第53.5話 『あかり、灯りをもらう日 — 神様のいない朝の前に —』
Ⅰ あかりの日記:十一月十二日、夜
今日は、フェスのあと。
空気がまだ騒がしくて、胸の中だけ少し静か。
…いや、ほんとは逆なのかもしれません。
外の三界はうるさくて、私の心がやっと静けさを思い出したのかも。
さっきまで、ひかるんさん——みなもと✩ひかるんと話してました。
あの人、本当は軽くて、眩しくて、掴めなくて。
でも今日、ふとこぼした小さな声が、ずっと耳に残っています。
「神様って、返事なんだな」
あの瞬間、私はなんだか泣きそうになった。
私もそう思っていたのに、誰にも言えなかったから。
私は「神様見習い」って名前で呼ばれるけど、
本当は、全然見習えてない。
祈りの交通整理なんて言われるけど、
祈りって交通じゃない。
もっと、息のような、風のような、
触ってはいけないあたたかさでできているのに。
……だからかな。
神様が、今日、初めて私の名前を呼んだとき、
胸の奥がじんわり熱くなった。
『あかり』
あの声は、太陽に近いのに、夜に似てた。
やわらかくて、眠る前みたいで、
でも、どこか離れていく気配もあった。
——どうしてあんな声だったの?
呼ばれたとき、胸の奥がきゅっとした。
いやな予感、ではない。
ぜったいに、離れないでほしい、でも、
たぶん私は、それを止める役目じゃない。
そんな気がしました。
日記書きながら泣くなんて思わなかった。
でも、涙ってあったかい。
祈りと似てるのかも。
明日、また私は「見習い」を続けます。
名前をもらっても、不安は消えないけど、
光り方が少しだけ変わった気がする。
おやすみ。
——あかり
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Ⅱ 神様の部屋:静寂の前
天界深部、ひとけのない廊下を歩く足音がした。
いつもなら明るい光をまとって歩くはずの神様の気配は、
今日はなぜか、弱々しく揺れている。
天照は気づいていた。
書類を片付けながら、横目でちらりと夫を見つめた。
「……どこに行くの?」
「ちょいと、風に当たりにのう。すぐ戻るわい。」
そう言うときの神様の笑顔は、いつも決まってぎこちない。
天照は知っている。
**“すぐ戻らない時の顔”**だ。
「……あなた。あかりちゃん、名前…もらえたんだね。」
神様の背が、ぴたりと止まる。
「……うむ。」
「名前を与えるのは、あなたが『選んだ』証拠でしょう?」
神様は笑った。でもその笑顔は、どこか泣きそうだった。
「選んだんじゃない。
……あの子が、世界に選ばれたんじゃ。」
天照は胸が苦しくなるのを感じた。
だって、それはまるで——
「あなた、行くんだね。
……“あの日”の続きを、確かめに。」
神様は答えない。
代わりに、やさしく天照の肩に触れるだけだった。
「すぐ戻る。約束じゃ。」
天照は首を横に振った。
「戻ってこなくてもいい。ただ……
あなたがいない日を、私が照らすだけだから。」
その言葉に、神様の表情が揺れる。
「……すまんな。ほんに。」
そして“時”が揺れた。
空気の色が変わり、天照の髪がわずかに逆立った。
天界の一角だけ、季節が逆流する。
神様はふっと笑う。
「行ってくるわい。」
その瞬間、神様の身体が光に溶けた。
音もなく、匂いもなく、ただ——
時間の地平線に吸い込まれるように消えた。
天照は手を胸に当てる。
「……あなたは、本当に。
一番大切なことだけ置いていく。」
彼女の頬を、一筋だけ涙が伝った。
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Ⅲ 時をかける神様:光の裏側へ
神様は、時をかける瞬間だけ“名前”を失う。
創造の根に触れるからだ。
光が裏返り、世界の色が千枚の薄紙になっていく。
その隙間に指を差し込むように、神様は歩いた。
——ある日
——ある瞬間
——ある場所
たくさんの“もしも”と“叶わなかった祈り”が流れていく。
その中心に、小さな光が見えた。
あかりの生まれる前、
まだ“祈り”という言葉を知らなかった時代。
世界のどこかで、
一人の子どもが、小さな声で言った。
「だれか……見つけて」
その声が世界に溶けずに残ったから、
神様はその子の未来を探しに来た。
それが、あかり。
“時”の中を歩きながら、神様はぽつりと呟く。
「……わしは何も凄くない。
ただ、願いに耳を傾けとるだけじゃ。」
でもその声は、どこかしら誇らしげでもあった。
「名前をやったんは……光や闇を照らすためやない。
——あの子自身が、自分を照らす日が来るからや。」
光の向こうで、誰かの笑い声がした。
神様は薄く微笑む。
「……まだ終わってへん。
みんな、よう生きとる。
——わしも、もう少し生きるわい。」
そして神様は、時の海の奥へ消えていった。
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Ⅳ 太公望:静寂の釣り場にて
風が止まった。
太公望は竿を置き、湖面に映る星を見つめる。
「……あかり、もろうたか。」
独り言のように呟く。
「名前はな、光の向きに気づく“合図”じゃ。
神様はんは、ようやっとその子を未来に置けたわけや。」
釣り糸が揺れる。
太公望は微笑む。
「ま、誰も気づいとらんやろうけど……
あの子はもう、祈りの形を変える子やで。」
老神はゆっくりと竿を持ち直す。
「さて。
神様が消える準備は整うたわけや。」
風がひとすじ、頬を撫でた。
「……せやけど世界は大丈夫や。
“笑い”は残っとる。
“愛”も残っとる。
そして——灯りがある。」
太公望は湖面に目を落とす。
「次は、完璧な神々が動く頃か。
ま、釣れる魚が増えるだけやけどな。」
湖面に小さな波紋が広がった。
──静寂に戻ろう。
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Ⅴ あとがきのような、次の気配
特別回はここまで。
次の54話——
いよいよ“完璧”を掲げる三神が降臨する。
まだ誰も知らない。
あかりも、ひかるんも、妲己も、プリンスたまも。
ただ一人、消えた神様だけが、
その予兆を知っている。
そして世界は気づいていない。
——ここから物語が「終焉」と「再創造」に向かって動き始めることを。
次回予告(嘘)
『三界緊急生配信!完璧神々、爆誕か!?』**
天界トレンド:
「完璧ってなに?」
「妲己 vs プリンスたま、論戦第2ラウンド」
「ルシファー先輩、サウナで倒れる」
「ひかるん、悟りかけてまた迷う」
「天照、夫不在で書類地獄」
次回——
『第54話:完全なる神々、静かに降りる』




