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18話


「クヴォジ処刑から3週間経ち、クヴォジ系企業が各地に造らせていた地下施設も確認された分は全て封鎖できました。

一連に関する民衆の反応もあらかた出揃ったと思います。

ここで一度魔侯のみなさんから質問、意見、感想を窺っておきたい」

再びの魔侯会議。

こうも短期間に連続するのは異例だ。

慣例を重んじぬ魔王の不躾であり、魔侯を頼る仲間意識の現れでもある。

円卓につく魔侯たちは忙しなさにぼやきつつも悪い気はしていない。

イヴァナカカ以外。

「まずサンシンから」

「ふむ…ギヘカロバさんは会談中

『知性が成立しなければ悪魔が成立しない』と仰っていましたが、もしや今後は賢きを重用されるおつもりで?」

「天才は求めていません。

最低でも事実と論理に基づく合理的な会話ができるようにしていきたいとは考えています。

底上げですね」

「ははあそれはなんとも、最低でも黒字を出せる興行くらい夢のあるお話ですな。

しかしあまり高度化されるとねえ…。

難解な説明不足に振り回されたい客が増えてしまいますと、わたくしとしては大変に肩身が狭い。

いやはは、ただの愚痴になってしまいました。

現状、特別物申したい事はございません」

「ジォガヘュは?

間近で見ていてどうでした?」

「孫娘のような女が働いてるのだ、どうしても甘めになるが…まあ、よくやっていると言っていいのではないか」

「ではムバジャー」

「頑張れ」

「モムビマ」

「うむ愛おしいぞ。

こっちに来やれ。

わっちの中に入れ」

「入れるものが無いので。

次、ネモヤ」

「毒をもって毒を制す。

いいんじゃねえの」

古くからの馴染みである五侯らは誰もクヴォジの処刑を咎めなかった。

暗殺未遂の非は言うに及ばず、そもそも管理者にふさわしくないと認識していたためだ。

「さて…イヴァナカカ。

考える時間は与えましたよ」

魔王の指名を受け、イヴァナカカは不敵に微笑む。

事前対策はバッチリだ。

こんな事もあろうかと、ネット上の1番グッときた魔王批判を一夜漬けしてきてある。

「魔王…貴公は拙速に過ぎる」

「はあ。

何がどう?」

「全部だ!

何事もだ!

処刑のような暴力が論外なのは当然として、少子化対策全体がだ!

魔口減少など今に始まった事でもなし、焦りすぎている!

結婚や出産などしたい者だけがすればいい!

まだ1億もの悪魔が生きている以上、貴公の幼稚な急ぎ方はまさに非現実的で反知性と言えよう!」

「幼稚な急ぎ方…なぜ私が焦っているか知りたいですか?」

「はっ、貴公が幼いから以外にあると言うのか?」

「本当に本当に本当〜に知りたいですか?」

「…う、うむ」

「ではここに立ってください」

なぜか先行して席を立ち円卓から少し離れた魔王が隣を指した。

話の流れ上カッコつけてつい頷いてしまったイヴァナカカは、何の気なしに指定の位置に立つ。

すると魔王の拳が鳩尾に埋まった。

「ごんぶえ!!!」

ショートアッパーで胃と肺の中身を一息に押し出されるイヴァナカカ。

そのくの字に曲がった背を肘落としが襲う。

「ぼぎゃっ!!!」

イヴァナカカは床に打ち倒された。

100センチの巨乳がクッションになったがクッションが痛い。

床からの衝撃が脂肪を鉛に変える魔法のようだ。

そして背中へ抜けていく衝撃に魔王の踵が蓋をした。

踏まれた背骨が乳の弾力と挟まれる。

「あ…ぎゃ…!げ…!」

イヴァナカカはもがく。

が、見えたのは脱出の兆しどころか死だった。

魔王の小さな足は抵抗を遥かに超える力でますます押し付けられていく。

圧力で肺が潰れ、まともに息もできない。

「さあどうぞ逃げてください」

頭上から魔王の言葉。

態度と裏腹だった。

踵は麺棒より容赦なく巨乳を平らかにしようと圧を増している。

「逃げないと殺します」

さらに容赦ない言葉が続いた。

焦るイヴァナカカはハチャメチャに暴れた…つもりで手足をわさわさ動かした。

魔王が虫嫌いなら精神的ダメージがあったかもしれないが、状況に改善は見られない。

そうやって無駄なあがきをする間に背骨がぎしりと泣き始める。

物質が変形の限界を伝える時の音だ。

当然痛みも激しいのだが、動けば動くほど踵はめり込んでいく。

イヴァナカカは絶対に脱出したいのに絶対に動きたくない矛盾に陥っていた。

「5、4、3、2、」

不吉極まるカウントダウン。

しかも速い。

「だっ゛…゛だずげで!゛!゛

や゛め゛でぐだざい゛!゛!゛」

ついにイヴァナカカは助命を嘆願した。

助けを外に求める以外何もできなかった。

「無理です。

…となったら、あなたは死んでましたよ」

魔王はあっさりと言い、あっさりと席へ戻った。

がに股で昆虫標本ばりに固まるイヴァナカカを残して。

「わかりましたか?

あなたは助けを求めましたが、魔界の外に助けはありません。

殺しに来る異次元からの寄生虫はいても味方は無く、内から立たせる以外ありません。

つまり自力で立てなくなったら二度と立ち直れません。

もう無理だと気付いた時にはもう無理なのです。

ですので魔界全体の対策というのは立って動ける間にしなくてはならないのです。

『自分たちには先の物事はほぼ読めない』

と客観視できる大悪魔であれば、前もって余裕をもって、自分で備えておくものでしょう。

『ギリギリまで遊んでて大丈夫、だって誰かがなんとかしてくれるから!』

などという子供の戯言を真に受ければ死にます。

正確に言えば私は急いでも焦ってもいないのですよ。

最低限やらなければならない合理をやっているだけです。

消えそうだから増やし、正当性なく魔界を滅ぼそうとする論外の暴力に論の外で対応したまで。

正しい結論から続く正しい行いより今の自分を優先する、魔界の管理者の立場に就きながら滅亡を傍観してきた裏切り者たちに代わり、本来とっくに始めておくべきだった最低限をやっているだけです。

そうですね?裏切り者のみなさん」

一気に議場の空気が冷える。

しかし誰も返せなかった。

クヴォジをふさわしくないと認識しつつ放置してきたのは事実だったからだ。

一応彼らも無策でいたわけではない。

本当に傍観一徹なら議場には脳味噌入りドローンが揃っていたはずである。

もしくは魔侯の女性比率が100%になり、ジォガヘュら男連中はその椅子をやらされていたろう。

裏切り者と評された魔侯らも一応…一応、力の流れを留める仕事はしてきていたのだ。

しかしその仕事はあまりに拙遅であり拙弱だった。

我欲に塗れる悪魔として素晴らしい事である。

「では本題に入りましょう」

イヴァナカカが倒れたまま会議は続いた。



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