姫と予感
報せは、静かに届いた。
封蝋の色で、内容は察せられた。
急報でも、悲報でもない。
ただの、進捗だ。
それが、何よりも重かった。
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姫は、文を開く前に、少しだけ指を止めた。
理解してしまう自分を、
どこかで恐れていた。
だが、目を逸らすことはできない。
紙に記された文字は、簡潔だった。
暴動、鎮圧。
処断、完了。
被害、限定的。
その言葉の一つ一つが、
姫の中で別の意味を持つ。
限定的――
それは、選別された犠牲だ。
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姫は、深く息を吐いた。
これは、始まりではない。
途中だ。
女王は、すでに次を見ている。
そのことが、分かってしまった。
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女王は、恐れている。
だが、それは民を恐れているのではない。
自分自身を、恐れている。
優しさが、再び国を壊すことを。
それを、姫は知っていた。
誰よりも近くで見てきたからだ。
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幼い頃、
女王は決断の前に、必ず沈黙した。
「間違えたら、どうしよう」
そう言って、
姫の手を握った。
今、沈黙はない。
それが、
決断が終わっている証拠だった。
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姫は、報せの行間を読む。
女王は、もう迷っていない。
迷いを捨てたのではない。
迷いを、引き受けた。
その違いが分かることが、
姫を孤独にした。
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姫は、もう一つの名を知っていた。
民の間で、囁かれ始めた名前。
革命の「象徴」。
それが、
かつて王城を見上げていた、
あの少年であることを。
偶然ではない。
必然でもない。
ただ、
避けられなかった交点だった。
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姫は、二人の姿を重ねる。
国を守ろうとする女王。
民を守ろうとする少年。
どちらも、
同じ場所を見ている。
だが、立っている位置が違う。
理解してしまう。
だから、
どちらも、否定できない。
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夜、姫は灯りを落とした部屋で、
一人、座っていた。
祈りは、浮かばない。
願えば、
誰かの覚悟を否定することになる。
理解は、祈りを奪う。
残るのは、
見届けるという苦しみだけだった。
⸻
この戦いは、
善と悪の衝突ではない。
理解し合えない者同士の争いでもない。
――理解できてしまった者たちが、
それでも進まねばならない戦いだ。
その予感が、
姫の胸に、確かに灯った。
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姫は、目を閉じる。
もう、止められない。
止める言葉は、
最初から存在しなかった。
理解者は、
結末を知る役を与えられる。
それが、
この幕における、姫の役割だった。




