、今日も。」
ぬらり「……静寂に戻ろう。」
夜の喧騒が、少しだけ遠のいた。
次回予告(完璧)
次回。第4章最終回。
最終章の幕開け。
たま「あーつまらんなぁこの予告」




