言説に統制される生き物
麒麟の語りはここで、彼の特殊性の原因でもある理性という装置へと戻ります。偶然的な精神的トラウマを通してしか彼のような自己欺瞞自己制御装置を形成することは難しく、ほとんどすべての人は、人間という生き物であるための必然として、事実よりも利害を優先して事実を認知し、正義よりも快楽を優先して正義を定義してしまう性質を、完全に超越することはできないだろうと言います。そしてそのために、利害を理性に感じさせる恐怖支配によって進んで迎合させることで、極めて大規模な力の構造として組織化できる、地上の生物のなかでも唯一の特殊性を持った存在が人間であったと、彼は言います。それは、人類が地上の生物の覇王となった理由すら、そもそも人類自身の幸福を目的とし幸福に適って起こったことだとは言えない現実を示していると、彼は言いました。それは、人類史全体についての、進歩の言説、優秀なものが勝利するという言説、生存したものが幸福であるという言説の一切を解体する規模の語りでした。
麒麟は、したがって、人類の言説という空間は閉じているのであり、それには外側があると言います。しかしその外側は、少なくとも現状において、自己欺瞞自己制御装置という装置を備えた者によってしか目撃できないだろうと言うのです。彼のその言葉には、誇示の態度はなく、むしろ、乾ききった悲しみの響きだけがありました。そして彼は、せめて、あなた達の言説には外側があるとだけは知っておいたほうがいいだろう、と呟きました。