愛する国王の処刑を見届けた王妃は、その結末をひっくり返す
国王ラグナスが、最後まで前向きな王妃エレノーラに見届けられながら、王弟に処刑されるまでのお話です。
これは、あなたの力で逆転ハッピーエンドになる物語です。
ぜひ最後までお読みください。
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「それならば、お望み通りハッピーエンドにしてやろう。ーーーー大好きだよ、エレノーラ」
王妃エレノーラの夫である国王ラグナスは、絶対にこんな台詞を言わないはずだった。
◇
「私は、絶対にハッピーエンドしか許せない!」
それは、三度の飯より小説大好きなエレノーラが、バッドエンドの物語を読む度に叫んでいた口癖だ。
前向きだけが取り柄ともいえる彼女は、目を瞑って考える。
(……これは、ハッピーエンドだと言える?)
どうだろうか。この状況は。
断頭台の上に並ぶのは、国王ラグナスと王妃エレノーラである。
二人とも、断頭台にいるとは思えない堂々とした佇まいだ。
国民の声が耳に届く。
「国王陛下、王妃殿下……!」
民衆が、二人を見上げて大声で叫んでいる。
空には雲ひとつなく、からりと晴れ渡っているし、まるで今から何かの式典セレモニーが始まるかのようだ。
(でも……そんなことは、もう関係ない)
今日はーーーー王妃エレノーラの立ち会いのもと、国王ラグナスが処刑されてしまう日なのだ。
(きっと、本来ならば……)
これから、エレノーラは痛いほどラグナスに愛されるのだろう。
結婚当初のそんな考えは、あまりに馬鹿げていたのかもしれない。
ラグナスは、決してエレノーラに愛の言葉を囁いてくれることはないのだ。
二年前の婚姻は、隣国の王女だったエレノーラが、ラグナスに一目惚れをして、半ば無理やり結んだものだったから。
「ラグナス様、さいごに『大好き』って言ってくださいませんか?」
今日くらいは許されるんじゃないか、とエレノーラは、少々緊張した面持ちで告げてみる。
ラグナスを見遣れば、エレノーラのその言葉を心底否定したそうな表情である。
「……は?」
「ラグナス様は、私が行け行け押せ押せで、無理を通したから、仕方なーく、結婚されたのですよね?」
「当たり前だ。むしろ、結婚したことに、それ以外の理由があるのか?」
「じゃあ、ラグナス様は、そんな私と一緒に居たくて堪らなかったってことですね!」
「エレノーラ、君の異常なほど前向きなところは、心底尊敬しているよ」
ラグナスは続ける。
「こんな負の連鎖の生活も、今日で終わりなんだな」
ラグナスとエレノーラは、まだ若い。
先の未来は明るいはずだ。
けれど。
ラグナスとエレノーラは、王弟ノヴァの策略に嵌り、地下牢に閉じ込められていた。
先代が病気で倒れてから、ラグナスは慌てて即位したため、二人を取り巻く政治的基盤が不安定だったことが災いして。
正真正銘、今日ですべてが終わるのだ。
(この人を処刑することによって……)
目の前のラグナスは、自分を陥れた王弟ノヴァに軽蔑するような眼差しを注いだ。
ノヴァは、恨めしそうな目でラグナスを見つめ返す。
「ふん、愚か者の兄貴だな」
「人を陥れておいて、まだ偉そうに吠えるか」
国王ラグナスは、諌めるように言葉を告げるけれども。
当然ながら、彼は騎士に取り囲まれ、そのまま、ぐっと縛り上げられる。
全ての権力を握るために、国王の腹違いの弟であるノヴァは、冤罪をでっち上げたのだ。
相変わらず、ぺらぺらとノヴァは偉そうに喋っている。
その言葉に、ラグナスは溜息をついた。
「……間違っているのは、お前だ」
「遺言は、それだけか?」
「……こんなはずじゃなかったのに」
そんなことを言うラグナスに対して、王弟ノヴァは、睨みながら告げるのだ。
「お前は、もう終わりだ」
ラグナスは、ゆっくりとノヴァに向き直った。
「それなら、俺はこの運命を受け入れようと思う、だから」
そう言った国王ラグナスに、王妃エレノーラは少し不本意な顔をしたけれども、彼は相変わらず爽やかで、うっとりするほど美しい笑顔を浮かべるのだ。
まるで、絵本の中の王子様みたいだな、と笑う。
「君はーーーー……」
彼は、唐突に驚いたように目を見開いた。
エレノーラが、唐突にラグナスの手をぎゅっと強く握ったから。
「ラグナス様、絶対に私が貴方を助けますから!」
すると、ラグナスの周りを取り囲んでいた騎士がざわめいた。
エレノーラは、使用人たちに協力してもらい、こそこそと集めていた王弟の不正の証拠を突き出すのだ。
「これが、ノヴァ殿下が陛下を陥れた証拠です!」
「うるさい! そんなの勝手にお前が言っているだけだろう!」
いくらノヴァに否定されようが、この声が届くと信じて、エレノーラは大声で叫ぶのだ。
「……違う!」
「いいや、兄は罪を犯した」
その声に、民衆が同意して叫んだ。
「そうだ、そうだー!」
「…………ラグナス様は、無罪です!」
それでも、エレノーラは、叫んだ。
声を振り絞れば、きっとその声は誰かに届くのだ、なんて理想論なのかもしれない。
(ありえないんだわ。そんなこと……)
どの王族よりも背筋が伸びていて、麗しい態度を崩さない国王ラグナスが、両手を縛られて連行されていく。
一見冷たく見えても、誰よりも優しくて、エレノーラを最期まで心配そうに見つめているのに。
『大好き』を告げてくれないのも、エレノーラを巻き添えにしないためだったのに。
きっと、こんな処刑を受け入れたのも。
「ーーーーそんなの、嘘だ……!」
「君のことなんて、一度も好きだと思ったことはなかったよ。エレノーラ」
「ラグナス様!」
そんな結末は、許せない。
断頭台が落ち、がしゃん、と残酷な音が鳴り響く。
すると、唐突に、ぐるり、とエレノーラの視界が回り、酒に酔ったときのように、気分が悪くなりそうになる。
彼女がぼそり、と呟く。
「……私、こんなバッドエンドは許せない」
きっと、バッドエンドだって、逆転してハッピーエンドにしてくれるはずなのだ。
そう。
この世に、ハッピーエンドの神様がいるならば。
「だって、私はまだラグナス様に『大好きだ』って言われてないんだもの」
エレノーラは、俯いた顔を上げた。
ここまで、お読みいただいたあなたへ。
文章を下から上へ読んで、ハッピーエンドの神様になってあげてください。(※二行になっているところは、かたまりごとに読んでください)
このバッドエンドが逆転ハッピーエンドになります。