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13話


結局イヴァナカカは魔王が、クガは秘書が背負って昇る事に。

最上階のバルコニーに着いた時、背負った2名はどちらも息を荒らげてさえいなかった。

「社会の先輩として教えてやる。

あまり早く着くのもマナー違反だぞ」

部屋奥からクヴォジの声。

最上階は玉座の間だった。

縦横に凄まじい広がりを持ち、絨毯はじめ照明、絵画、彫像など贅の限りを尽くした品が揃っている。

説明なしに魔王の玉座画像と見比べさせたら100名中100名がこっちを魔王の城だと思うだろう。

「すぐにでも来て欲しいと連絡がありましたので。

取り急ぎ駆けつけた次第です」

嫌味で返す魔王。

玉座の間にはマシンガンを構える重臣たちもおり、既にその全ての銃口を向けられていたが、魔王は微笑みながら言葉を続けた。

「いえ…念の為確認させてください。

あの素晴らしい目覚ましを送ったのはあなたですか?」

「ああ。

目覚ましか、悪くない表現だ。

わからず屋のお前を平等の境地に覚醒させる策だったからな。

こちらも確認させてくれ。

なぜ生きてる?」

「あなたの日頃の行いでしょう」

クヴォジの素行を見、魔王グループホテルに爆撃対策の必要を感じた者が存在するという意味の言葉である。

見当をつけるのは容易かった。

「シュワルツが何か用意したか。

ひ弱な昼行灯かと思いきや、意外と食わせ者だ」

「初めて意見の一致をみましたが、残念ながら話し合いの時期は過ぎました。

いえ、話し合いにならぬ事を誤魔化しきれなくなりました。

魔王の名の元に、反逆者クヴォジを処刑します」

宣言とともにジォガヘュが前に出、魔王の横へ並ぶ。

秘書は対決の様子をベストアングルに納めようと携帯端末のカメラを向ける。

イヴァナカカとクガはバルコニーの端ギリギリまで下がり、どちらからともなく肩を寄せ合っていた。

一触即発。

しかしクヴォジはまだ喋り足りなかった。

喋りたいのだから喋らせるべきだと心底信じ切り、口を開く。

「まあ待て。

言われた通り、お前が言葉を失くすほど正しい知というものを見せてやる」

クヴォジが言うと、通路からドローンがゆっくり入ってくる。

ドローンの本体上部はガラス円柱で、中にはコポコポ泡立つ液体と、悪魔の脳味噌が浮かんでいる。

戦闘用ではない。

いや、何用でもなかった。

何かの用に足るものではあり得なかった。

それは培養液に浸かった脳をただ生かしただ運んでくるためだけの、タイヤ付きシリンダーだった。

「なんですか?それは」

さすがの魔王も訝しむ。

脳組織はお世辞にも気持ちの良い見世物とは言えない。

培養液ごしで緑の蛍光色に彩られたなら尚更である。

とりあえずこれだけ見て正しい知と判断できる代物ではない。

クヴォジ以外には。

「なんだとは冷たいじゃないか?

フフフフハッ!

今日挨拶したばかりの相手だぞ!?

忘れるなんて社会魔失格だぞ!?

ええ!?」

今日挨拶したばかり。

思い当たるのは1名だけだった。

「…カイフシア!?」

「そぉうだよその…なんとか言う有象無象だよ。

何を企んでいたのか知らんが、改めて頼んでみたらどうだね?」

「…………生きて、いるのですか…」

「話を聞いていなかったのかな?

言葉を失くすほど正しい知を見せると言ったはずだが。

それがこの姿だよ。

どうだ…弱いだろう?

こいつはもう何もできない。

見れない。

嗅げない。

聞こえない。

触れない。

動けない。

喋れない。

この糸みたいな所を弄るか、本体に電気を流すかしてやれば、何かは感じるらしいがな。

まあどうでもいい。

誰かに尊重してもらわなきゃ生きていけない事に変わりはない。

外へ放り出されるかドローンの電源を落とされるか、それだけで簡単に死ぬ。

どうだ…素晴らしいじゃないか?

こいつを生かしておくという事は、悪魔が尊重の心を持つという事だ。

それこそ理想的な目指すべき社会じゃないか?

何より素晴らしいのは、誰でもこの姿になり得るという普遍性だよ。

空洞に等しいお前の頭でも開ければ何かしらは入っているだろう。

そう…悪魔たち全てが!

この姿になれば!

平等を実現できる!

何もできなくなれば老若、男女、強弱、多寡、美醜…あらゆる差の認識が失われ差別が消える!

誰もが尊重される誰も取り残さない社会の完成だ!

フハハハハハッ!」

「まさか悪魔を拉致したのは…」

「無論、尊重し配慮するためだ。

地下のラボは先進的な未来への架け橋と言えるだろう。

ここをモデルケースとして完成させ、ゆくゆくは魔界全土に同様の施設を作る計画だったのだが…10年早い無礼な小娘のせいでめちゃくちゃだよ」

この時確かに魔王は言葉を失くしていた。

バーカ死ねと一言吐き捨てて済ませられる真っ当な悪魔でない彼女は、どこへ何を返すか探すのに手間取っていた。

対照的に真っ当な悪魔と呼ぶにふさわしいクヴォジはご満悦だった。

悪魔が相手を黙らせたという事は、即ち論破したという事なのだから。

「…あなたはその誰も取り残さない社会を誰に尊重してもらうつもりですか?」

魔王が絞り出すと、やれやれそんな事もわからないのかと嘲りをこめた返事が返される。

「ドローンにやらせればいい。

お前もここへ来るまで体験したはずだ、ドローンの力を。

機械が発展した今、差別に繋がる悪魔の労働は終わらせる時が来たのだ」

「それはもはやドローンの社会です。

悪魔にとっては文字通り何もできない無明の闇です」

「山頂の勝者に追いつきたくば山を消し去ってしまえばいい。

地上の光が妬ましくば大地を消し去ってしまえばいい。

跡には平等な闇が広がるであろう。

無明の闇?だからどうした。

だから何だ。

差別を浮き彫る光なぞ、それこそ有害無益!

神の与え給うた平等を闇が実現できるなら、悪魔は闇に抱かれるべきなのだ!」

右の義腕と左腕をそれぞれ広げ語るクヴォジ。

魔王の横でジォガヘュはただただ悲しげにしていた。

枯れて色褪せた花を惜しむように、沈む夕陽を悼むように、ただ物事の無常を悲しんでいた。

そこへ枯れ花が毒液を浴びせていく。

「ジォガヘュ。

お優しいお前の事だ。

この弱者を守りたかろう?

取りに来るといい。

そら」

義腕が車椅子の手すりから操作すると、カイフシアの脳を運ぶドローンが動き…部屋の中央で不自然に止まる。

そこに立って欲しいとあからさまに要求していた。

あまりに陳腐な、陳腐だからこそ悪質な、旧友に頼りきった罠だった。

「駄目です…ジォガヘュ」

魔王は止めた。

しかしジォガヘュは全財産をコイン1枚に替えたギャンブラーの動きで近づいていき…ドローンごと床の穴に落ちていった。

ドローンの横にきた瞬間大きく開いた床の穴へと…。

クヴォジが勝ち誇る。

「クハハハハッ!

やはり下手な仕掛けより情が効いたか!

そうだ、それでこそだよ友よ!

備えていたのはシュワルツだけではない。

俺も1番厄介な奴を落とす準備をしていたのさ。

あの穴は特注でね、内壁は電流が仕込まれ、高度10メートル間隔で格子状のレーザーネットが組まれ、落ちた先には毒ガス」


ドバァン!!!!!


クヴォジの説明中、先程は下向きに開いた穴が今度は上向きに破れ、破った何かは勢いそのまま天井を貫いていった。


バグァン!!!!!


直後、天井に別の穴が穿たれる。

その下に、シリンダーを抱えた大男が立っていた。

「礼 を 言 わ ね ば な る ま い…」

大男の声。

彼の声は全員を混乱に陥れた。

言葉の意味は穏やかなのに、自分の命の終わりが語りかけているとしか思えないのだ。

声に籠められているのは殺意などという貧弱な感覚ではない…死の運命の重圧だ。

「久しぶりに…笑って武器を振れるぞ!!」

大男の手には金棒が握られていた。






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