6話
「さっさささっさー寒い…。
早く、早く中へ入ろう…風呂借りよう…」
クヴォジ城のヘリポートへ降り立った一行を最初に出迎えたのは凍えるじじいだった。
普段着で時速500Km前後のヘリに2時間はぶら下がっていたのだから、普通は寒いでは済まないはずなのだが。
1時間後、たっぷり暖まったジォガヘュと合流し、一行は指定された会議室へと向かう。
いよいよ会談の始まりである。
「ようこそ。
俺がシルバー世代で身障者でXジェンダーのクヴォジだ」
入室直後、待ち構えていた車椅子からの第一声。
威嚇だった。
最強と最強と最強を重ね合わせ創られる、天をも超えたまさに別次元からの挨拶だった。
並の悪魔ならこれを聞いただけで一切の抵抗を諦めてしまうだろう。
弱者礼讃社会という別次元には、現実の言葉は通用しないのだから。
「ご丁寧にどうも。
魔王ギヘカロバです」
「………………」
しかし相手は魔王。
並ではない。
意に介さず着席する。
社会を操作する側に社会的圧力は無意味だった。
「さて、会談を始める前に確認を。
先日ご連絡差し上げました通り、会談の様子はネットで生配信いたします。
政治の可視化のためです。
構いませんね?」
「無論だ。
逆に聞きたいくらいだよ。
世界に恥を晒して構わんのかとな」
クヴォジの返答を受け、唯一着席せずにいた秘書が三脚上の携帯端末を操作する。
同時、魔界中の野次馬たちの端末が会議室を映し出した。
「まず、魔界存続のため結婚・出産・育児を推奨し、同性婚への補助を終える、という私の意向は変わっておりません。
これにLGBTQの取り扱い全般を適宜変更していく事を付け加えます。
何か反論ありましたらどうぞ」
「反論も兼ね、先に性の多様性を理解してもらうべきだな。
性には性自認、性表現、性指向、身体性の4つの視点がある。
性自認は己の性をどう認識しているか。
本来言うまでもない事だが、これは単純な男女だけでなく中間があり、無があり、その時々で変化する者もいて魔それぞれ違う。
性指向は己がどの性に性欲を感じるか。
男だからといって女に欲情するとは限らないし、逆も然り。
そもそも欲情しない者もいればどちらに傾くか不安定な者もいる。
さらに性欲と恋愛ではまた別の指向という場合もある。
つまり性指向とは誰がどこを指向するかはそれぞれ違い、男女では決まらない事を示すための言葉と言える。
性表現は己の性をどう表現するか。
この言葉は、男を自認し女を好みながら女物扱いされる服や言葉を使いたいなど、自認や指向と食い違う表現をしたい悪魔の存在を示している。
これも当然その時々で変化する事は充分あり得るものだ。
どうかな?
理解できたかな?
性は男女ではっきり分けられるものではないのだ。
4つの視点があり、その中でも魔それぞれが違い、違いは日々変化し、定義さえも移ろうのだ。
これほど多様なものを切り捨てるような政策は論外だよ。
性が多様である以上、社会は多様を尊重し配慮していくべきだ。
違うかな?」
「違います。
そもそも性に4つの視点などありはしません。
誰がどう自認しようと何を表現しようと誰を好もうと身体性が男女のみである事実は変わりません。
性器や脳の形成に各々違いはあれどそれは男女の二極の範疇に過ぎず、男女と異なる別の性ではありません。
その二極の機能を正常に果たせないのであるなら、LGBTQとは男の成り損ないと女の成り損ないに過ぎないのです。
魔それぞれをやたらと強調されておりましたが、多様なのは成り損ないかたがそれぞれ違うからであって男女以外が存在するからではありません。
そして本来言うまでもない事ですが魔界という悪魔社会は異性愛によって成り立つものです。
悪魔は原則男女の組み合わせでなければ子供を作れないし、子供が産まれなければ社会は死ぬのですから。
よって社会が尊重すべきは異性愛であり、多様な成り損ないではないと考えます」
「黙って聞いていれば成り損ないだと…!?
侮辱にも程がある!
LGBTQは自らも意図せずして生まれたのだぞ!
たまたまこうなっただけの自然の産物だ!
これは悪魔という種がLGBTQを必要とし、作るべくして作った証左だろう!」
「最新の工場でも不良品は必ず出ますよ。
必ず出ますが、それはただの失敗です。
単なる生産ラインの技術的構造的限界です。
不良品は不良品。
あなたは溝の無いネジや割れたナットを正規品として出荷するつもりですか?
工場長失格です。
やはりクビですかね」
「重ね重ね…!
悪魔を部品に喩えるなどと!」
「では別の比喩を。
健康な悪魔でも1日約5000個の癌細胞が作られるそうです。
だからといって癌が正常なわけではありません。
社会にも必ず癌が生まれてきますので、免疫で排除しなくてはなりません」
「何も良くなってない!」
「ええ、良くないものを良くないと喩えているのですから当たり前でしょう。
それともLGBTQが癌じゃないとでも?
社会の栄養を使い社会の正常組織を圧迫し、その破壊活動を社会全体に転移浸潤させているじゃありませんか?
これでは現状LGBTQは社会の癌と言わざるを得ません」
「ええい…もう一度言う!
性は男女ではっきり分けられるものではない!
性はグラデーションなんだ!」
「もう一度言いますね。
性器や脳の形成に各々違いはあれどそれは男女の二極の範疇に過ぎません。
男女に分かれた中でのグラデーションに過ぎません。
である以上
『グラデーションだから男女で分けられない』
との理論は成立しません」
「黙れ!
マイノリティでないお前に何がわかる!」
「確かに私はマイノリティではありませんが、グラデーションの一部ではありますよ。
私とて全身が女らしさでできたフル女らしさ悪魔ではないんです。
男っぽい部分を多々持ちつつも身体性に従って女をやってるグラデーション悪魔です。
恐らくこの場の全員、いや魔界中の全員がグラデーション悪魔でしょう。
つまりLGBTQと男女は
『尊重されるべきグラデーションのマイノリティとそれ以外』
ではなく
『事実を無視する者と事実に従う者』
でしかありません。
グラデーションだから何?
全員そうですけど?
としか言いようがありません。
身体性が男女のみである事実は変わりませんので、事実を無視しないでください」
「それができない者もいるのだ!」
「語弊ある表現になったので補足します。
生きていくうえではっきり男をやれはっきり女をやれ、という意味ではありません。
悪魔とは男女のみの生物であると認識してくださいと言ってるんです。
わからないとかそれぞれとか時々で変わるとか馬鹿の言い訳にしがみつかず、現実を見てください。
しょうがないでしょう赤ちゃんじゃないんだから。
異性愛者なら思春期を終えるまでに済ませておく事ですよ?
その程度の事もできない未熟者はやはり成り損ないです」
「待て…ならばこういうのはどうだ?
ゲイの母方には多産の傾向がある。
研究によれば同性愛遺伝子が働きかけた結果だ。
子を増やそうというお前の政策と噛み合っているだろう。
これでも同性愛者を差別するか?」
「ゲイを推奨しないか?
という意味でしたら、はいしません。
社会に必要なのは多産でなく適切な数の出産だからです。
仮に多産を歓迎したとしても同性愛を推奨する理由にはなりません。
母が偉大だからといってニートの息子が偉大になるわけではないからです。
ニートにかけられるべきは尊重や配慮の言葉ではありません。
働け、です」
「お前というやつは…本当に頭が悪いな!
多様性への理解が全く進んでない!」
「話を聞いておられませんでしたか?
私はあなたの4つの視点に関する説明を聞き、理解したからこそその誤りと害を説明しているんですよ。
ここで『お前は馬鹿だ!』と評価を返したところで何の反論にもなっていません。
あなたがしなければならないのは
『お前の説明のここがこう間違っている!』という説明です。
『理解しているなら否定するわけがない。
だから否定する者は理解していない』
これは絶対的な正解側の言い草なので、私の誤を指摘できていないあなたに言う資格はありません。
さあ、反論をどうぞ」
「こいつ…!」
会談は始まって早々激しい舌戦となった。
魔王は相変わらず淡々と喋り、クヴォジは火薬庫の火災さながらだ。
外装の強度で持ちこたえているものの、中でバカスカ連鎖爆発を起こしているのは一目瞭然。
クガは立場的にも気質的にも発言不可能なので、え、えらいことや…と、ひたすら戦いている。
魔王の秘書は平然とカメラワークにこだわっている。
イヴァナカカは誰かに何とかしてほしかった。
一言皮肉って急所を突いた気分になるレスバ神拳ごっこは娯楽として好きだが、本気の論争なぞしたくも見たくもないのだ。
この世で最も厭悪していると言っていい。
誰か何とか…魔王以外の誰か…そうか!
ジォガヘュだ!
彼ならクヴォジと歳近くしかも旧友で、魔王に萎縮もしていない!
と、ジォガヘュの方を見ると、じじいは孫娘同然な魔王と旧友の喧嘩にあたふたしていた。
イヴァナカカはコップの水を眺めていようと決めた。
「魔王…お前のやろうとしているのは差別だ。
いかなる理由があろうと差別は許されん。
お前がどう宣巻こうがな!」
「私も差別には反対です」
「なに…?」
「あなた。
差別の意味を調べてください」
言われ、秘書がカメラ用とは別の端末を取り出して説明する。
「①差をつけてとり取りあつかうこと。
わけへだて。
正当な理由なく劣ったものとして不当に扱うこと。
②区別すること。
けじめ」
「性差別問題の場合は①の
『正当な理由なく劣ったものとして不当に扱うこと』の部分を差別と呼んでいる。
そうですね?」
「…ああ」
「異性愛者はLGBTQへの否定も反論も許されない、優越も性自認も性表現も性指向も制限される下位の存在として扱われています。
全てがLGBTQのためにある社会で生きる事を強いられています。
LGBTQ全体…というより、主にあなたのようなLGBTQの管理者や代表者によって、です。
社会の益となる正当な理由なく、成り損ないの分際で不当にも、です。
また話を聞いておられないかもしれませんので、一言にまとめましょう。
差別しているのはあなたですクヴォジ。
私は魔界の管理者として異性愛者への性差別を解消しなくてはなりません。
異性愛が普通で必要だと公認する事によって」
「なぜだ…なぜそこまでする?
なぜそうまで必死に弱者の権利を奪おうとする?
我々はただ普通に生きたいだけなのだぞ…」
「普通とは普通をやれてる者の特権です。
逮捕された万引き犯が
『普通に買い物したいだけなのに!』と喚いて得られるものではありません。
無免許運転した不良が
『普通のドライバーになりたいだけなのに!』と泣いて得られるものではありません。
社会を壊す存在を普通にしたら社会が壊れるからです。
普通を嘗めないでください」
「だから…!
理由はどうあれ普通を望む弱者に普通の権利を与えないのは不当な冷遇で差別だろうが!」
「社会を壊したがってる者に壊す権利を与えないのは不当ですか。
正直申し上げて、あなたを魔侯に就けた者を殴りたい気分です。
しかも理由はどうあれとは…4つの視点の持論といい、まるで無条件で全肯定される赤子気取りですね。
社会はあなたやLGBTQの子宮ではありませんので、理由なき肯定はしません。
非生産が主となるLGBTQを普通と認めない事には社会の益となる正当な理由があり、妥当な扱いになります。
区別ですね」
「いいか?
弱者だぞ?
弱いんだ。
誰かが助けてやらなきゃならない。
その誰かとは社会であるべきだ。
弱者が助かってこそ生きやすい社会だからだ。
違うか?」
「違いませんが、それは弱者だけのための答えですね。
社会に必要なのは社会全体のための答えです。
社会は壊れるまで弱者を助け続けるだけの使い捨てではありませんので、理由なき肯定はしません」
「フーーーーーーーーーッ………。
わからん。
改めて言う。
LGBTQは自然の産物だ。
LGBTQが実権を握る現状は成るべくして成った事だ。
時代の流れなのだ。
それを力で終えたからといって、本当にお前の望みが叶うと思うか?」
「生き証魔(注∶地球における証人)の証言を聞いてみましょう。
ジォガヘュ」
「ふわ?」
「あなたの若い頃…800年以上前の第一次大戦時、LGBTQはどうでしたか?」
「どうってなあ…そんな呼び名は無かったし…。
当時はごく一部が変態として潜んでおったくらいか」
「出生率はどうでしたか?」
「そんなもの計りようもなかったし計ってなかったと思うが…まあ、後で各国の軍を総計した数からすると、サクサク死ぬ以上にドカドカ産んどったんだろうな」
「原因は何でしたか?」
「乳繰り合うくらいしかやる事がなかったからだろう。
ネットが無いのはもちろん本すらもまともに無かった。
あとは結婚して子を生してこそ一丁前!
の時代だったのもある」
「当時は豊かでしたか?」
「聞かんでくれ。
飢えで死んだ奴らを思い出した」
「ありがとうございます。
さて…これらの証言を信じるなら、今の100倍悪魔がいてもLGBTQは少数派だったし、変態扱いで社会は成立していた。
結婚して子を生してこそ一丁前だと社会的に推奨されていれば経済と関係なくちゃんと産む。
この2つが言えるでしょう。
改革の可能性を信じるには充分と思えますが、あなたはどうです?
クヴォジ」
「くだらん。
古すぎて参考にもならんよ。
その程度でわざわざ俺の城まで来て時代の流れに逆らおうというのか…。
神をも恐れぬ愚か者だ」
「ちなみにですが、LGBTQ政策のほぼ全てがあなたの発案で行われた事、つまり流れとやらが時代による自然発生でなく、あなたの力で始まった自作自演な事ははっきりしていますよ。
記録を作って残しておく、それなりに新しい時代の話ですから。
お手元の資料の18ページをご覧いただければ一覧があります。
波風立てる存在が改めれば元の凪に戻る…この自然の流れに協力してはもらえませんか?」
「どこまで不寛容なんだお前は…。
どうして魔それぞれの考えがあると認められんのだ。
どうして魔それぞれの考えや立場を受け入れられんのだ。
お前のやり方は生きにく過ぎる、狂ってる…お前に魔王の資格は無い!」
やはりクヴォジも最後に頼るのは必殺の魔それぞれだった。
もはや他に自発できる言葉はなく、その手詰まりが会談の結論のようなものだった。
「私は好きなラーメン屋を尋ねているわけではないのですよ、クヴォジ。
この会談はそれぞれが感じた事を語ればいい好嫌の場ではありません。
魔界のためには何をすれば良いか、という問題に対して解答する正誤の場です。
1+1=それぞれ、は明確に誤です。
悪魔による正誤の場で誤が受け入れられないのは至極当然。
なぜなら正誤をそれぞれが勝手に決めたり変えたりすれば知的活動が成立せず、知的活動が成立しなければ知性が成立せず、知性が成立しなければ悪魔が成立しないからです。
知性無きはただの獣…魔獣ですから。
あなたが知的生物であるなら、正しい知に従う事でそれを証明してください」
「ふざけるな!
正誤とかぬかしたな!?
俺には俺の立場がある!
俺には俺の正義があるんだよ!」
「ええ、ですので魔侯として魔界のために働く立場に着いてください。
自分の生きやすさだけに腐心する赤子の立場には立たないでください。
『それぞれの立場に正義がある』は
『どの立場も等価値』や
『誰がどんな立場をとっても全肯定される』ではないし、先述しましたように魔界の立場はあなたを養育するためだけの子宮ではないのですから」
「お前のしつこさは異常だよ。
本当に本当にほんっとうに話が通じん!」
「あの…疑問なのですが、あなたは何が不満なのですか?
私は魔界を存続させようとしているのですよ?
LGBTQにとっても魔界の衰退や滅亡は自身の苦境と死に他ならないはず。
一致団結こそすれ、争う理由は無いと思うのですが」
「何をぬけぬけと!
癌だの免疫で排除するだの言ったのをもう忘れたか!」
「そこはちゃんと聞いておられたようで幸いです。
ですがその後『現状LGBTQは癌』とも言ったはずですよ。
現状です。
癌から改めてくれればそれでいいんですよ。
異性婚をし子を作り育ててくれとは言いません。
異性愛を不当に冷遇する、非生産を生産と等価値に置くなど、魔界の正常な代謝への妨害を辞めれば充分です。
これが許されないと?」
「考えが浅い!
もし異性愛者が普通になればどうなる?
LGBTQは普通未満になるだろうが!
その者らを誰も責めないというありえん仮定に基づいたとて、普通未満の立場は確実に生きにくいものとなる!
LGBTQは救われぬ弱者になってしまうぞ!」
「はあ。
事実に従った結果生きにくくなるとしたら、それは知性として避けてはならぬ生きにくさなのでは?」
「暴論だ!
生きやすくて何がおかしい!?
苦しむとわかっていて避けない事のどこが知性だ!?」
「生物の普通をやれていないLGBTQが普通の生きやすさを得るのは不合理ゆえにおかしいです。
非生産のLGBTQが普通になるのは生産を必要とする社会に有害で不合理ゆえにおかしいです。
普通でない害という事実を認め受け入れる事は現実を知る性質ゆえに知性です。
知性によって救われぬ結果となるなら、その悪魔は救われてはならないのです」
「付き合いきれん!
誰も取り残さない生きやすい社会のためには多様性の尊重が欠かせないんだよ!
お前の望み通りになった生きにくい魔界なぞ地獄も同然、破滅したほうがましだ!」
「どうも誤解しておられるようですが、私は『多様性を』尊重していますよ。
LGBTQが存在する多様な状態を否定してはいませんし、LGBTQへの私刑は厳しく取り締まっていきます。
私は多様の中の普通と必要を事実に基づき判断し、普通を隠さず偽らず公にし、必要を果たしていこうと呼びかけているに過ぎません。
多様性が既に尊重されている以上、あなたが求めているのは多様性以外のものです。
結果から逆算すれば、それは本来普通で必要とされるはずの異性愛者を普通未満に貶め生きにくくしたいという逆恨みによる復讐です。
普通でなくとも普通になりたいし必要な働き無しでも必要とされたいという暴君の情報統制です。
全体が衰亡し全員が取り残されてでも自分を楽にしたいという悪性腫瘍の独善です。
これら極悪を善の如く語るなど、知性に真っ向から挑む反知性です。
悪を悪として行うが誇りである悪魔の風上にも置けぬ邪悪。
あなたは逆恨みと独善で暴君が如く振る舞う反知性の邪悪な癌です。
魔界にとって不倶戴天の敵です。
魔界の王である私は対決しなければなりません」
「だったらどうする…?
この場で処刑するか?」
「いいえ、やめておきます。
まだ話し合いは始まったばかりですから。
いま言える事は1つです。
あなたが知的生物であるなら、正しい知に従う事でそれを証明してください。
近日中に再度会談の場を設けましょう。
従うか、抗うか。
その時までに答えを用意しておいてください。
もちろん私が言葉を失くすほど正しい知をあなたが導き出せるのであれば何の問題もありません。
その時は私があなたに従います」
ここは隙だった。
クヴォジはすかさず
『悪魔に知性などいらない。
魔界の存続を考える事自体悪魔失格だ。
魔獣と化して全てを喰らってこそ悪魔だ』と言うべきだった。
それなら『魔界のために悪魔として』から始まる魔王の持論は根底から覆った。
少なくとも抵抗の正当性は得られたのだ。
だが自分を尊重されるべき普通の悪魔としたいクヴォジに魔獣宣言は屈辱すぎた。
「…俺は絶対にお前を認めない…」
クヴォジには重々しく呪う事しかできなかった。
「やあやあこれでひとまずだな、うん!
おいクヴォジ!
久々に呑もうや!」
落着の雰囲気を察したジォガヘュがようやく元気になった。
「断る」
「えっあっあ、そう…」
すぐしょげた。
ともあれ長い長い会談は終わった。
『働きたくない!
働かない事を馬鹿にされたくもない!』
『邪魔だけはするな』
『うるせー!』
この四行に要約できる会談だった。