第1話 俺、創造神だけどスレ立てしてみた
この世界は静かだ。静かすぎて、時々うるさい。
祈りログは今日も薄い。神を呼ぶ声は、年々ハッシュタグの海に沈む。
俺は光の端末に指を置いた。退屈は苔、苔は静寂の裏、生える。
〈新規スレッド作成〉
【新スレ】暇だ。誰か来い。【創造神】
1:名無しの神:世界の創造神だ。雑談でも質疑でも。
2:名無しの地獄民:草
3:名無しの天界:釣り乙。証拠
最初の三行で、だいたい世界の温度がわかる。
四行目で、風が変わった。
6:妲己:板違い。通報しとくね♡ でも、遊んであげる。
地獄の笑いは爪先立ちだ。
続いて、濡れた羽の音。
10:ルシファー先輩:このたびは弊天界が失礼しました——
謝罪の速さは、炎上の初速を決める。
画面は騒がしく、俺の胸は静かだった。静けさの中心で、少しだけ笑った。
15:信長:戦よりスレのほうが強いってマジ?
16:名無しの神:強さの定義次第だ。
17:妲己:炎上は領土です♡
18:ルシファー先輩:不適切表現です
世界は、祈りより速く回った。
速さは熱、熱は群れ、群れは信仰に似ている——が、同じではない。
21:ブッダピアス:長文も短文も、静寂の裏で等温です。
誰かが部屋のカーテンを指で開けるみたいに、
白い光が少しだけ差し込む。
40:太公望:まぁいいか。
四文字で、熱が整う。
俺はキーボードから手を離し、祈りログのグラフを見た。
祈りは減り、レスが増える。だが、今ここには確かに“会話”がある。
77:信長:スレ主、疲れたろ
78:名無しの神:少しだけ
79:妲己:過去レス掘ろ? “黒歴史”ってやつ
80:ルシファー先輩:やめてください
古い海の失敗談、寿命のABテスト、——笑いと嘲り。
昔話はたいてい恥ずかしい。だが、みんなの声が温かい。
159:名無しの神:そろそろ閉じる。来てくれて、ありがとう。
165:名無し:スレ主、また立ててね。
静寂が戻る。今度は柔らかい。苔は水を含み、水は光を運ぶ。
光は、俺の仕事だ。
次回「妲己、爆誕。炎上は領土です♡」——火と踊る準備はいい?




