第18話「母神、発見す。〜炎上は領土です♡〜
地獄が熱気に包まれていた。
妲己とカーマが仕掛けた「Stay Hell, Stay Sexy」キャンペーンは空前の大ヒット。
閻魔の机には地獄旅行便の予約が山積み、クベーラはヘルペイ市場で再び資金を転がしていた。
その熱狂の裏で、静かな天界。
神様は反省と称した療養生活を送っていた。
母神に叱られ、「もういいもん!」と叫んだあの日以来、外出も制限されている。
監視役として派遣されたのは天照大御神。
光の女神にして、かつて神様を慰めたただ一人の存在だった。
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「……まだ反省してるの?」
「してるよ! だから今、再建資料を読んでるんだ!」
神様は机に向かい、焦ったように本を閉じた。
天照は半眼で見つめる。
「顔がにやけてるけど」
「笑顔も再建の一部だから!」
その瞬間――コンコン、とノックもなく扉が開く。
母神が入ってきた。
「おはよう。……また散らかしてるわね」
神様、硬直。
母神は室内を見渡し、ベッドの布団を直そうと手を伸ばす。
神様の表情が一瞬で青ざめた。
「ま、待ってママ! そこはまだ整理中!!」
母神の手が止まり、そして――ゆっくりと布団の下から、一冊の艶やかな表紙を引きずり出す。
『妲己、爆誕。炎上は領土です♡ ―地獄観光局公式写真集―』
空気が凍った。
母神は表紙を見た瞬間、数秒間固まった。
天照は頬を真っ赤にして声を失う。
「……これ、なに。」
「ち、ちがうのママ! 資料だよ!? 文化研究!! 地獄経済の再建の――」
「文化を枕の下に隠す学問は聞いたことがないわね。」
天照、視線を逸らしながら、呟く。
「……最低。」
「え、いや天照違うんだって!! これは妲己の戦略分析用で、あのポーズの角度が……」
「どこの角度よ!!」
バシン。
天照が本を叩きつけた。
母神の目が細くなる。
「神様、あなた本当に反省してるのかしら。」
「してるよぉぉぉ!! してるから! 炎上マーケティングの研究なんだよぉぉ!!」
だが遅かった。
その映像はなぜか――天界のライブ配信ネットワークに流れていた。
【速報】神様、母神に見つかる。
【#もういいもん神】トレンド1位。
【#炎上は領土】同時ランクイン。
地獄新聞部が即反応。
「速報! 天界、ついに炎上! 妲己CEO、広報的勝利宣言!」
妲己コメント:
「まぁ♡ 広告料は後払いでいいわね。炎上は領土です♡」
地獄歓楽街、喝采。
閻魔が額を押さえる。
「……また燃えとる。」
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数時間後、天界謝罪会見。
ルシファー先輩、目の下にクマを作りながら登壇。
「今回の件は……光の加減と編集の結果、誤解を招いたものです。」
「俺そんなこと言ってないけど!?!?」
「神ぃ、だまっててください。」
コメント欄:
【#ルシファー先輩また謝罪】
【#光害は仕様】
【#妲己は悪くない】
マアトが書類を整理しながら呟く。
「風紀的には終わっている……。でも、あの二人の空気、なんだか……まぶしいな。」
彼女の中で、まだ名もない感情が芽を出す。
それは恋ではなく、まだ“未知の尊さ”だった。
⸻
謝罪会見が終わり、部屋に戻る神様と天照。
沈黙が流れる。
神様がぼそりと呟く。
「……俺、もういいもん。」
その声は子どものように小さかった。
天照はため息をつき、静かに笑う。
「……バカ。」
小さく肩を揺らす神様。
ほんの一瞬だけ、部屋の空気がやわらかくなった。
母神はドアの外でそっと微笑む。
「……やれやれ。ほんと、世話の焼ける子。」
地獄は炎上を制し、天界は心を取り戻す。
炎のような恋と、再建の幕が上がる。
次回――Stay Hell, Stay Sexy。




